36 ジャスパー 教会
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*人物メモ*
ジャスパー:王太子。仕事は完璧だけど恋愛ではヘタレのご様子。
ジョリ:ジャスパーの補佐官。
エメラルド:公爵令嬢。ジャスパーの婚約者(破棄手続中)愛称はメロー。
ジェダイト:エメラルドの兄。「王国最強の護符」と言われるほど剣技に長ける。騎士じゃないのに。
ルビー:平民から伯爵令嬢になった少女。エメラルドにはジャスパーが好きと言っていた。
サルファー:辺境伯。ジャスパーやエメラルドの幼馴染。服装は黒い。
公爵:エメラルドとジェダイトの父。王弟。ドS。
大陸からの外交官がやってくる前日、教会に行ってみることにした。
城下町で貴族が行く教会はひとつしかない。
前もって連絡して落ち合えないかと手紙を送ったが、エメラルドからの返事がなかった。
エメラルドが返事を書かないことはないだろう。貴族令嬢への手紙は基本的に検閲されてから本人に渡される。公爵に止められてエメラルドには手紙が渡っていない可能性が高い。
公爵には会っていないが、俺が良く思われていないのは分かっていた。
時間は護衛とジョリを連れて視察という名目で作った。
こんな時に何の目的の視察かと突っ込まれるととても困るのだが、誰にも咎められることなく外出できた。
と言っても移動時間を含めてたった一時間だ。
会えたとしてもお茶を飲む時間すらない。それでも…
せめて、顔が見たい。
教会までは馬車で行き、目立たない様少し離れたところに止めて歩いて教会に向かう。
貴族と平民どちらも出入り自由の教会だ。
敷地は低い塀で囲まれ、教会の入り口前は、ちょっとした集会が出来るような芝生の広場がある。小さな花壇があり、広さは馬車が三台止まれるかどうかといった程度の狭さだ。
そんな花壇の手入れをしていた人物は、見知った奴だった。
「殿下…!?」
「静かに。ジェダイト、なぜここに?」
騒がれたくないので敷地の端に移動した。
エメラルドの兄、ジェダイトだ。
公爵から叱責され公爵家の別館に今は住んでいると聞いているが、なぜ教会に。
「父から、しばらく教会内で仕事をするように命じられ通っているのです」
「教会内の仕事? まさか庭師ではあるまい」
ジェダイトは剣技に長けた男だ。庭師の才能があるとは思えない。
「こちらはついでです。父からは孤児院の庭に塀を作り…」
力仕事だった。
「作った塀を一度壊し」
「は?」
「もう一度作ってまた壊し、もう一度作れと命じられております」
「は??」
作って壊し、また作る??
気が触れたのか?
「そんな目で見ないでください。父の嫌がらせです」
「嫌がらせ」
「公爵家ではよくあることなのです」
「よくある」
「そんな目で見ないでください」
心底嫌そうな顔をしている。
公爵はなんというか……恐ろしい……
「殿下は何故ここに?」
小声で訊かれるがすでに目立っていて敷地内の数人がチラチラと見ていた。
「メローに会えないかと思って来たのだが、何か聞いているか?」
「教会に届け物をしに来ると聞いていますが、私は会わないようにと言われています」
「それは…」
言いかけた時、ジョリが袖を引いて来た。何だ?
「ジャスパー様! いらしてたんですね!」
ルビーだった。ため息が堪えられなかった。
教会内にいたらしい。小走りに近付いてきて礼をする。
「エメラルド様に会いに来られたのですね! 私もエメラルド様に謝りたいと思って来たんです。最近エメラルド様、お屋敷から出ないみたいで、会うのも断られているんです。今日は何が何でも謝ろうと思いまして!」
「ごきげんよう、クルジット嬢。手紙で謝罪した時に許されなかったのか?」
さすがにメローも浮気の謝罪の手紙は受け入れられなかったのか。
「手紙で謝罪?」
「……」
どうやら手紙で謝罪するという考えは浮かばなかったらしい。
「殿下、許してやってください。ルビーには悪気はないのです」
なぜかジェダイトがかばう。
「ジェダイト、クルジット嬢とはどのような関係なのだ?」
「それは」
「お友達です!」
即答したのはルビーだった。ジェダイトは眉を寄せてそんなルビーを見た。
本人同士の問題だから口を挟むつもりはないが……どうやら温度差があるようだ。
「エメラルド様はまだ来ていないんですよ! 教会内で待ちませんか?」
ルビーが下から覗き込むように見てくる。隣にいるジェダイトがびくりと揺れた。見ると顔を赤くしてルビーを見ている。
「ジャスパー様、教会のステンドグラス綺麗なんですよー!」
「私はここで待たせてもらう」
手を引こうとしてきたのを避ける。
「それと、クルジット嬢、名前で呼ぶのをやめてくれないか」
「え? ダメですか? お友達は名前で呼び合うのが普通じゃないですか?」
「友達」
「えっ?」
本気で俺を友達と思っていたらしい。目を丸くしている。
ジェダイトが不満げに眉を寄せて俺を見たが睨み返した。
そこで教会からシスターがジェダイトを呼ぶ。ジェダイトは少し不満そうだが「失礼します」とだけ言って去って行った。
ルビーも連れて行って欲しかったが、ルビーは俯いて動かなかった。
「ジョリ、近くにメローがいないか…」
見てきてくれ、と言う前に門の所にサルファーとメローがいたのに気が付いた。なぜサルファーと一緒なのかはこの際どうでもいい。
「メロー! 会いたかった」
「待て待て」
サルファーを無視してメローに近付こうとしたが、素早く間に入られた。
「サルファー、少々遠慮してくれないか。忘れているようだが俺は王太子だ」
「知ってる。ちょっと下がれ。メローは病み上がりだ」
「王太子で、彼女はまだ俺の婚約者だ」
「知ってる知ってる。身分の前にまず、男が鼻息荒くして女に近付くな」
鼻息を荒くしたつもりはないが、一歩後ろに下がった。
それほど乱れてはいないが、襟元を正す。それを見てサルファーは少し横にずれた。
「ジャスパー様、ご無沙汰しております。命を助けていただいたのにお礼にも行かず申し訳ございません」
エメラルドは優雅に礼をした。その場に花が咲いたかのように美しい。
「礼なら手紙で受け取った。もう大丈夫なのか? 顔色は大分良いが…」
「おかげさまでこうして出掛けられるほどになりました。ジャスパー様はルビーさんといらっしゃったので」
「違う! 今日は君に会えないかと思って来たんだ。ひとりで。いや、補佐官と護衛は連れているが、クルジット嬢は関係ない」
後ろでルビーが何か言っていたが無視した。メローの声を聞いていたい。
しかし。
「殿下、そろそろお時間が」
ジョリが言いにくそうに声をかけてくる。
まだ挨拶しかしていないのだが! エメラルドは「お忙しいようですわね」と微笑んでいる。ジェダイトとルビーとは違った意味で俺たちにも温度差があるな……
「メロー、しばらく会えないが手紙を書く。色々と話したい」
「ジャスパー様、例の事は外交官の方が帰られてからでないと公にされませんわ。そのためのものでもありましたもの。今はお仕事に集中なさってくださいませ」
例の事、というのは婚約破棄の事だろう。婚約は力を持つ公爵家と王家の結び付きを強くし、それを外交官に見せる意味もあった。
「外交官が帰られてすぐ、ということもないかと存じます。慌てなくて結構ですわ」
エメラルドはとても落ち着いていた。
先ほどは花の様だと思ったが、今は凛とした、澄んだ空気の様な美しさがある。
「分かった。必ず話そう。元気そうでよかった」
ここで何を告げても、彼女に失望されるだけだ。
焦っているジョリを連れてその場を離れた。
振り返るとエメラルドはこちらに向かって深く頭を下げていた。
実はジョリが頑張ったおかげで誰にも咎められず外出できました。普段のジャスパーなら気付けたのにエメラルドのことで頭いっぱいで気付けず。
ジョリ「どうも、最近彼女に振られたジョリ・マクレバーです。好物はメロンです」(無駄設定)




