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ブックマーク、評価、感想ありがとうございます。
この物語は皆様の優しさに支えられております。
諸事情により感想の受付をお休みしております。
今まで感想を下さった方、ありがとうございました。
好きだと言ってくれる方がいたおかげで、この物語は続いております。
「エメラルド様もお部屋へ戻られますか?」
マリアはメイドを呼びテーブルの上を片付けながら訊いた。
「天気も良いし、ここで残りの包装を終わらせてしまうわ」
星見台も最後になるわけだし。
星見台の下は広い池になっている。空を映すように作られた池で、星見台の手すりに寄りかかると上と下で空が楽しめるようになっている。上下に空があるようで幻想的だ。
下の部屋の景観は、池から柱が生えている状態だからそれほど美しいとは言えないけれど。
テーブルの上を片付けると、マリアが新しく紅茶を淹れてくれた。
かごから刺繍小物を取り出してひとつひとつ丁寧に包んでいく。
時間があったおかげでどれも自信作だ。そこはルビーに感謝しておこう。
最後に、マリウスへのハンカチを包もうとした時、メイドがマリアを呼びに来た。聞こえないように小声だけれど、ふたりともちらりと私を見た。
「マリア、何か用事?」
「恐れ入りますが、少々席を外させていただきます」
マリアはメイドと共に星見台から去ってしまった。
父は城に、母は友人のお茶会に出掛けていて、今は私一人だ。屋敷内で何かがあったのなら私が判断しなければならない。
メイドから話を聞いて、マリアが要点をまとめて私に言いに来るのだと思ったけれど、閉じたドアは開く様子がなかった。
「変ね」
訝しみながら様子を見ようと廊下に続くドアを少し開けると、ちょうどノックをしようとしている人物と目が合った。
ジャスパーだった。
「メロー……」
ジャスパーはいつもしっかりとセットされている髪は乱れ、顔色も悪かった。目の下にうっすらクマがある。
私を見て固まっているジャスパーに声をかけようとした時、マリアが廊下の向こうから慌てて来るのが見えた。
「ジャスパー様、お待ちください」
マリアの言葉にジャスパーは頷くと、ドアを開けて私を星見台へと促した。
ドアは閉めず、マリアもそのドアの横に立つ。
ジャスパーとは明日話をするつもりだった。
「ジャスパー様、お久しぶりです」
手紙の返事をもらっていないので、彼が何を考えているのかは分からない。穏便に、いつも通りの挨拶をした。
ジャスパーは少し悲しそうに眉を寄せた。
「メロー、久しぶり。本当に……突然来てすまない」
とても優しい声だった。
「一カ月以上会いに来られなくて申し訳ない」
「お忙しいご様子でしたもの。今日はお仕事はよろしいのですか?」
ジャスパーはゆっくりと頷いた。なんだかいつもと雰囲気が違う。
頷いたきり、無言で私を見ている。なにかしら。何か変なところがあるかしら。
気持ちは一カ月前と完全に違うけれど、見た目は変わらないはずだ。
今日は髪をハーフアップにして真珠の髪飾りで止めているけれど、これは前からよく使っている髪飾りだし、化粧も夜会の時よりは薄めだけれどいつも通りだ。ドレスもいつも通り露出が少なめで……あら、マーメイドラインのドレスはジャスパーの前では着たことなかったかもしれないわね。そのせいかしら。
自分の全身を確認していると、マリアがそっとテーブルに寄り、席を用意し始めた。
しまった、王太子であるジャスパーを立たせたままだったわ。
「失礼しました、ジャスパー様。どうぞお掛け下さい」
椅子を示して促しても、ジャスパーは私を見ていて動かない。
まさか、疲れ切っていて動けないわけではないわよね?
見上げると目が合うがやはり何も言わない。
怒っている様子ではない。
さっきメイドがマリアを呼びに来たのはジャスパーが来たからかしら。
突然来たくらいじゃ公爵家の使用人は騒いだりしないはずだから、何か別の要因で何かあったのでは…?
ジャスパーは穏やかでマリアも素知らぬ顔しているので、わざわざ話題に出すのもおかしいし。
と、考えているとずっと私を見ているので、気まずくなり、私もテーブルに近付き片付けることにした。
テーブルの上に広げていた包みをカゴに戻す。そうだ、ジャスパーの分もある。
ジャスパーは私に続きテーブルまで来ると座らずにカゴを見ていた。
「ジャスパー様、一日早いですけれど、こちらを受け取って頂けますか?」
「ありがとう」
両手で丁寧に受け取られる。そんな大層なものではないのだけれど。
「開けてもいいかな?」
「ええ、特別なものではなくて申し訳ないですわ」
「君からもらえるものはすべて特別だよ」
「…ありがとうございます」
ちょっとドキッとしてしまった。疲れた顔をしているからちょっとした言葉も重みがあるわね。
ジャスパーは立ったまま包を開けた。
初めはしおりを一つ作っただけだったけれど、最後のプレゼントとなるのでしおりの他にブックカバーとハンカチも入れた。全て王家の紋章入りだ。
ジャスパーはひとつひとつじっくりと見て、刺繍の部分を撫でた。
ジャスパーもこれが最後のプレゼントだと分かっているのだろう。
「今日は話がしたくて来たんだ」
「ええ、私もお話ししなくてはと思っていましたの」
「クルジット嬢に刺繍を教えていたんだって?」
そっち!?
婚約破棄についてだと思っていたので、驚いて言葉が出なかった。不意を突かれたわね。
「今日、城でクルジット嬢にタレンヴァインの刺繍を渡されたんだ」
眉を寄せてちょっと嫌そうな顔をしている。噂ではアゲートと取り合っていたと聞いたけど…
「メローは……もう俺のことを名前で呼んでくれないのか? 本当に」
しっかり確認するような声だった。
「本当に俺と結婚してくれないのか?」
しっかりとした声でも、その中でジャスパーが心を痛めているのが伝わって来た。
婚約破棄すると心に決めていた。ゲームのように表舞台から姿を消すのだと。自分の意思で生き方を決めるのだと自信を持っていた。
それでも目の前でこんな声を聞いてしまうと、揺らいでしまう。
本当は知っている。
噂なんて、嘘ばかりだということを。
「俺と結婚すると言ってくれていた」
「……申し訳ございません」
「メロー、僕を見て」
うつむいてしまった途端、顔を上げるように言われる。
「俺は君を好きなんだ。君だけが好きなんだ。他の誰が何を言おうと、それだけが本当のことだ」
迷いのない、はっきりとした声だった。ジャスパーにここまではっきりと言われるのは初めてだ。
「クライマシー公爵と、父上にもお話したんだ。婚約破棄は待って欲しいと。どちらも了承してくれた」
「あら……」
お父様、私に嘘をついたわね。
「メロー、本当に、俺を選んでくれないのか?」
「私は……」
絆されそうになる。
でも……
私が口を開く前に、その場に響いた声があった。




