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いつも読んでいただきありがとうございます。
この物語は皆様の優しさに支えられています。
明日、22話投稿予定ですので二夜連続お楽しみいただければ幸いです。
クレア夫人の夜会の翌朝。
私はベッドの上でシーツを被り後悔していた。
昨夜は泣き止まない私をジェダイトは何も言わず馬車に乗せ連れ帰った。
公爵家に着いてからは困った顔をしているジェダイトから逃げるように部屋に戻り、ドレスを脱ぎ捨てて下着姿でベッドに潜り込んだ。
悲しい、辛い、どうしてなの、という気持ちでいっぱいで涙が止まらず、そのまま眠ってしまい目が覚めたら朝になっていた。
思い出すと恥ずかしい。
マリウス……突然泣き出した私をどう思っただろうか。
あの時なぜあんなに絶望的な気持ちになったんだろう。マリウスとふたりで話せて浮かれていたかしら。
……浮かれていたわね。そして、ちょっと酔っていたわね。そこよ。酔ってたのよ。
度数が高いってマリウスが言っていたものね。イライラに任せてどんどん飲んでたわ。そのせいかも。
頭まで被っていたシーツを払いのけて部屋を見回すと、脱ぎ捨てたドレスは片付けられていた。
マリアは全く事情を知らないだろうから、心配しているかも。
そう思った瞬間、控えめにドアがノックされた。返事をするとマリアが入ってきた。
「おはようございます。エメラルド様」
「おはよう、マリア。昨日はごめんなさい」
「問題ございません。ジェダイト様は公爵様からお叱りを受けてますから」
「え?」
「公爵様よりエメラルド様は本日予定をキャンセルして一日ゆっくりするよう仰せつかっております。まだ眠っていてよろしいですよ」
「いえ、起きるわ。おなかも空いているし」
外の日差しの強さを見ると、お昼に近い時間だと思う。
近世の貴族だったらこのくらいの時間に起きていたかもしれないけれど、ここは日本のゲームの世界。どんなに夜遅くまで夜会に参加していてもちゃんと朝には起きるのが通常となっている。日本人怖い。
その分、睡眠時間が短くても生活に支障ない体になってるけど。
「朝食はこちらにお持ちします。お仕事は全てジェダイト様が引き受けることになっていますからご安心を」
「どういうこと?」
「昨夜の件、体調の悪くなったエメラルド様をコントルシー様が介抱していたのにジェダイト様が勘違いして騒ぎ立てた、という噂になり公爵様がお怒りに」
「え?」
騒いではいなかったと思うけど……? 私が泣いていたのは見られたかも。
夜会での噂があっという間に広がるのは知っているけれど、早すぎない?
「コントルシー様の信用が強すぎてジェダイト様が悪人になったようです」
「そうなの!?」
「エメラルド様がお酒を飲む姿は何人かの方が見ていたようでして、そんなエメラルド様にコントルシー様が水を持って行ったと」
「それ自体は確かに事実だけど、悪い噂にならないマリウスすごいわね」
漫画だとよくふたりきりになって襲われた話になるんだけれど。
「同時にエメラルド様は泣き上戸という噂も広まってしまいました」
「あら」
「お酒に弱いなんて可愛らしい、などと好感を得ております」
「それもまたすごいわね」
悪い噂にならなかったのは良かったわ。
そうすると、ジェダイトだけ悪い方向に取られてしまったのね。
「お兄様は何かおっしゃっていた?」
「自分が泣かせたのは確かだ、とおっしゃっていました」
そんな話をしていたらメイドが朝食を(もう昼になるけど)持って来たので食べることにする。
食べながら考える。
悪い噂にならなかったのは良かったけれど、あくまで噂だ。マリウスがどう感じたかは全く分からないし、ジェダイトも私が大泣きしたからって考えを変えたりはしないだろう。
公爵家らしい行動をしろ、という点はこれからも変わらないと考えると……
マリウスとは、会わない方が良いかも……
ジェダイトに注意されたのに、会うと舞い上がってしまう。
目の前にいるだけで嬉しくて公爵家らしい行動を取るのは難しいわ。
バルコニーで会話した時も好きって気持ちでいっぱいだったもの。
会えないのは……寂しいけれど……
……
考えただけでも会いたくなってくるわ。ダメね。
とりあえず目の前の朝食をしっかり食べることにする。
肉や野菜を挟んだサンドウィッチはとても美味しい。マリアが香りの良い紅茶を淹れてくれた。
「そういえばマリア、コントルシー様とお話してたわよね。何を話していたの?」
自分が話したことの方が衝撃過ぎて忘れるだところだった。
「エメラルド様にお礼をしたいが好みが分からない、とのことでしたので、私ではなくご本人にお伺いするようにおすすめしました」
「……マリアの助言があったのね」
そうよね。ほぼ接点がない人に対して直接意見を訊こうとはしないわよね。
マリウスとマリアは同等の身分だから話しやすいわよね。
ちょっと、うらやましくなってきたわ。
「結構長いことお話していたようだけど」
自分で思っていたより低い声になってしまい、マリアが慌てて紅茶のポットを置いた。
「ええと、コントルシー様は友好範囲がお広いようで、私の恋人とも食事をしたことがあるとのことで、それについて少しお話しいたしました」
「あら、そうなの?」
「コントルシー様は誘われたらほぼ断らないご様子ですので、エメラルド様も誘ってみるのはいかがですか?」
「え!? そ、それは出来たら嬉しいけれど」
いや待って。マリウスの前で食事するの? マリウスの前で咀嚼するの!?
無理無理! 見るのは良いけど見られるのは嫌だわ!
「初めはおふたりでなくても、ルビーさんと三人で、でも結構かと存じます」
「……そうね…」
でもそうすると、ふたりが仲が良いのを間近で見ることになるわね。
「明日ルビーさんがまた刺繍を習いにいらっしゃいますし、相談してみてはいかがでしょう」
私の複雑な思いをよそに、マリアは優しく微笑んだ。
マリアはまだ私がマリウスを選ぶのに賛成なのね。
ジェダイトがああだと難しいと思うのよね。
公爵家らしい行動と言っていたけれども、現当主であるお父様はどう思っているのかしら。
お父様は忙しくて同じ屋敷に住んでいるのに週に一回会えればいい方なのよね。話をするのは結構大変だわ。
それに、ジャスパーとの婚約を承諾したばかりなのにマリウスを好きだとは、ちょっと言いにくいわね。
昨日会うはずだったジャスパーは、今何をしているかしら。




