25 ジャスパー
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視点変わってジャスパー視点です。
*人物メモ*
ジャスパー:王太子。偉いわりに雑用が多い。
エメラルド:公爵令嬢。愛称はメロー。ジャスパーと婚約中。「あら」が口癖。
ルビー:平民から伯爵令嬢になった少女。姓はクルジット。運動神経が良い。
アゲート:ジャスパーの異母弟。外交官に任命された。猫派。
レーグル:ジャスパー唯一の友人。サンヴァトル侯爵家次男。酒豪。
「大陸の外交官が来るのは来週か。いよいよだな」
「以前と違ってこちらの準備は整っている。問題はない」
昼過ぎ、城の中庭のテラスで俺とアゲートとルビーの三人で遅めの昼食を取っていた。
エメラルドに会うために中庭で取っていた昼食だったが、いつの間にか毎日報告しながら食事をする場になっていた。
まずルビーが加わり、報告しに来たジョリ、アゲート、それを見て差し入れを持って来た騎士と、どんどん増えていった結果だ。
メンバーはいつも違う。伯爵や騎士など身分に捕らわれず椅子と食事を持ち寄って忌憚なく話をしていた。
今日は大陸の情報があらかたまとまり一段落したということで、皆午前中に帰り、後処理で残っていた三人で昼食を取ることにしたのだった。
「ルビー嬢、今日は元気がないな。怪我が痛むのか?」
「いえ……」
アゲートの言葉に、ルビーは小さな声で答えた。
アゲートはルビーを気に入っているようだ。夜会で会えば必ずダンスを申し込んでいる。
このところ夜会ではルビーの噂が多い。
元々平民だったということで有名だったが、最近はマナーも覚えしぐさも貴族らしくなっていた。裏表なくいつも明るいルビーは周りから受け入れられ、アゲートだけではなく次々とダンスが申し込まれる。
誰かと婚約する日も近いだろう。
アゲートも婚約を申し込みそうだな。
今も元気のないルビーに飲み物を注いでやっている。いつも注がれる側だが、ルビーにはなんでもしてやりたいようだ。
「あの……」
ルビーは何か言いにくそうに俺を見た。
ルビーには大陸の事で大分世話になったし、ほぼ毎日顔を合わせている。トラブルもあったが、お互い気安い関係になっていると思っている。
あれほど騒がれていた三角関係の噂も、ルビーとエメラルドが仲良くしているという噂が広まってから聞かなくなった。
エメラルドは人を差別するような人間ではないし、ルビーも伯爵令嬢としてのマナーは身に着けている。失礼なことはしないだろう。
「ジャスパー様はエメラルド様にお会いしていますか?」
包帯の巻かれた右手首を撫でながら、ルビーは首を傾げた。
「メローとは三週……いや、ほぼ一カ月会っていない……が、手紙は頻繁にやり取りしている」
大陸に関する仕事が終われば会いに行ける、という気持ちだけでどうにか乗り切っていた。
名前が出るだけで彼女を思い出して、落ち着かなくなってしまう。
周囲の人間からは「結婚すれば嫌でも毎日会える」とか「会えない時間が愛を育む」とか言われ、会いたい気持ちを我慢できなければ男としてどうなのか、と問われているような状態だ。
ルビーが週に二回エメラルドの家に遊びに行っているのも聞いていた。
お喋りをしたり、刺繍をしたりしているらしい。ジェダイトとも仲良くなっているようだ。
「昨日、エメラルド様に失礼なことをしてしまいまして……怒られてしまいました」
「怒る? エメラルド様が?」
ルビーの言葉にアゲートが驚いた声を上げた。
確かに俺も、エメラルドが怒る所など見たことがない。
「ええと、怒ったのは侍女のマリアさんでしたけど、悪いことをしたと思って、反省してます」
肩を落として俯くルビーに、アゲートは耳を赤くしてそわそわしている。
ルビーは公の場はともかく普段は子供っぽいところがあるから、はしゃいで失礼なことはしてそうだ。
そこが良いと言っているのはアゲート以外にもいるし、守ってあげたくなる気持ちも理解できる。危なっかしいところのあるルビーは妹の様に目が離せない。皆、同じ気持ちだろう。
そんなルビーをエメラルドも妹の様に思っていたはずだ。
「例え失礼なことをしたとしても、メローなら許してくれるだろう。すぐに謝らなかったのか?」
「謝る前に、マリアさんに追い出されてしまいました」
「一体何をしたんだ?」
「それは……ちょっと……言えません……」
上目遣いでこちらを見てくる。俺に関係することか……?
ルビーとは城での話し合いの他にも、城下町への見回りにも同行してもらった。
ルビーは城下町のことは知り尽くしていて、仕事以外にも色々と立ち寄って楽しんでしまった。
強盗に遭って乱闘騒ぎになった時にちょっとした事故があったが、お互い問題ないと判断している。
「私、エメラルド様には隠し事したくなくて……話したんですけど、それが良くなかったみたいです……」
「ああ、泣くんじゃない。エメラルド様は聡明な方だ。ちゃんと謝れば許してくれるだろう」
ここぞとばかりにアゲートが慰める。お前がエメラルドの何を知っているというんだ、と言いたかったが、泣き出したルビーの前で言うのを控えた。
「王太子殿下殿、こちらでしたか」
そこに現れたのはレーグルだ。暑くもないのにうっすら汗をかいている。
レーグルと会うのも久しぶりだ。コントルシーと食事に行ったあと報告すると言っていたが受け取っていない。
「少々急用です。おふた方、王太子殿下殿をお借りしてもよろしいか?」
「兄上、片付けは引き受けました」
さっさと行けとばかりの弟に苦笑いしながらも、レーグルとその場を離れる。
「久しぶりだなレーグル、急用とは?」
レーグルは頷くと歩き出した。ここでは話せないことか?
かなりの早足だ。目的地は決まっているらしい。
「君は呑気だな。浮気した男というものはそういうものか」
「浮気などしていない」
「クルジット嬢とキスしたと聞いたぞ」
「キ……? あ! あれは事故だ。お互いそれで納得している」
「本当だったのか。手に負えないな。こっちだ、音を立てるなよ」
そう言って踏み入れたのは、中庭から少し離れた薔薇園だ。
薔薇園は高い生垣に囲まれ、さきほどの中庭より小さい。奥にあるガゼボまで人がひとり通れるくらいの幅しかない、薔薇に挟まれた石畳の通路が伸びている。噴水やベンチなどはなく、ただガゼボで薔薇を見るためだけの場所だった。薔薇は見事だがあまり人は立ち寄らない。
レーグルは薔薇の陰でしゃがみ、俺にもしゃがむように無言で促す。訳が分からないが従った。
そのまま身を低くして薔薇園の奥まで進むと、人の気配がした。
「こんな所まで追ってくるとは思わなんだ」
男の声だ。
「だってお父様はお忙しすぎて、お話したいと思っても出来ないではありませんか」
エメラルドの声だ!
思わず立ち上がろうとしたのをレーグルに押さえられる。
このままだと盗み聞きになるが……? レーグルを見ると静かに、という身振りをする。盗み聞きが目的か。何故だ?
「別に逃げていた訳ではないぞ。それで、話とは?」
「お父様がお忙しいのは存じておりますわ。実は……」
「何かな?」
生い茂る薔薇の垣根の隙間から見ると、エメラルドはゆっくりと見回していた。けれどもこちらに気付く様子はない。
「実は、婚約破棄したいと思っていますの」
生まれて初めて、尻もちを着いた。
*小話*
レーグルさんは作者の一番のお気に入りで結構綿密な設定をお持ちですが、その設定は物語上全く必要ないので出てきません。




