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評価、ブックマークありがとうございます。読んでいただけるだけでも嬉しいです。
この物語は皆様の優しさに支えられています。
生まれた時から貴族な人多いのにマナー違反する人が多いという、物語的にはアレですがよろしくお願いします。
バルコニーには誰もいなかった。手すりに寄りかかり持って来た飲み物を口にする。
適当に取ったそれは何種類かのフルーツを混ぜたジュースだった。甘くて飲みやすい。
バルコニーから見える庭はライトアップされていて幻想的だった。この美しい庭なら散策も楽しいだろう。女性一人では危ないだろうけれど。
……そういうイベントあったかしら……庭では無いわね。バルコニーでエメラルドがルビーを突き落とそうとするイベントはあったわね。ひどいわエメラルド。私だけどじゃないわ。
後ろを振り返ると、皆バルコニーはここに無いかの様に夜会を楽しんでいた。
音楽と笑い声。食事とお喋りとダンス。
それなのにこんな所でただ一人ジュースを飲んでいる。
踊る人々の中に自分と同じ色のドレスが見えたような気がして、私は再び庭へ体を向けた。
ジェダイトへのイライラやムカつきは収まりつつある。
ルビーやマリアにマリウスのことを言われてもいまいち乗れなかったのは、きっと心のどこかでジェダイトが言ったことを考えていたからなのかも。
このままジャスパーと結婚するのがいいのかしら。
でもルビーの気持ちも大切にしたい……
自分の気持ちも…
「失礼、飲みやすくてもゆっくり飲んだ方が良いですよ。口当たりの良さからは想像できないくらい度数が高い」
ジュースを一気に飲み干そうとした瞬間、後ろから声をかけられた。
振り向くまでもない、マリウスだ。
グラスを傾けるのはやめて、ゆっくりと振り返る。
マリウスはバルコニーの入口に立ちこちらを見ていた。
柔らかく優しい声。ゲームではマリウスに声は付いていなかったけれど、この声はとても好きだ。
ジェダイトにああ言われたのに、声を聞くだけで嬉しいと思う。
この想いはどうすればいいの?
「私もご一緒してよろしいですか?」
「……もちろんですわ。星がとても綺麗ですのよ」
うっとりしている場合じゃない。慌てて礼をして近付く許可を出す。
マリウスはすぐには近付かず給仕を呼び止めてから私に近付き、私からグラスをサッと取り給仕に渡した。
そして給仕がトレイに乗せていた透明な液体の入ったグラスを二つ手に取った。
ひとつを私に差し出すので礼を言って受け取る。
会場から飲み物を持ってくるのではなくわざわざ給仕を呼んだのは、私に対する配慮だろう。自分たちがここにいるという目撃者がいる、という配慮。やましいことは何もない、という意思表示。
変な噂に発展する場合もあるけれどね。
でもマリウス、私に何の用かしら。
何と声をかけるべきか悩みながら貰ったグラスの液体を一口飲む。
「……水、ですわね」
「さっきの飲み物はアルコール度数が高いものです。こちらでクールダウンを」
優しい!
ど、どうしよう。ドキドキしてきたわ。顔が火照ってきたわ。
マリウスは手を伸ばしても届かない所に立っている。立場上適度な距離。それでもあと一歩近付きたい。それを私は堪えていた。
誰に見られているかは分からない。公爵家の人間らしく対応しなければならない。
くだらないと思う。悲しいと思う。気持ちのままに行動するならマリウスと並んで意味のないお喋りをしたい。
でもそれは許されない。ジェダイトに身分のことを言われたばかりでそんなことは出来ない。
「コントルシー様もクレア夫人にお招きされたのかしら?」
身分の高い者から話を振る慣習。もう今さらだけれどマリウスが話しやすいように。
「はい。ありがたいことに。本来なら爵位のない私の出席は出来かねるのですが、数年前から度々お声掛けいただいています」
公爵家は基本的に爵位のある人しか呼ばないからうちで会うことは無いわね。
こうして会えるのも本当は珍しいことなんだわ。やっぱり嬉しい! 叫びたいわ! 歌いたいわ! いえ、落ち着きなさいエメラルド! 落ち着けるために水をもう一口飲む。
「先日は大変失礼いたしました。改めて謝罪いたします」
「け、結構ですのよ。むしろ感謝してますの。こちらこそ謝罪とお礼を申し上げますわ」
頭を下げるマリウスに慌ててしまった。心拍数は普段の倍になっている。よく噛まずに言えたわ私。
「もったいないお言葉です」
嬉しそうに微笑んだ! あああああ好き! ど、どうしよう、好きだわ!
「何かお詫びをしたいと思ったのですが、お恥ずかしながらエメラルド様が何を好むのか分からずご用意できていないのです。王太子殿下にお会いした時にお伺いしたのですが、気にするなと言われてしまいました。何か私に出来ることはございませんか?」
こんなに長文を喋るマリウスを近くで見るのは初めてね…じゃない、あの後ジャスパーと話をしていたの!? ジャスパーは何も言ってなかったけど。
「お詫びなんて、それほどのことではございませんわ!」
「それでは私の気が済まないのです。なんでもお申し付け下さい」
なんでも!? なんでもって言った!? 待って、ただでさえマリウスなのに、男性からこういうこと言われるのは初めてだわ。
どう答えれば良いのかしら!? 何をしてもらえばいいかしら!?
マリウスを見ると微笑みながら私の返事を待っている。優しい顔だわ。好きだわ。まずいわ、好きって事しか出てこないわ。
ジェダイトの顔を思い浮かべて落ち着きましょう、いえ、無理だわ目の前にマリウスがいるのに他の人の顔なんて浮かばないわ。どうすればいいの?
「エメラルド」
あ。
「こんなところに」
時間切れだ。バルコニーの入口にジェダイトがいた。
ジェダイトは言葉を止め、マリウスと私を見た。
私に忠告したのにふたりでいることに怒っているのだろうか。でもマリウスと私は適した距離にいる。話の内容も責められることは何一つない。
「酔いそうになったところをコントルシー様に助けていただきましたの。それだけですわ」
口調が固くなってしまうのを止められなかった。
もっと話をしたかったのに。
何の話を?
分からない。それでも。
それでも好きな人が目の前にいて私に話しかけてくれて私の話を聞いてくれる、そんな奇跡だったのに。
「エ、エメラルド!?」
ジェダイトが慌てた様子で私に近付いた。その姿が歪む。
目からぽろりと落ちる感触。
私、泣いているのね。
泣き止まなければ、と思ったものの止まらなかった。
マリウスに見られたくない。
私はジェダイトに隠れるように寄り添った。
ジェダイトがマリウスに「失礼」と声をかけて私を連れ出そうとする。
マリウスは……
ジェダイトの隙間からマリウスを見ると心配そうに私を見ていた。
「マリウス様」
私の口から零れ落ちた声にジェダイトは足を止めた。
ジェダイトの腕に隠れながら震える声で続けた。
「なんでもとおっしゃるなら……私の事を忘れないで」
このまま流されるようにジャスパーと結婚しても。
ジャスパーがルビーを選んでも。
私がゲームの様に消えていっても、私を覚えていて欲しい。
生きている、作り物ではないエメラルドの事を。
感情が高ぶると名前で呼んじゃうエメラルド様だった。(前科あり)




