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評価、ブックマークありがとうございます。
この物語は皆様の優しさに支えられております。
二話続けて読んでいただいた方が良いと思ったので、今回 二話(23、24話)続けて投稿してます。
泣いて帰った夜会から、すでに二週間が過ぎていた。
「暇だわ」
「もうすぐルビー様がいらっしゃいますよ」
ルビーは週に二回、刺繍を習いに来ている。今日も約束していた。
「それに、特に暇なわけではないかと存じますが」
「精神的に暇なのよね。領地の事とか屋敷の事とか別荘の事とか、色々考えることがたくさんあったのに、全て取り上げられてしまったわけだし」
「本来、エメラルド様のお仕事ではございませんから」
「そうかもしれないけれど、なんだか堕落していくような気がして困るわ」
今まで公爵家の仕事を手伝っていたのだけれども、ジェダイトが帰ってきたことによりその仕事が全てジェダイトに持っていかれてしまった。
マリアの言う通り、普通は公爵家の仕事というのは当主と後継ぎの仕事で、当主の妻や娘はそんなに手を出すことはない。
ちょっとお手伝いしたいとおねだりしたら父が割り振ってくれたのだけれど、ジェダイトは反対していた。今までいなかったからお仕事もらえていたのだ。
ここ最近は大陸のことで色々忙しい様子で、同じ家に住んでいるのにジェダイトとここ三日ほど会っていない。
……例の夜会からちょっと避けられているのよね。
忙しいのはジャスパーも同じようで、一緒に参加するはずだった夜会も全部キャンセルされた。
一日置きに手紙が届き、毎回会いに行けない理由が書かれていた。大陸の事で忙しいらしい。
ジャスパーと夜会に出ないとなると、私をエスコートする人がいなくなってしまうため二週間以上夜会に出席していなかった。
婚約者が決まっていなかった頃は親戚や友人の兄にエスコートしてもらったけれど、今はそんなわけにはいかない。
兄弟や恋人がエスコート出来ない時は父親がエスコートする場合もあるのだけれど、父は母以外をエスコートする気はないので、私は毎夜ひとり寂しく夕食を取っている。犬でも飼おうかしら。
昼のお茶会には出ているから、引きこもりではない。
「ルビー様の刺繍は間に合いそうですか?」
「前より上達しているわ。ちゃんと生き物に見えるようになってきたし。どうにか間に合うんじゃないかしら」
マリウスと食事をする件は、なんだか言い出せなくなってしまった。
急に泣き出したこと、マリウスなら気を使って触れないでいてくれるだろうけれど、私は気まずいわ。
「私を忘れないで」って、マリウスからしたら突然で疑問に思うし困惑するわよね。
ああ、あの夜会での出来事、無かったことにしたい……
ルビーみたいに強気に素直に行動できる人が羨ましいかも。
ルビーは裏表なく素直で、どんな身分の人にも同じく接するので、公爵家の人たちも快く受け入れている。
先週はジェダイトと話しているのを見た。
少し席を外している間に部屋に来ていたジェダイトは、それはもう甘い声でルビーに話しかけていた。
どうやら本気で口説いている様だ。まあ、今は私と気まずくなっているというのも拍車をかけているのかもしれない。
ルビーの刺繍を褒め、自分も欲しいと遠回しに告げている。
ただ、残念なことにルビーには全く伝わっていない。
ジャスパーしか目に入っていないからなのか、単純に鈍いのかどっちなのかしら。
ジャスパーは婚約パーティで一目惚れした時くらいしか彼女にうっとりしていなかったから、ルビーを目の前にしてうっとりし続けている男性を見るのは初めてだ。
私は夜会に行けないけれど、ジェダイトは夜会に行っている。婚約者のいない男性はひとりでも平気なのよね。
ジェダイトはルビーと夜会で会ったらダンスしているようだ。ルビーは無邪気に「昨日ジェダイト様と踊りましたよー」と教えてくれたので知っている。
ジェダイトとのダンスの感想を訊いたら「さすがの筋肉ですね」だったけれど。それを聞いたマリアは半笑いだった。
ジェダイトにとっては報われない恋なのよね。
ジェダイトはルビーが自分の妹の婚約者を好きって知らないのかしら。
そうよね。知らないからあんなに口説いているのよね。噂の事もジャスパーがルビーと踊ったことを知ってるだけみたいだったし。
……
教えてあげた方が良いのかしら。
…………
私が怒られそうな気がしてきたわ。やめておきましょう。
人の恋路に口出しするのは野暮だわ。そうよね。
お茶を飲んでいる間に、マリアは刺繍の用意しもてくれた。
タレンヴァインにあげる刺繍はほぼ出来上がっている。
ジャスパーはもちろん、父と母、ジェダイト、サルファー、エレスチャルといつものメンバーに加え、実はマリアとルビーにもハンカチを用意していた。
ルビーが刺繍をしている横で何もせずいるのは悪いので、どんどん刺繍をしていった結果である。
今日は誰の刺繍をしようかしら。王妃様にあげるのもいいわね。ほぼ毎週お茶会に呼ばれているし。
マリウスにはどうしようか。未だに迷っていた。迷いすぎよね。
一応、刺繍の図案は書き上げていた。
コントルシー家の紋章の鳥は小さな花を銜えている。その花を公爵家の紋章である百合にしてみる、というものだ。その気になれば一日で縫いあげる自信がある。
けれども、ジェダイトは私の気持ちに勘付いているだろう。渡したら絶対何か言われる。
次期公爵である彼はその気になれば私を国外追放できるほどの力がある。ゲームでもほのめかしたりしていたわ。
ジャスパーと婚約が続くなら国外追放なんてないだろうけれど……
私はルビーを応援したいと思っている。
それはつまり、ジャスパーとは婚約破棄するという事だ。
婚約破棄をするのに「ルビーを応援したいから」という理由では受け入れて貰えないだろう。
「他に好きな人が出来た」なら破棄できるかもしれない。
公爵令嬢としては問題だけど。
自分の意志を示すのにタレンヴァインはいい機会だと思う。
でも今の時点でマリウスが私を受け入れる確率は低い。
公爵家から正式に申し入れれば、爵位のないコントルシー家は断れないけれど……なんだか悪役っぽくない?
マリアは父がコントルシー家との交際を認めるだろうと言っていたけれど、父自身からどう思っているかは聞いてないのよね。
すでに話をしたい旨は伝えているのだけれども、当主は色々と忙しいみたい。
タレンヴァインまで捕まえられないかもしれないわ。
タレンヴァインは私や母が刺繍を渡すのを知っているから、毎年夕食を一緒に取って、その後数時間サロンで近況報告をし合っている。
公爵家当主となれば偉そうに命令してふんぞり返ることもできるのに、父は自ら行動し、態度も謙虚だ。王弟だからそれなりの教育をされて来たんだろうけれど、正直、何を考えているのかはよく分からない。
「エメラルド様、ルビー様がいらっしゃいました」
マリアに先導されてルビーが現れた。
ルビーは気まずそうに、手首に巻かれた包帯を撫でていた。




