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私と同乗していた男は護衛に縛られ、少し離れた所で地面に転がっている。
サルファーとマリウスに挟まれて木の根元に座った。
サルファーは立って遠くを見てるけれど、マリウスはすぐ横で跪くように座っている。
……見ると優しく微笑まれる。
顔が赤いかもしれないわ。この非常時に私って……!
「やっと騎士が来たな」
サルファーの言葉に来た道を見ると、遠くから数人馬でやってくる。途中で落ちている何かを確認して……あれ、落馬した方たちかしら?
「あの人たち、生きてますの…?」
「逃げないように足の腱斬っといた時は皆生きてたぞ?」
「あら……」
サルファーが思っていたより容赦なかった。もしかして倒れている人全員切られているの?
「私、どうやら人違いで連れて来られたみたいだけれど、彼らは誰が目的だったのかしら」
サルファーを見上げながら言う。
「人違い?」
「服装が同じだったみたい」
「……あのあたりで服装が同じ女って、ひとりしか思いつかないんだが」
「それは……知り合いの中では、というお話でしょう。分からないわ」
「まあ、その辺は騎士が聞き出すだろ」
騎士が馬から降りて近付いて来たところでマリウスは立ち上がり礼をした。
マリウスって誰に対しても丁寧なのね。好きだわ。
つい見つめていると視線に気付いたのか「大丈夫ですか?」と言って腰を曲げて視線を合わせてきた。
つい見ちゃうだけなんですけど……!
あ、そういえばちゃんとお礼言ってなかった。
「コントルシー様、助けていただきありがとうございます」
慌てて立ち上がりマリウスに向き合う。
「腕の怪我は大丈夫ですか?」
「ちょっと痛みますけれど、問題ございませんわ」
「しかしお前、どうやって落馬させてったんだ? 剣持ってねぇだろ」
サルファーがじろじろとマリウスを見る。そうね。マリウス手ぶらだわ。
「この前飲んだ時に君が『山賊と戦った時に鞭で戦った』と言ってたから真似してみたんだけど」
「あれは……落馬まではさせてねぇよ」
「じゃあ僕の勝ちだね」
「勝ちってなんだよ負けてねぇよ」
このふたり、なんか仲良しだと思ったら飲みに行ってるのね。
というかマリウス、今「僕」って言った!? いつも「私」なのに! いいなぁサルファー。私も仲良く気安く気軽にお喋りしたい!
サルファーが騎士に説明し始めた。私とマリウスは邪魔をしないように少し離れた所で待機だ。
この場で一番地位が高いのは辺境伯のサルファーなので、彼が取り仕切ることとなる。
人気のない道なので、馬も自由にさせていた。よくしつけされているので勝手に遠くに行ったりはしない。
マリウスは寄って来た自分の馬を撫でていた。
馬の方から寄ってくるなんて、すごく懐いているのね。
マリウスは私に気付くとにこりと笑った。む、むやみに笑いかけないで欲しいんだけど……
「素敵な馬ですわね。コントルシー様の馬ですの?」
ちょっと緊張して声が震えてしまった。
「はい。最近はどこへ行くにも彼にお願いしています」
オスなのね。
「コントルシー領には牧場がありますのね。畜産も……たしか農業も盛んでしたわよね」
「ご存知でしたか。光栄です」
馬が近付いて来たので撫でる。人懐っこいわこの子。可愛い。
「乗ってみますか?」
「え!?」
マリウスは一瞬で馬に乗ると、私に手を差し出した。
一緒に乗るの!?
乗馬は貴族の嗜みとして経験はある。今日の服なら少々はしたないが跨ることは可能だ。
サルファーを見るとまだ騎士と話していた。
まあ、暇つぶしに跨るくらいなら、いいわよね。
ドキドキしながらマリウスの手を取り、鐙に足を乗せスカートをつまむ。
次の瞬間手を引かれ、いつの間にか馬に横座りしていた。
何!? 魔法!? マリウス近い!!
マリウスの胸のあたりに私の頭がある。少し上を向けばすぐマリウスの顔だ。近い近い!
どうしていいか分からず固まってしまうと、馬は勝手に数歩歩いてからこちらを見た。
「どうだって言ってます」
マリウスが楽しそうに笑った。私もつられて笑う。
「まるで言葉が分かるみたいですわ。なんてお名前なの?」
「ゲイルといいます。自他共に認める足の速さです」
「毛並みも美しいのに疾風のようだなんて素敵ですわ!」
馬は少し嬉しそうに足踏みをした。本当に言葉が分かるのかしら?
「メロー、マリウス、ちょうどいいからそのまま帰るぞ」
サルファーがいつの間にか自分の馬に乗っていた。
「後は騎士の仕事で、俺らは報告を聞くだけだ。早く戻んねぇとマリアが心配しすぎで発狂すっぞ」
マリアを早く安心させたい気持ちはあるけど、このまま馬に乗って行くのは難しいかも。
実は横座りで乗ったことってないのよね。いつも普通に跨っていたし。
マリウスを見ると優しく微笑まれる。うう。
「マリウス、一度教会に戻るぞ」
「分かった」
男二人でそう会話してそのまま馬は歩きだした。
私は思わずマリウスにしがみついてしまう。
「し、失礼を」
「いえ、教会まではそれほど距離がないのでご安心ください」
そういう心配はしてないわね!
こう密着しても全く意識されてないって、結構ショックね……
私はしがみついたまま大人しくしていることにした。
「よし、マリウス。何か面白い話をしろ」
しばらく三人とも無言で馬を歩かせていたけれど、サルファーが突然そう言った。
「面白い話?」
「何かあっだろ、空を飛んだとか海に沈んだとか」
「この季節に素潜りはしないかな」
「そういう話じゃない」
本当に仲いいわね。思わずサルファーを半眼で見てしまう。
私もマリウスに気さくに気安くタメ語で話しかけられたいし話しかけたいわ。
「ああでも、先日、植物園に薔薇を納品したのですが」
私にも聞かせるためだろう、敬語になってしまった。
「植物園って西地区のでっかいやつか?」
「そう。五十株注文を受けて領地から生産者自ら運んで定植に参加したのだけれど」
農業が盛んだとは知っているけれど園芸もやってるのね。すごいわねコントルシー領。
「発表前の新種の薔薇が二株混ざってたみたいなんですよね」
「え」
「は?」
「生産者もどこに植えたのか分からないし植物園の管理者も気付いていないから、新種の薔薇が誰にも知られずに植物園に植えられているというお話」
「あら!」
「面白いけど面白くねーよ! しっかり管理しろよ」
「その後すぐに新種の薔薇を発表したから、まあいいかなと」
「でも新種ってことは珍しい薔薇ということですわよね。誰も気付かないなんてことがあるのでしょうか?」
「咲いている間は誰も気付きません。夕焼けみたいなオレンジ色の薔薇なのですが、散る時に花びらの色が赤くなるのです」
「あら!」
「なんだそりゃ!?」
オレンジの薔薇の根元に赤い花びらが散っているという不思議な光景を見られるその薔薇は、どのようにして作られたかはマリウスにも知らされず、園芸農家だけが知っているらしい。
「散るところを見ない限りその新種かどうか分かりませんのね」
「本来は鉢植えで一株ずつ販売するものなので、植物園に植えるのは想定外なのです」
「それでは宝さがしみたいですわね」
「行ってみますか?」
「え?」
「宝さがしに」
視界の隅でサルファーがニヤニヤしているのが見えて、デートに誘われているのだと気付いた。
この物語はフィクションでファンタジーでご都合主義なので、なぜか二人乗りが出来ます。
鞍どうなってんだろう。多分マリウスのおしりはひどいことになってます。




