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 台風は被害なしで過ごせました。

 インフラ系のお仕事の方、大変だったと思います。ありがとうございました。

 被害に遭われた方が落ち着いた生活に戻れますように。



 視点変わりまして、エメラルド視点です。

 


 マリウスに渡す刺繍が完成した。


「これはまた……素晴らしいですね」

 マリアが驚嘆の声を上げる。


 明日のタレンヴァインにマリウスに刺繍を渡して告白することにした。

 ハンカチに刺繍をする場合は角のひとつにワンポイントの刺繍をすることが多い。

 初めに考えた図案ではコントルシー家の小鳥がくわえている花を公爵家の紋章の百合の花にする図案だった。

 そのくわえている花を白いダリアと紫蘭にした。

 さらにその小鳥の足元にアイビーと百合の刺繍をし、ハンカチのふちにぐるりとアイビーを入れた。 

 アイビーの花言葉は「永遠の愛」

 このハンカチを渡して翌日には修道院に行く。


 ずっと父親と話せなかったので、仕事で登城した父親を追いかけて話をする時間を作ってもらった。

 ジャスパーとの婚約破棄の話を進めてくれるという。

 私もジャスパーに手紙を書いたけれど、三日が経っても返事はまだ来ていない。

 勝手な婚約破棄に怒っているのかもしれない。

 修道院に行く前にジャスパーとも話をしたい。


 ゲームのエメラルドはパーティーで婚約破棄を言い渡され、退場し、それっきり出てこない。

 同じゲームの世界だけど、私は自分から婚約破棄し、それっきり表には出ない。

 流れは違うけれど結末は一緒。

 そして何より、これは私が決めたこと。

 マリウスが私を忘れずにいてくれるなら、全て捨てて新しく生きよう。

 いつまでもゲームの結末に怯えて生きるのは嫌だ。


 主人公はルビーだ。相手はジャスパー。キスをしたのがきっかけで、もっとふたりの仲は近付いて行くだろう。よくある展開だ。

 ルビーは大陸のことでも活躍をしたそうだし、もしかしたら王家からミドルネームを授かるかもしれない。

 誰もが認める伯爵令嬢になれば、王太子妃への道も開けるだろう。


「そろそろサルファー様たちが来るお時間です。その刺繍をしまった方がよろしいかと存じます」

「自分でもかなりの出来だと思うの。自慢しては駄目かしら」

「エレスチャル様はまだしも、サルファー様には絶対、絶対おやめください」

「……そう? この小鳥の羽の模様とか結構頑張ったのよ」

「大変素晴らしいもので私も感服しておりますが、サルファー様には世界中の人間が死に絶えても見せることはおやめください」

「そんなに? 褒めてくれると思うのだけれど」

「絶対ダメです」

 ちょっと怖い顔で言われた。

 私、浮かれ過ぎかしら。


 今日サルファーとエレスチャルをお茶に呼んだのは、タレンヴァインの刺繍を渡すためだ。

 刺繍は全て汚れないように丁寧にカゴに入れていた。

 今年は結構な人数になってしまったため、包装が間に合っていない。とりあえずサルファーとエレスチャルのものだけ包装紙で包みリボンを付けた。


 メイドがサルファーとエレスチャルが到着したことを伝えに来た。

 あの二人って別の場所に住んでいるのに、なぜか毎回そろって到着するわね。


 今日は公爵家自慢の星見台と呼んでいるバルコニーにお茶の用意をしている。

 星見台は最上階の五階にある。お客様に五階まで上らせるのは申し訳ないけれども、ふたりは前にも何度か星見台に呼んだことがあるので大丈夫だろう。

 そして、星見台から見える景色は日中でも最高だ。


 今日でふたりに会うのは最後になる。そう思うと階段を上る足にも力が入った。

 婚約破棄のことはまだふたりには言っていない。父も公表はしばらく先だと言っていた。


「エメちゃんこんにちはー! おまねきありがとうございますー!」

「エレス様、ごきげんよう。サルファーも久しぶりね」

「おう、王都に来ているのに一カ月以上会ってねえな。ちょっと痩せたか?」

「そうかしら? 至って健康よ」

 サルファーと会っていないのは、夜会に行くことが減ったせいだ。

 エレスチャルは王妃様のお茶会に時々参加しているので、それほど久しぶりではない。


「そしてぼく、そのかごいっぱいの小物気になるー!」

「あ!」

 サルファーとエレスチャルの刺繍だけ持ってくればいいのに、カゴごと持ってきてしまっていた。

 マリアが血相を変えてカゴを奪い、ものすごい速さでバルコニーの端に置き、大きめのクロスをかけて見えなくした。

 そして何事もなかったかのようにお茶とお菓子の用意を始めた。


「相変わらずマリアはよく分からんな」

「ぼく、悪いことしちゃったー?」

「マリアは優秀なの。私が分からないことも分かっているのよ」

「つまりお前もよく分からないと」

「じゃあもういいよ、お菓子食べようよー。この赤いの何ー?」

「それはラズベリーだろ」

「クランベリーよ」

 このふたりはいつ会っても変わらない。

 それが嬉しくもあり、今後のことを考えると寂しくもある。


「そうそう! エメちゃんとうとう婚約破棄するのー?」

 突然のエレスチャルの発言に紅茶を噴くところだった。サルファーに紅茶を注いでいたマリアも固まっている。

「あー、あれか。噂になってるな」

 サルファーはクルミ入りスコーンを手に取りながら言った。マリアもぎこちなくだけれど動き出す。ちょっと紅茶がこぼれてるわ。

「な、な、何が噂になっているの?」

「王太子殿下! 弟君と伯爵令嬢を取り合って大げんかー!」

「え?」

「中庭でクルジットを取り合ったらしい。お、これ美味いな」

「エメちゃん家のスコーン美味しいよねー」

「ありがとうございます。それで、その取り合ったというのは?」

「今一番人気の噂ー?」

「中庭で言い争うジャスパーとアゲート、その場でクルジットが泣いていたらしい」

「わたしのためにあらそわないでー! って泣いてたって噂ー!」

「クルジットは男の噂が絶えねぇからなぁ」

「サルファーも追いかけまわされてたよねー」

「お前は抱きしめてたって噂になってたな」

「ほんとは抱き着かれたんだけどー?」

「ちょ、ちょっと色々お伺いしたいのですがよろしいかしら?」

 ふたりとも好きなお菓子を食べながらも頷いた。


「中庭でジャスパー様とアゲート様が言い争っていたの?」

「ルビーちゃんとアゲート王子がいちゃいちゃしているところに王太子殿下が怒鳴りこんだって聞いたよー」

 ルビー、ジャスパーを好きなんじゃないの?

「ジャスパーが激昂していたのをサンヴァトルの次男が止めたらしい。そう聞いてサンヴァトルの次男に真相を聞きに行ったが、あいつ超口固ぇのな。もう酒奢ってやんねぇ」

「ルビーちゃんに会ったけど、泣き出しちゃって教えてくれなかったんだよねー」

「……ふたりとも、ある意味すごいわね」

 ドアの横に控えたマリアはちょっと笑っていたけれど、私は呆れていた。

「いつ頃の話なのかしら」

「つい最近だぞ」

「3、4日前だよねー」

 噂が広まるの早いわね。怖いわ。


 ルビー、ジャスパーとは上手くいかなかったのかしら。

 それでアゲートに乗り換えた?

 それでもジャスパーはルビーを好きって事かしら。



 この話書いていて気付いたんですけど、エレスチャルがルビー遊んでいる話は全カットしてましたね……機会があれば番外編として投稿したいです。


 そして、公爵がマリウスにベリーを食べさせた話は、いずれマリウス自身に語ってもらう予定です。今、世間で有名なイジメとは異なる状況です。嫌な気持ちになった方、申し訳ございません。

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