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 ブックマーク、評価、感想、ありがとうございます。

 この物語は皆様の優しさに支えられております。





 楽しい時間というのはすぐに終わってしまう。

 もう少しで空が赤く染まり始めるだろう時間になると、エレスチャルの侍従が帰宅を促した。


 本当は修道院に行くことを言うはずだったのに、言うタイミングがつかめなかったわ……


 修道院に入ってしまえばふたりに会うことは出来ない。彼らのことは親友だと思っている。言わないで行くのははばかられた。


「あの、ふたりとも…」

「ああ、エメラルド様、刺繍をお忘れです!」

 勇気を出して言おうと思ったのにマリアが割り込んできた。

 見るとにっこり笑顔だ。これは、わざとね? 言わない方が良いって事?


「そうね、ふたりとも、毎年のことだけれどタレンヴァインの刺繍よ。貰ってくれる?」

 立ち上がりすでに帰る用意をしているふたりに包みを渡す。

「わーい! いつもありがとー!」

「……なんかエレスの方でかくね?」

 エレスチャルに「開けていい?」と訊かれたのでどうぞと促す。

「これ……!」

「これはすげーな!」


 エレスチャルにあげた刺繍はタペストリーだ。この国の王族の紋章とエレスチャルの国の紋章を横に並べ、そのふたつを支えるようにフリージアの花で囲ってある。

 フリージアの花言葉は「親愛の情」

 エレスチャルの立場が本当に「留学」になるように祈りを込めて作った。

 両手を広げるほどの大きさで目を引くけれど、大きいので刺繍自体はそれほど難しくない。今年は刺繍に費やす時間が多かったから、これくらいは問題なかった。


「さ、サルファーのは、どんな、なのー?」

 あら、エレスチャル、ちょっと目がうるうるしてるわ。美少年の涙目はドキッとするわね。

 エレスチャルの言葉にサルファーはバリバリと包を破いて開けた。もうちょっと気を使ってほしいわね。


 サルファーには皮の財布に刺繍していた。こちらは結構大変だった。

 長財布に辺境伯の紋章をワンポイントで刺繍し、その隣に小さくだけれど沈丁花を添えた。

 沈丁花の花言葉は「不滅」

 辺境伯は国境を守る仕事だ。今は平和だけれど、昔は山に住む異民族に攻撃されていたというし、今も密入国しようとする者を排除しているらしい。王都では考えられないくらい危ない仕事だ。

 そしてサルファーは子供の頃とても体が弱かった。今は元気だけどね。

 そんなことを兼ねての沈丁花だ。

 それほど有名な花じゃないから、花言葉は知らないだろう。後で調べてくれるといいな。


「エメちゃんありがとう! すごくうれしいー!」

 エレスチャルはタペストリーを抱きしめて泣いていた。そんなに!?

 逆にサルファーは財布を見て固まっていた。大変だった分、感動してくれていると思いたい。

「絶対エメちゃんが喜ぶお返しするからー! 楽しみにしててねー!」

 泣いているエレスチャルを侍従が申し訳なさそうに引っ張っていった。

 申し訳なく思いながらも見送る。

 サルファーを見ると、財布を大事そうに上着の内側にしまった。気に入ってくれたらしい。


「ジャスパーとも馴染みだが、俺はお前の味方だからな、メロー」

「別にジャスパー様は敵じゃないわよ」

「お前はもっと我儘になっていいんじゃねぇの?」

「ご心配なさらなくても、わりと我儘言いますのよ」

 これからの行動は完全に私の我儘だ。

 サルファーは……私がいなくなったら寂しがってくれるかしら。

 どちらかというと怒りそうかも。

 そう思ったら思わず笑ってしまった。


「お前は笑っている方が良い。ジャスパーの横で笑っていられないなら、そこに行く必要はない。行きたい場所に行けばいい」

「ご心配なさらなくても、わりと我儘を言ってますのよ」

「マリウスの領地はでっかい花畑があるんだと。きっとお前も気に入る」

「え!?」

 突然のマリウスに大きい声を出してしまった。ハッとして咳ばらいでごまかすと、サルファーは楽しそうに笑った。

「マリウスはまあ、仕事から離れるとちょっと頼りないが、俺は結構気に入ってる」

「サルファーもコントルシー様と交流がおありなのね」

「あいつ、食事に誘うとホイホイ来るからな」

 マリウス、食べるの好きなのかしら。そんな設定あったかしら。


「お前は俺の初恋の君なんだ。幸せになって欲しい」

「え?」

 サルファーの突然の告白に、私は声が出なかった。

 何も言えず見上げていると、髪を一房すくい取り、口付けた。


「またな、メロー見送りはいい」

 そう言って足早に去って行った。


 私は驚きすぎてめまいがしたので、とりあえず椅子に座った。ちょっと見送る余裕はない。

「エメラルド様、紅茶をお淹れいたしましょうか」

「マリア、頼むわ。一瞬でなんかこう、混乱? いえ、衝撃だったわ」

「気付いていらっしゃらないのはエメラルド様だけかと存じます」

「え? そうなの?」

 サルファーとは幼馴染で、子供の頃から男女の壁を越えた友人だと思っていた。

 初恋……恋愛感情を持たれていたとは気付かなかったわ。

 ゲームではどうだったかしら。ルビーに一目ぼれする前のエメラルドとの関係は出てこなかった気がする…覚えてないわね。

 

「マリアも教えてくれれば良かったのに。それなら憧れの女性像をキープでするように気を付けていたわ」

「……そういうお答えが返ってくるとは予想外です」

 マリアは苦笑いしながら「彼も不憫ですね」と小声でつぶやいたのを聞いてしまった。

 ……

 確かに……ゲームでは俺様だったのに私には優しいわよね。

 マリウスへの刺繍を見せたら嫉妬したかしら。いやでも、今でも好きとは限らないわよね。


 ジャスパーとアゲートとジェダイトはルビーを好きみたいだけれど、エレスチャルとサルファーは興味がないみたいよね。同じゲームの登場人物なのに、どこで別れたのかしら。


「修道院に行ったら誰とも会えなくなるけれど、お手紙は許されるのよね。その後皆幸せになれたら教えてね、マリア」

「私はまだエメラルド様が修道院に行くことに納得しておりません」

 そうだった。

「でももう決定していることだし」

「もし本当に行かれるのであれば、私もご一緒します」

「それはダメよ。お父様も許さないだろうし、なにより恋人がいるんでしょう?」

「エメラルド様、私は納得していませんし、まだ決定したことではないと思っております」

「どうすればマリアは納得してくれるのかしら」

「コントルシー様がエメラルド様を受け入れないと、決定したわけではございません」

「え?」

「ええ。クルジット嬢を好きというのは、失礼ながらエメラルド様の予測でしょう。本人から聞いたわけではないと」

「そうだけど」

「では、分かりませんよね?」


 にっこり笑うマリアに私は薄く笑った。


 ほぼ接点のないマリウスが私を好きになることなんてあるのだろうか。



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