26 ジャスパーと仲良し親子
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*人物メモ*
ジャスパー:王太子。
レーグル:ジャスパー唯一の友人。
エメラルド:公爵令嬢。まだジャスパーの婚約者。
クライマシー公爵:エメラルドの父。王弟。
王妃:ジャスパーの実母。エメラルドを気に入っている。
(人物メモは作者が本を読む時、カタカナの名前たくさん覚えられない…と苦労しているので同じ人がいたら悪いなって思って書いてます)
「詳しく聞こう」
エメラルドの父、公爵はそう言ってエメラルドと共にガゼボの中に入っていった。
今、エメラルドは何と言った……?
婚約破棄…? なぜだ……? 俺が何かしたか?
エメラルドには一カ月近く会っていない。何かしたとしたら一カ月前…?
昼食かお茶を一緒にと言ったのにキャンセルしてしまったのがいけなかったのか?
しかしそのことは手紙で謝ったし、その後毎日のように手紙を送ったが返事の内容も友好的だった。
手紙で何か嫌われることを書いただろうか……?
公爵とエメラルドはガゼボの中で隣り合って座った。
レーグルと共に少し移動する。完全なる盗み聞きだが、見逃せない状況だ。
「婚約破棄したいという理由は?」
「他に好きな人が出来ましたの」
コントルシーか! もしかして俺が会えない間に会っていたのか!?
「王太子殿下のことは嫌だと?」
「嫌いなわけではございませんわ。嫌っていたのなら初めから婚約を了承いたしません」
「そうか? 浮気をしながら毎日のように愛を囁く手紙を送り付け、趣味ではない宝石や嫌いな花を添えてくる男など、嫌っても致し方ないと思うが?」
……なんだって?
「あら、私が百合を嫌いなのをご存知でしたのね」
なんだって!?
「実は我がクライマシー公爵家で百合の花を好きな者はいない」
「あら!」
「家紋だから仕方なく受け取っている」
「同じですわ。家紋の花を突き返すわけにいきませんもの」
ハハハハ、ホホホホと親子ふたりで楽しそうに笑いあっているが、話の内容が衝撃過ぎて俺は頭を抱えた。
クライマシー公爵家の紋章は百合の花だ。
紋章はその家の象徴だ。それにちなんだものを贈るのは貴族の慣習だった。
エメラルドに贈る花束には必ず百合の花を入れていた。百合の花だけではなく百合の花に合わせて別の花を入れ花束にして贈っていたのだが。
百合が、嫌い。
確かに好きな花の話はしたことがなかった……それが原因で婚約破棄なのか?
「宝石もお前の趣味ではなかったな。豪奢なものよりシンプルなものが好きだろう」
「あら、よくご存じですのね。お父様とは宝石の話をしたことはなかったと思いますけど」
「普段付けているものを見れば分かることだろう。それすら殿下は出来なかったようだが」
「ジャスパー様が悪いわけではございませんわ。私の顔が派手なせいか、今まで他の方からも宝石をプレゼントされるときは派手なものを贈られますの。たまに身に着けていますのよ」
「ごく、たまにな」
「お父様とは同じ家に住んでいてもあまりお会いしませんのに、よく見ていらっしゃいますのね」
「マリアは私が雇った娘だからな」
「あら! やっぱりスパイの役割も担っていましたのね」
「実は愛人でもある」
なんだって!?
「あら!」
「嘘だ」
「あら?」
公爵も冗談を言うのか。驚いた。
「今すぐは無理だが婚約破棄は可能だろう。元々王妃の我儘だ。お前も受け入れたし、誰も反対しないからさっさと決まってしまった。その分、王妃は我儘を通してしまった負い目がある。婚約後やたら呼び出されるだろう? お前の機嫌を窺っているのだ」
母上のお茶会に呼ばれているのは知っていたが、そんなに頻繁なのか?
「だが、婚約破棄をすればお前の信用も落ちることになる。信用の落ちたお前を受け入れてくれる男なのか?」
「なんでもご存知のお父様なら、私がお慕いしている方もどなたかご存じなのでしょう?」
「優秀なスパイがいるからな」
「マリアに頼り切っている私も問題ね。でも私、彼が私を受け入れてくれるとは思っていませんの」
…どういうことだ?
公爵も黙って続きを促した。
「彼には他に好きな方がいらっしゃいますの。私から気持ちを告白しても困惑するだけかと思いますわ」
「受け入れられないと分かっているのに告白するのか。単に王太子殿下が嫌いなだけではないのか? そうだろう、嫌いなんだろう」
「最近のジャスパー様は好きか嫌いかで言えば嫌いですけれど」
!!
なん……だって……!?
俺の心中は荒れ狂っているのに、公爵家親子は楽しそうにウフフ、ハハハと笑っている。
横を見るとレーグルも少し笑っていた。オイ。俺の視線に気付いて笑うのやめたが。
「私の気持ちの問題ですわ。お父様はご存知ですか? 最近よく遊びに来ていただいたクルジット伯爵家のご令嬢を。彼女は自分の気持ちをそれはとてもとても大切にしていて、欲しいものは欲しいと言える方なのです。素直な性格は皆さん好んでいらっしゃると思いますわ。そんな彼女と知り合ったのも神の啓示かと思いましたの。素直になれ、と。私は」
エメラルドはそこで一度言葉を切り、目を閉じた。
「私は素直になってみようと思いましたの。愛していますと告白して、そのままその気持ちを大切にして修道院に入りますわ。その愛を思い出として、そこからは神へと人生を捧げますわ。今のままでは怠惰な愚者ですもの。地に足を付けてまっすぐ、自信を持って生きたいのです」
再び開いたエメラルドの瞳は、今まで見たことがないほど輝いていた。
「自分の気持ちの為だけに告白するのか」
「ええ。公爵家の人間としては失格ですので、勘当していただいて結構ですわ」
「公爵家が大事か、娘が大事かと問われれば、私は迷わず娘と答える。私も公爵家失格だな」
「私はお父様が父親でとても嬉しいですわ」
「私も、お前が娘でとても嬉しい」
このまま話がまとまってしまうのか? 婚約破棄? そんなことがあってたまるか!
「王太子殿下も自分が浮気しているのに婚約破棄を受け入れないわけにはいかないだろう」
浮気! ルビーの事を言っているのか? 彼女とは友人でそれ以上のことはない!
レーグルに横から腕を掴まれた。身を低くするよう促される。
「お前が先日クルジット伯爵令嬢から聞いた話以外にも、毎日のように連れ歩き、食事やお茶をしているのを皆が目撃している」
「その様ですわね。ジャスパー様からのお手紙には一切書いておりませんでしたの。友人たちも私に気を使って話題にしないようにしていたようで、なんだか私、滑稽ですわね」
「皆、お前を傷つけたくなかったんだろう」
ルビーのことは書く方が嫌な思いをさせると思い書かなかったのだ! それが裏目に出ていたのか!
俺は思わずうなり声を上げてしまった。
ここで立ち上がり誤解を解こうとしても、口だけだ。浮気をしていない証拠がない。
そうだ、気持ちは、伝えようとしないと伝わらないのだ。
そして俺はそれが足りていなかった。
「実はその彼とは私も何度か食事をしている」
「あら! 本当に友好範囲が広い方ですのね」
「ハハハ。嫌いなベリーを無理やり食べさせたこともある」
「なにをなさっているのお父様……」
ふたりは楽しそうにガゼボから出て、出口へと歩いて行った。
俺は、薔薇の陰で動けずにいた。
修道院に…と言ってその後修道院に行く話ってあまり見ないですよね。




