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評価、ブックマークありがとうございます。
この物語は皆様の優しさに支えられています。
ちょっと迷いながら書いているのが申し訳ない。
「辞書の壊滅的という項目に、クルジット様の刺繍のことを書き足さなくてはなりません」
「マリアさん! 待ってどこ行くの!?」
「とりあえずエメラルド様の部屋の辞書から」
「待って! 本当に待って! ねえ、行かないでよ!」
マリアの腰に抱き着くルビーを私は笑って見ていた。
今朝、ルビーから今日刺繍を教えてくれないかと手紙が届いた。
タレンヴァインまであと一カ月しかない、それまでに上達するにはなるべく早く練習を始めたい、ということだった。
「昼食を一緒に取り、その後に刺繍をしませんか」という手紙を従者に渡し、了承の手紙が来た。
現在、昼食後30分経過したところだ。
初めのうちは厳しい態度だったマリアも、ルビーの素直な性格に大分ほだされていた。
マリアとは仲良く会話しているけれども、私に対してはまだ緊張しているのよね。噛むしどもるし。
そして、肝心の刺繍。
ゲームでもルビーの刺繍は壊滅的だったと出ていたし、ボロボロのイラストが出ていたけれども。
ここまでとは。実写? になるとむごたらしいわ……
ルビーとマリアがじゃれている間にルビーの刺繍を手に取って見る。近くで見てもどうしてこうなっているのか分からない謎の刺繍だ。まだ半分までだけれど王家の鷹の紋章が生クリームにしか見えない。
「道具は同じものを使っているし、下書きは私がしたし……力加減かしら?」
「あの、ち、力を入れすぎってことですか? でも力を抜くと針が握れないし」
「針は握るというか、つまむ感じじゃないかしら?」
「つ、つまむ?」
マリアが腰からルビーをはがして席に座らせる。
「クルジット様、刺繍はともかく平民でも繕い物くらいするんじゃありませんか?」
「実は平民の街には繕い物専門店といって、繕い物を全て引き受けてくれるお店があるんです!」
「威張って言うものではございません!」
「ごっごめんなさい……」
「エメラルド様は8歳の時から刺繍もこなしていましたよ」
「エメラルド様とはもともと出来が違うんです!」
「当たり前です! そして威張って言う事ではございません」
「私も別に得意ってわけではないのよね」
『えっ!?』
ルビーとマリアがハモった。ルビーはともかくマリアは子供の頃から一緒なのに。
「嫌いではないと言うだけで、別に進んでやろうとは思いませんわ。王家の紋章は何度も練習しましたからうまくできるようになりましたの」
子供の頃は公爵家の仕事を手伝うことが出来なかったので読書や刺繍しかやることがなかった。そのおかげで上達したのかもしれない。
それと、多分前世も。
うっすら覚えている。前世も私は女で、多分、多少の裁縫はこなしていた。
「前世の感覚を脳が覚えていたのかも」
「ぜ、前世ですか?」
小さくつぶやいたのをルビーに聞かれてしまった。
「私も城下町で占ってもらった事ありますよ! 前世は犬を飼っていたそうです」
何を言っているのかと訝しがられるかと思ったらすんなり受け入れられた。
「犬」
マリアが今まで見たことない顔でルビーを凝視している。なんだコイツって顔に書いてあるわ。
「すごい当たるって有名な占い師でセンガンのオババって言われていました! 確実です!」
「洗顔? 千顔?」
「世界の全てを見通すらしいです」
「千里眼では」
「それです!」
「なぜセンガンでおかしいと思わないのですか」
「えへへ」
この二人、ずっと会話させてたいわ。
「オババの占いって本当に当たるんですよ。私、20歳前に生活ががらりと変わるって言われたんです。今まで考えたこともない体験をたくさんするけど、今まで通りの自分でいれば大丈夫だって。その通りになってます」
「それは当たってそうね」
「エメラルド様、騙されてはなりません。この国の女性は貴族も平民も20歳前に結婚いたしますわ。結婚すれば生活が変わるのは当たり前です」
「マリアさんきびしいー!」
「客観的意見です!」
占いね。
「ねえ、もし、これから起こることが全て書かれている……本、があったとしたら、ルビーさんは読もうと思う?」
「未来が分かる本……預言書ですか?」
「まあ、そんな感じの物ね」
「間違いなく読みますね! 未来が分かるってワクワクしませんか?」
この子本当にポジティブよね。
「読んだのに、その予言書と実際に起こったことが異なっていたら、どう?」
ルビーはうーん、と首を傾げたけれど、マリアはきっぱりと言い切った。
「私は捨てますね、その予言書」
「えー! もったいない! まだ分からないじゃないですか! 私は読み続けますね! 全部外れるとは限らないじゃないですかー!」
全部外れるとは、限らない……
「でも、何が外れて何が当たるのか分からないのよ? 混乱しないかしら。外れたと思ったら当たったりするかも……」
自分で言いながら、マリアが言う通り前世で知ったことは全て捨ててしまった方が、忘れてしまった方が良いような気がしてきた。囚われすぎているわよね、私。
「嫌な事なら前もって知っていれば変えられるかもしれないじゃないですか。変えられなくても心構えができるし。そして嬉しいことが起こるのが分かっていれば待ち遠しくてワクワクします!」
嫌なことを変える……
私が今、嫌だと思っていることは結局なんだろう……
そう。
ひとりぼっちになること。
皆から忘れられること。
物語から弾かれて、無くなってしまう事。
それが嫌なんだと思う。
残念ながら“預言書”には「嬉しいこと」は無いんだけどね。
「エメラルド様も占いとか好きなんですか?」
「え? ええ、当たると楽しいですわよね」
「今度機会があったら一緒に生きませんか、センリガンのオババに会いに」
「エメラルド様を城下町にお連れになるおつもりですか!?」
「比較的安全な地域だから大丈夫ですよ」
「あなたのいう事は六割がた信用できません」
「六割! 微妙!」
「その白い生クリームの刺繍が鷹になったら多少見直して差し上げます」
「生クリームって……言い返せない!」
しょぼんとするルビーを見ると、やはり助けてあげたいという気持ちがこみ上げる。
「ルビーさん、もう一度最初からやってみましょう」
はにかむルビーは本当に可愛らしい。
私が彼女の様に自分の気持ちに素直になるには、まだ時間が必要だった。
読んでいただきありがとうございます。




