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 評価、ブックマークありがとうございます。

 この物語は皆様の優しさに支えられております。



 ちなみに、ルビーが強気になったのには理由があるのですが、エメラルドとジャスパーの関わらない所での出来事なので出てきません。


 その後もルビーは練習を続けていた。


「どうしてこの鷹は口を開けているんでしょう」

「王族の紋章は広げた翼は国全体を守り、その声は国全体に響き渡る、という意味がございますわ」

「そのせいで指が血まみれなんですけど」

「あら、その大きさでも難しい?」

「泣きたくなってきました……」

 ルビーはそう言いつつも手を休めなかった。恋の力ってすごいわね。

 私はすでに縫い終わっちゃったけど。紅茶も二杯目。


 婚約者であるジャスパーに何も贈らないわけにはいかないので、私も教えるついでに王家の紋章入りのしおりを作っていた。薄い布に紋章を縫って厚紙を包むように張り付けるという簡単なものだ。

 しおりなので親指ほどの大きさの紋章だけれど、ちゃんと一目で王家の紋章だと分かる出来栄えだ。

 長年の練習の成果が発揮できていて達成感がある。


「こんなに王家の紋章を見つめ続けたのは、生まれて初めてです」

「その口の部分、難しいようなら閉じてもいいんじゃないかしら。ねえマリア、わりと皆閉じて縫うわよね」

「王妃様がエメラルド様のその部分をとても褒めていたのを覚えています」

 私の言葉にマリアは嬉しそうに答えた。ルビーは涙目でプルプル震えだした。そろそろ休憩した方が良いかもしれない。

 マリアを見ると頷いて部屋から出て行く。


「エメラルド様、マリウスへの刺繍はどうするんですか?」

 マリアが出て行った途端ルビーは早口でそう言った。私は飲もうとしていた紅茶を噴きそうになるのを堪えた。

「……まだちょっと、迷っていますの」

「そうなんですか?」

「まあ、ジャスパー様以外の方にも毎年差し上げていますから、一人増えた所でどうなるわけでもないのですけど」

「変わりますよ! 気持ちです気持ち!」

 ルビーはにっこりと笑った。この笑顔、昨日も見たわね。

「ルビーさんはマ…コントルシー様と、仲が良いのよね」

「付き合いが長いってだけで、特別仲良しなわけじゃないですよ。教会のボランティアで初めて会ったんですけど、天然ボケっていうか抜けてるところ多くて、色々助けている間に仲良くなったんです。あの人、身分とか気にしないから話しやすかったし」

 教会のボランティア……日常的に人のために動いているのね。聖者と呼ばれるわけだわ。

 それにしてもマリウスはルビーのこと好きみたいなのに、ルビーは全く気付いていないのね。ちょっと可哀想。


「ルビーさんは不思議な人ね」

「そうですか? 育ちが違うからそう見えるんじゃないでしょうか」

「好きな人の婚約者に敵意がないって不思議だわ」

「エメラルド様には嫌いになる要素がないですもん」

「そうかしら。例えばその刺繍、ジャスパー様に差し上げた翌日に破いて捨てるかもしれませんわ」

「エメラルド様はそんなことしませんし、まず、渡せたってことが大事だと思うんです。破られてしまったらまた作……いえ、刺繍したのを破られたら泣くかも……」

 しょぼんと手元の刺繍を見ている。

「ま、まあ私はそのようなことはいたしませんからご安心ください」

 思わずフォローしてしまう。これよね。ヒロインの魔力よね。

「お互い、恋が叶うといいですね! いえ、叶えましょう! 絶対! マリウスだってエメラルド様から刺繍を貰ったら嬉しいですよ!」

「そうかしら」

「誰よりも聡明で美しいと言われるエメラルド様からもらうなんて名誉なことです! さらに好意があるなんて素敵です!」

 力説しながら刺繍をしようとして針を指に刺しそうになっているのでお茶にしましょう、とさっと刺繍を取り上げた。

 刺繍は鷹の頭が五角形である。先が思いやられる。


「接点のない私がコントルシー様に刺繍を贈るのは不自然ではないかしら」

「大丈夫だと思いますよ。最近王太子殿下と仲が良いと噂されてるんです。そのつながりだと皆思うと思います」

「え? ジャスパー様と? コントルシー様が?」

「色々なパーティーで話しているのを私も何度も見てるんです。マリウス本人に何を話してるのって訊いたら世間話しかしてないって言ってました。見た感じもにこやかに会話をしているんで皆仲良しだと思っていると思います」

 大丈夫なのかしら。ジャスパーは私がマリウスを気にしているのを知っているのよね。

 にこやかに話していてもそれは見た目だけなのが貴族だわ。ジャスパーは喧嘩を売ったり嫌味を言ったりするような人ではないと思うけど。多分。


「まー、マリウスは鈍いんで、実際はどういう話をしているのか分からないんですけど。エメラルド様に手を出すな的なことは言われているかもしれません」

「ジャスパー様はそういうことを言う人ではございませんわ」

「いえいえ、マリウスがエメラルド様にキスした時の顔すごかったですもん。右手を左の腰に当てたの見ました? あれ、剣を抜こうとしたんですよね。剣持ってなかったけど。私もあんなふうに愛されたいです」

 そんな動きしてたかしら。マリウスしか見てなかったわ。

「ちなみにマリウスはエメラルド様しか見てなかったから気付かなかったそうです」


 わたししかみてなかった。

 …………

 顔が、あつい……!


 ルビーはにっこりと笑った。あの笑顔。


「私、エメラルド様応援してます!」

 傷だらけの手で握りこぶしを作るルビーに私は笑顔を返した。

 扇で顔を扇ぎながら紅茶を飲む。マリア、遅いわね。


 ルビーとジャスパーが並んでいる姿はすぐ思い浮かべることができる。ゲームのイラストではなく、実際の二人の姿で。

 でも、私とマリウス? マリウスが隣にいるのを想像するのは難しい。


 マリアが戻ってきたけれど、お茶の用意ではなく、ルビーのお迎えが来たと告げた。

 今夜出席する夜会の用意があるらしい。


「ダンス上手くなったわねって褒めてくれた侯爵夫人なんです」

「クレア夫人かしら? 私も今日の夜会に呼ばれていますわ」

「そうなんですか! マリウスも行くか訊いておくんだった…!」

 後半は小声で困ったような顔をしている。

「いいのよ。お互い、楽しみましょうね」


 また二日後に刺繍を教える約束をしてルビーは帰って行った。

「少々早いですけれども、エメラルド様も用意いたしますか?」

「そうね。刺繍道具を片付けておいてもらえるかしら」

 そう言って部屋に戻るとメイドたちが夜会に来ていくドレスを選んでいた。ある程度候補が決まるまで任せておこう。


 ……そういえばルビーとドレスが被るのもゲームにあったわね。大丈夫かしら。

 イベントというほどではないけれど、ドレスが被ったことに怒ってテラスに呼び出してワインをかけようとするのよね。もちろん助けが入るんだけれど、あれは誰を選んだ時のシナリオだったかしら。

 メインイベントはちゃんと覚えているんだけれど、細かいシナリオは忘れているところもあるのよね。

 ルビーが木に登るイベントも忘れていたし。自分の記憶がもどかしいわ。


 メイドが選び出したのは淡い緑色のドレスだった。

 ゲームでは見たことのないドレスでほっとした。



 

*小話*

 クレア夫人はエメラルドと同じで周りから一目置かれている人物です。

 侯爵家の人間であることより彼女個人が評価されているので「侯爵」を付けて呼ばれることはあまりない、という設定があるのですが、出さなくても物語に支障はないのでカットしました。

 それほど重要な人物ではないので、なんか偉そうな人、と覚えて頂ければ結構です。



 








 実は人物設定はルビー視点で出してたのですが、ルビー視点全カットしちゃったんですよね。てへっ☆

 (当初は三人の視点で話が進む予定でした)

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