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39 帰宅

 すみません、ちょっと推敲が甘いです。後日見直します。


 この世界の「騎士」は警察と軍を足した感じの存在です。


 さすがに悲鳴には男二人もぎょっとした顔をした。


「ルビーさんじゃないかしら」

 私はふたりを交互に見て言う。

 かしら、と言いつつもルビーだと確信していた。間違いないだろう。イベントが発生しているのだ。

 このままではルビーが危ない。

 マリウスが呼びに行かなくてもジャスパーが駆け付ける可能性もあるかしら。

 分からない。


「助けに」

「俺が見て来るわ。メロー、お前はマリウスといろ」

 サルファーがそう言って声のした方に走っていった。護衛もそれを追う。

 サルファーも剣の腕は良い。ちょっとは安心だ。

 

 ……

 またマリウスとふたりになってしまったけれど。


「エメラルド様はこの後何かご用事がございますか?」

 マリウスが優しい声で訊いてくる。

「特にございませんわ」

「では、せっかくお会いできたのに残念ですが、帰られた方がいいかもしれません。面倒なことになる予感がします」

「面倒なこと?」

「ルビーは無事でしょう。あの子自体、喧嘩が強いのでこの辺りではひとりで出歩いていても問題ございません。ただ、倒された方が通りがかりに憂さ晴らしする可能性はあります」

「帰りましょう、エメラルド様!」


 マリウスの言葉に答えたのはマリアだった。

「護衛もいるし慌てる必要はないと思うけど。まだ明るいし」

「サルファー様がいるのといないのとでは状況が変わってまいります」

「そうかしら?」

「あの黒くてでかいのは牽制けんせいになります。コントルシー様、申し訳ございませんけれど、馬車まで送って頂いてよろしいですか」

「もちろんです」

 マリアとマリウスで話が決まってしまい、マリウスに手を取られエスコートされる形で馬車へ向かう。


 マリウスの腕にかけられた自分の腕を意識してしまう。

 こんな時だからそんな気分になっている状況じゃないのだけれども!

 この前クレア夫人の夜会で会った時は触れるなんて夢のまた夢だったのに…!


「大丈夫ですよ。大通りではさすがに悪いことはしないでしょう」

 震えているのを怖がっていると思ったのだろう、マリウスが微笑んでこちらを見る。

 なんだか申し訳ない気持ちになるわ。

 罪悪感をごまかすために話しかける。

「ルビーさんは喧嘩がお強いのですか?」

「子供の頃からお転婆少女でしたから」

「嫌われているだなんてご冗談を言える仲なのですね」

「嫌われているのは確かです。ただ、彼女は私の命の恩人なのです」

「命の」

「出会ってすぐの事です。嵐の中、川に落ちたのを彼女が見つけてくれました。嵐の中見捨てることもできたのにそれをしなかったことに感謝しているのです。あの時は本当に、子供ながらに死を覚悟したものですから」


 死、という言葉に私はぞくりと震える。

「すみません、怖がらせてしまいましたね。ここは大丈夫ですよ」

 そっと私の手を撫でてくれた。震えが止まる。


「死ぬのは……嫌ですわ。こちらこそ嫌なことを思い出させて申し訳ございません」

 謝るとマリウスは優しく微笑んでくれた。それを見て温かい気持ちになる。

 私は自分が死んだときのことを覚えている。

 あの痛みを。

 あの恐怖を。

 マリウスのおかげで泣きださずにすんでいた。


 馬車までは大した距離じゃない。

 マリアと一緒に馬車に乗り込みマリウスに見送られる。

「エメラルド様、次に会う時は笑顔になれる話をいたしましょう」

「お会いできるのを楽しみにしていますわ」

 マリウスは馬車が見えなくなるまで見送ってくれていた。


「コントルシー様、お優しい方ですね」

 マリアが馬車の中のクッションの位置を直しながら言う。

 怪我をかばうために大量に詰め込まれたクッションは馬車の振動を和らげてくれるけれども、さすがに多すぎて居心地よくするには工夫がいる。

 向かいの座席に座った護衛はクッションを邪魔そうに横に避けていた。

 馬車の中には私とマリアと護衛一人。もう一人の護衛は御者と一緒に御者台にいる。


「エメラルド様といい雰囲気でしたね」

「え!? そ、そうかしら?」

 突然の話題に思わずクッションを掴む。

「クルジット様が大声を上げた時もちらりと振り向いただけでエメラルド様を見つめていましたし、子供が走ってきた時も、ただ庇うのではなく左腕が当たらないように庇っていました。左腕のことは申し上げていないのに、姿を見て察してくださったのですよ。よく見ていらっしゃいます。一度お茶会にでもお呼びしてみてはいかがですか?」

「前にもそんなこと言ってたわね」

「前はお近付きになるため、今回はより親密になるため、と意味が違います」

「しんみつ」

「タレンヴァインのお詫びとして公爵家にお招きしては?」

「お、お父様がすでにお詫びの品を送っているわ」

「エメラルド様個人的にお礼をしても問題ございません」

 確かに。公爵家としてではなく私からお詫びがしたいという気持ちはある。

 でも呼ぶとなると、まだ勇気がいるわね。


 ため息をつきながら馬車のカーテンを半分開ける。

 天気は良く、町の人々は楽しそうだ。

 大通りから外れて公爵家へと向かう横道に入った所だった。


「サルファーは大丈夫かしら」

「剣の腕はジェダイト様に及ばないものの、かなりのものですから大丈夫かと」

「そうじゃなくて、ルビーと仲良くできるかしら」

「無理ですね」

 マリアはきっぱりと言い切った。

 そうよね、嫌そうにしてたものね。

 なんだか面倒ごとを押し付けたみたいで申し訳ない。


 ため息をつきつつカーテンを閉める。

 その時、馬車が揺れて止まった。


「何かしら?」

 まだ公爵家にはつかないはずだ。

「エメラルド様、動かずお静かに」

 再びカーテンを開けようとしたのをマリアに止められる。


 疑問に思うまでもなく、外から言い争う声が聞こえた。

 護衛も腰を浮かせて馬車の入口に張り付く。

 馬車が揺れ、何かがぶつかる音が聞こえた。

 もしかして、戦ってるの!?


 ガタガタと馬車のドアを開けようとする音に悲鳴を上げそうになった。

 ドアの音はすぐに止んだけれど、心臓はあり得ないくらい早く脈打っている。

 護衛がドアノブに手をかけ、一度マリアを振り返ってからドアを開けて外に出た。

 ドアはすぐに閉められる。マリアは急いで鍵を閉めた。


「な、何が起こっているの?」

 小声でマリアに問う。

「分かりません。戦っているのは確かです」

「こんな街中で?」

「広場で祭りに人が集まっています。こちらの道はいつもより人通りがありません」

 そんなことってあるの!?

「それでも騒ぎを聞きつけて騎士が助けに来るはずです。時間が稼げれば……」


 マリアが私をかばうように立ち上がった時、大きな音と共にドアが壊された。


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