19 クレア夫人の夜会
評価、ブックマーク、感想ありがとうございます。
この物語は皆さんの優しさに支えられております。
感想はとても嬉しかったです。ありがとうございます。
人物(名前)が多いですが、皆さん大丈夫ですか?
エメラルド:主人公。前世の記憶がある。
ジェダイト:エメラルドの兄。剣が強い。
ジャスパー:エメラルドの婚約者。王太子。
ルビー:平民だったけど伯爵令嬢になった少女。姓はクルジット。
マリウス:爵位のない貴族。姓はコントルシー。
クレア夫人:侯爵夫人。
サルファー:辺境伯。エメラルドの幼馴染。
マリア:エメラルドの侍女。
アゲート:ジャスパーの異母弟。
ジェダイトは挨拶が終わったらすぐルビーの所へ行くと思っていたのだけれども、まずは踊ろうか、と私をダンスに誘った。
きっとシスコンパワーね。今後どうなるのかしら。
ダンスは話をするにはいい機会だ。
「お兄様は私やジャスパー様の噂についてご存じですの?」
「お前を差し置いてクルジット嬢と踊ったことは知っているよ。婚約破棄はいつでもできるように書類はすでに用意しているから、何かあったらすぐに私に言うんだよ」
ジャスパー、すでに嫌われている様だわ。子供の頃は仲良かったはずだけれど。
「クレア夫人は耳が早いな。アゲート殿のことが出てくるとは」
「アゲート様? 何かございますの?」
「大陸からの外交官の対応を任されることになっている。この国の外交官として働いてもらうことになるだろう」
「あら! 初耳ですわ」
「今日の昼間の会議で決定したことだ」
確かにゲームでのアゲートは外務を任されていた。アゲートは秀才で何ヵ国語も話せる。ゲームでは大陸のことは出てこないけれど、各国の橋渡しをする筆頭外交官がアゲートだ。
ゲームでは体調を悪くして中庭で休んでいたアゲートをルビーが見つける、というのが出会いだ。
アゲートと結ばれるとエンディングでは各国を飛び回ることになる。ちなみにエメラルドは婚約者として登場していつも通りルビーをイジメる。
クレア夫人がアゲートを出してきたのはなぜかしら。彼とはマリウスより接点が無いんですけど。
「アゲート様が私に何かございますの?」
「アゲート殿にも結婚していただきたいという話が出ているということだよ。大丈夫。各国を飛び回るような仕事を夫に持つのは私は反対だ。例え王が望んでも私が許さない。安心して良いよ」
そういう話が出ているってことね。人気者ねエメラルド。でもいくらジェダイトでも王に言われたらむりじゃないかしら。
「サルファーの名前も出ていたけれども、彼も何かあるの?」
「……」
あら、黙っちゃったわ。見上げると何か言いたげに私を見下ろしている。何かしら。
「あいつ……今度極上のワインを贈ってやろう……」
どういう事なのかしら。じっと見つめてみたけれど、なんでもないよ、と笑顔を返される。
サルファーにも何かあるのかしら。ゲームではルビーに一途でエメラルドのことは相手にしてないのよね。
現実には私と良いお友達関係ですけど。でもこの様子だとジェダイトは何も教えてくれなそうね。マリアなら何か知っているかしら。
あとジェダイト、さっきからチラチラとルビーを見ているわね。曲が終わるまでもう少しよ。
そういえばマリウスはどこにいるのかしら。ルビーと一緒かしら。
ジェダイトが黙ったのをいいことに、私は踊りながらマリウスを探し……って!
マリアと話をしているんですけど!?
え!? 待って!? どういうこと!?
マリアだってマリウスと接点ないはずだけど!? いえ、待って。私の知らない所でマリアがマリウスと会っている可能性も……? マリアは子供の頃から住み込みで私の侍女として働いて貰っているけれど、実際はマリウスと同じ爵位のない貴族令嬢だ。
恋人もいると聞いたことがある。恋人は次男だから結婚しても侍女として働けます、と言っていた。私はそれを大層喜んだ記憶がある。
「エメラルド」
ジェダイトの呼びかけに顔を上げる。
「コントルシー殿とは、仲が良いのかい?」
「!」
どう答えればいいのかしら。
「何度か……ルビーさんと知り合って何度かお会いしたことがありますわ……」
事実としてはそうなのよね。
特別何かお近づきになれるようなことがあったわけじゃないのよ。
手にキスされたけど。
…………
思い出すと心拍数上がるわ! そういえばあれから会うのは今日が初めてね。あら、会ったらどうすればいいのかしら。
もう一度マリアを見る。
まだ話しているわ。何の話をしているのかしら。
「コントルシー家の行動は尊敬に値する。しかし私たちとは身分が違う。友人になるのは良いが、それ以上はあまり推奨しない」
思わず、足が止まってしまった。
殴られたような気持ち、とはこのことだ。
一瞬で全身が冷たくなり、体が動かなくなる。
ジェダイトはそんな私を見て驚いたものの、冷静に私をダンスの輪から連れ出した。
「エメラルド」
何も言えない私に優しい声で呼びかける。
「聡明な君なら分かるだろう。私たちは公爵家の人間だ。それ相応の行動が望まれる。王太子との婚約もそのひとつだ。私たちは常に貴族の中でも見本になるように気高く生きなければならない。特に君は、皆に注目されている」
「そんなの知らないわ」
考えることもなく、口から勝手にそう出ていた。
「お兄様だって、ルビーさんに見惚れていたじゃない」
「……彼女は伯爵令嬢だ」
ジェダイトは否定しなかった。それでも、困ったような顔をしている。
「そうね……それにお兄様は男だものね。ジャスパー様と一緒。次期公爵様はお好きな女性をダンスに誘えるし、お好きな女性と結婚できるわねジャスパー様と一緒で」
「エメラルド」
「女に生まれたことがこんなにも不自由とは思いませんでしたわ。どんな言葉で私を褒め称えたとしても、結局心は無視される人形なのですね」
「エメラルド、そういうわけではない」
「この世界が初めから不平等なのを忘れていましたわ」
「エメラルド、落ち着くんだ。何か飲もう」
「結構です」
曲が終わる前にダンスから抜け出して言い争っている私たちに、周りが気付いていた。
ジェダイトも周りを気にしている。その姿にも私はイライラした。
顔を逸らすと、ルビーが心配そうにこちらを見ているのが見えた。
ルビーって、夜会では私の事を心配してばかりいるわね。
「外の空気を吸ってきますわ。お兄様はルビーさんのお相手を。さっき約束していらしたでしょう」
そう言って返事を聞かずジェダイトから離れた。
ハッキリ言ってムカついている。イライラしている。
マリウスのことを否定されたのが嫌だった。そう、私は、マリアの言葉に勝手に期待してしまっていたのだ。
公爵家の人間は味方だと。
でも実際は何も事情は変わっていない。
公爵令嬢の私と爵位のないマリウスには接点がない。それは、地位の差を表す。
爵位のない生き方を、平等な前世を知っているととてもまどろっこしいし、くだらない。
でも自分ではどうにもできない。それが苛立たしい。
前世が、とてもいい世界に思えた。うらやましい、そんな気持ちがこみ上げる。
前世では私に恋人はいたかしら……
思い出そうとすると、ずきん、と頭が痛む。
一旦気持ちを落ち着けよう。
飲み物を配っている給仕からひとつ受け取り、バルコニーへ足を向ける。
満天の星空は、まるで絵にかいた作り物の様だ。
作り物。
ゲームの世界なのだから確かにこれは作り物なのだ。
私はここで確かに、生きているのに。




