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ブックマーク件数200件記念、二夜連続臨時投稿です。
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タレンヴァイン。
女性から好きな男性に刺繍を贈るイベントだ。
チョコが刺繍に変わるものの、バレンタインと同じで贈るものは手作りだったりお店で売られているものだったりと決まっていない。
ただ貴族はたしなみとして、自分の好きな花や相手の紋章をハンカチに刺して送るのが主流だ。
ゲームではルビーはジャスパーに王家の紋章と自分の好きな花を並べた刺繍をハンカチに刺して贈る。
ルビーは料理は得意だけれども裁縫は壊滅的で、贈った刺繍もとてもひどい出来なのだ。
それでもジャスパーはとても喜んで受け取る。選択肢によってはキスまでしてもらえる。
ここまでならとても楽しく幸せなイベントだ。
翌日、エメラルドがジャスパーに贈ったはずのハンカチをルビーに返しに来る。悪口雑言を添えて。
目の前にポイッと落とし靴で踏みにじりドロドロにする。
ルビーは婚約者がいる人を好きになってしまった自分と、無残な姿になったハンカチに嘆くのだ。
あのイベントは泣いた。
ひどすぎるわエメラルド。
私だけど。いや違うけど。
そういう経緯を知っていると、目の前のルビーの強気な姿勢もどうしていいのか迷ってしまう。
つい傍にいるマリアを見てしまうと……あら、ちょっと楽しそうな表情しているんですけど。どういうこと?
「あの、マリウス、うちにはすごく気軽に遊びに来てくれるんで、タレンヴァイン当日に私がエメラルド様の所に連れて行きます! さすがのマリウスも、刺繍を渡されれば意識してくれると思うんです!」
「…そんな簡単なものではないと思うの」
「誕生日や聖夜祭もそうですけど、イベントに乗じて仲を深めるのってアリじゃないですか? 貴族は違うんですか? きっかけがあれば好きになってもらえるかもって思えば勇気が出ませんか?」
「ルビーさん、落ち着いて」
身を乗り出して力説するルビーを抑えるようにそう言うと、ハッとしたように身を引いた。
「ごめんなさい……私」
ルビーは持っていた本をぎゅっと抱きしめた。
「ジャスパー様のこと……好きなんです……」
まあ、知ってる。
「それで……この国の王族は前に婚約破棄したことがあるって聞いて」
そうね。この国の歴史は短くない。その中で何度か婚約破棄して別の方と結婚したことあるわね。割と考え方が柔らかのよね。
「つまり狙っていると。宣誓布告ですね」
私ではなくマリアがハッキリとそう言った。
ルビーは視線を三秒くらい彷徨わせた後私を見て、マリアを見て、もう一度私を見て大きく頷いた。
「そうです。私、気持ちを抑えたくない」
その瞳が、とても美しいと思った。
この瞳で見つめられたら、敵わないじゃない。
「そうね。私はともかく……ルビーさんはジャスパー様に贈るのは良いと思うわ」
そう言うとルビーの瞳がさらに輝いた。
「でもルビーさん、刺繍は大丈夫?」
「はうっ!」
あ、固まった。
王家の紋章って鷹が羽を広げているのだけれども、それを刺繍するのって大変なのよね。
私は子供の頃から色々な紋章練習させられたからどうにかできるけれども、それでもあの紋章は進んで刺繍しようとは思わないわ。
「私……というか、平民のほとんどは刺繍なんてしません……」
知ってる。
「買ったものではダメ、ですよね……」
「そうね。そもそも王家の紋章入りのハンカチなんて売ってないんじゃないかしら」
「ぴょい!」
この子、感情が振り切った時の声面白いわね。
さっきまでまっすぐで強気だった瞳に迷いが生じている。
なんだか、もったいないわ。あの瞳、ずっと見ていたくなるもの。
「よろしければ、私がコツなどお教えいたしますわ」
思い付きを口にすればまた瞳に力強い光が灯った。
ああ、きっとこの瞳に、男性方は惹かれていくのね。
近いうちにまたお会いしましょう、と約束して私たちは中庭を後にした。
絶対ですよ、と繰り返すルビーはとても輝いていて応援したくなった。
そして、帰りの馬車の中。
「マリア、色々訊きたいんだけど」
馬車が動き出した途端、向かい側に座ったマリアに話しかける。
「私に答えられることでしたらなんでもお答えいたします」
「さっき楽しそうだったのはなぜ?」
「私、楽しそうにしていました?」
「ええ、とても」
「さようでございますか……失礼いたしました」
「そうではなくて、理由を聞いているの」
「簡単に申しますと」
「ええ」
「私、エメラルド様には本当に好きな方とご結婚していただきたいと思っております。そう考えると、王太子殿下のことはそれほどお慕いしていらっしゃらないように見受けられまして」
「……」
それについては反論できない。
ルビーに無難に答えた通り、私はジャスパーのことを特別に好きではない。
実際、ゲームと違う展開になっていることにとても動揺している。動揺して、どうしていいか分からなくなっているし、変に期待しているのも自覚している。
「もう一点、エメラルド様がコントルシーのご嫡男とご縁ができることに関しては反対致しません。多分、公爵様も」
「え? お父様も?」
マリアは笑顔で頷いた。
「コントルシー家について、エメラルド様はどのくらいご存知でしょうか」
「……あまり知らないわ」
ゲームではマリウスは出てくるけれどコントルシー家に関しては全く出てこない。
ついこの前までマリウスの存在をすっかり忘れていたのだ。爵位のない貴族という事しか知らない。
「コントルシー家にあって、公爵家に無いものがございます。それゆえに、公爵様も反対いたしません」
「無いもの? 何かしら」
「聖者の実績です」
「聖者の…?」
「コントルシー家は代々、災害や困っている方がいれば迷わず手を差し伸べているのです。歴史長く続いているのは、周囲の人間に好かれているからでしょう。それに比べて公爵家はその力や組織の大きさが災いして、中々救いの手を差し伸べません。王家から要請があれば対応しますが……最近で言うと数年前の南部の川の氾濫、公爵家は見舞金は送りましたが、氾濫中は傍観していました。私、ちょっとあの時腹が立ちましたのでよく覚えております」
「私も覚えているわ。三年前よね」
南部にある大きい川は普段は全く問題ないのだけれども、大雨が何日か続くと水の勢いが何倍にもなる。
その南部に一週間以上も雨が降り続いたのだ。氾濫し何人もの人が流され、亡くなった。
「つまり、偉そうにしているけど何もしてない我が公爵家に、聖者コントルシー家との縁が出来れば、その非道さもうやむやになりそうという狙いなのね」
「非道、というのは言い過ぎかと存じますが、あのコントルシー家が手を取った、となれば公爵家の評判も上がりますわ」
「なんだか、嫌なお話ね」
「貴族とはそういうものです。けれども、そのおかげでエメラルド様はマリウス様をあきらめる必要はないのですよ」
私はエメラルド様の味方です、と繰り返すマリアに、私は戸惑いを隠せなかった。
私は。
どうすればいいの?




