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ブックマークありがとうございます。
この物語は皆様の優しさに支えられております。
ブックマーク200件記念! 二夜連続臨時投稿です。(一度やってみたかった)
視点はエメラルドに戻ります。
彼女はしばらくウジウジするので、嫌いな人はすみません。
ジャスパーが補佐官に呼ばれて中庭を去って行った後、私は困っていた。
このまま気付かないふりをして立ち去るべきか、声をかけるべきか。
ちらりと控えていたマリアを見ると、
私の気遣いをよそにバッチリ近くの木を見上げていた。
「マリア、どうするべきかしら」
「本人に訊いてみるのがよろしいのでは」
「そういうものかしら。見ないふりも時には必要だと思うの」
「下りられなくなっている、という可能性もございます」
「お、下りられます……」
マリアの言葉に、か細い声が聞こえた。
ルビーである。
王妃様から依頼された本を届けた後、いい天気だったので中庭を通って帰ることにした。
そこでベンチに寝そべるジャスパーを見かけて近付いたのだけれども、そこで気付いてしまった。
ベンチの下に転がる、女性物の靴、片方。
女性が靴を履かずに城内の中庭を歩くことはまず無い。ましてや片足だ。ということはどこかから転がった、または落ちたということが考えられる。
そう考えると、上を見るのは当たり前だ。
ベンチの後ろにある木を見上げたら、幹にしがみつくルビーが目に入ったのだった。
ジャスパーに気付かれないかとヒヤヒヤしたわ。抱きしめられてもそれどころじゃなかったもの。
「下りられるなら早く降りた方がよろしいのでは伯爵令嬢様。あなたはもう貴族なのですよ」
マリアの声が冷たい。
何か私にできることはと考える間もなく、ルビーはひらりと地面に降り立った。ドレスがふわりと広がり波打つのは、確かに貴族としてははしたないかもしれないが、とても綺麗だった。まるで天使の様。
マリアが靴を拾いルビーに渡すと、ルビーは真っ赤になりながらも小声で礼を言う。
「マリア、怖がらせてはダメよ」
「失礼いたしました。私の常識ではあり得ないことが目の前で起きていたので」
「ご、ごめんなさい……」
しゅんとなるルビーも可愛いわね。今にも泣きそうだ。ちょっと可哀想。
「きっと木に登らなきゃいけない何かがあったのでしょう?」
「あ、は、はい。本を落とされ…落としてしまいまして」
ルビーはすごく小声で言いにくそうにしながら建物の方を見上げた。
登っていた木の真上の窓が開いていた。図書館から続く廊下の窓だ。
あ! エメラルドがそんなイジメをしてたわ!!!!
図書館はランダムでミニイベントが起こる場所だ。ミニイベントは選んだ人物との友好度が上がるものが多い。図書館の他にも騎士の鍛錬場、薔薇園、サロンなどがある。
何度か図書館を選択すると帰り道にエメラルドが現れて、持っていた本を窓の外に投げ捨てる。それも一回じゃなく何回も。そのうちランダムで木の枝に引っ掛かかったり池に落ちたりして、木に登ったり水の中に入って拾う羽目になるのよ。
なんてひどい公爵令嬢エメラルド。
私だけど。
いや正確には私じゃないけど。
私がイジメなくてもイジメる悪役令嬢がいるってことね。男性から愛されるように、女性から嫌われるのは避けられない事なのかしら。
「怪我はないの? 思っていたより身軽なようですけれど」
ルビーを目の前のベンチに座らせて隣に座った。
怪我はしてない、と本人も言っているし見た目も元気そう。ゲームではあんなにひらりと木から下りたりしてない……
あ、違う。
ゲームではジャスパーに受け止めてもらってた……
私がイジメていなくても、同じイジメが起きる。
でも、イジメないことによってエメラルド、つまり私は本来現れない所に現れている。
そのせいでルビーを助けるはずだったジャスパーはその存在に気付かずにその場を離れている。
少しずつ出会いを重ねて距離を縮めていくルビーとジャスパーのはずが、ゲーム通りに進んでいない。
この違いは良いこと? 悪いこと? ぞくりと悪寒が走った。
「え、エメラルド様?」
私が黙ったせいかルビーが心配そうにのぞき込んできた。
「ああ、ごめんなさい。本は無事に取れたのかしら」
「は、はい、元々木登りは得意なのですぐ取れたんですけど、下りようとしたら、その、下にジャスパー様が来ちゃいまして、しかもそのまま眠ってしまったので、その、下りるに降りられず」
「それは災難だったわね」
ジャスパーはルビーが木登りしていたとしてもそれほど気にしないだろう。ゲームでも咎めずに自分が受け止めるから飛び降りろって言うくらいだもの。
でもさすがに自分が眠っているすぐ横に飛び降りたらどういう反応するのか分からないわね。
それに、城内でもジャスパーには護衛がいる。ジャスパーの邪魔にならないように少し離れた所から護衛をしている彼らだけれど、突然現れたルビーに彼らが剣を向ける可能性もあるわ。
「ジャスパー様、眠る姿も格好いいんですね……」
そんなことを考えていたらルビーは小さくつぶやき頬を染めていた。あらあら……
「ルビーさんは、ジャスパー様のことどう思っていらっしゃるの?」
「ぴぇ!? ど、どうとは、その、か格好いい人だとおも思っています。はい」
「好きなの?」
「えええあの、その、ああの、え? は、いえ」
真っ赤になって慌てている。一目惚れしたのは知っていたけれども。ちょっと意地悪だったかしら。
「あの、エメラルド様は、どうなんですか?」
「とても格好良くて素敵な方だと思っていますわ」
「好きなんですか?」
珍しくルビーは強気だった。脇に控えているマリアが睨んだのが気配で分かる。
「ジャスパー様とは幼馴染でしたので、家族のようなものですわ」
と、無難に答えておこう。
「で、ではマリウスのことはどうですか?」
「えっ!?」
しまった、思わず大きい声が出てしまった。
ルビーを見るとにっこり笑っている。この笑顔、婚約パーティでも見たわね。
「あの、私この前マリウスと、エメラルド様の事話したんですけど」
「え」
「マリウス、エメラルド様の事、遠い存在だと思ってるみたいなんです」
「でしょうね」
今まで話したこともなかったし。
「なので、仲良くなりませんか? マリウスと」
「え?」
「今度タレンヴァインがあるじゃないですか。貴族もやってるって聞きました」
「え? ええ、そうね。毎年親しい人に贈っているわ」
タレンヴァインとは、いわゆるバレンタインだ。ただバレンタインと違ってチョコではなく刺繍を贈る。ゲームで出てくるイベントの一つだ。
基本的に好きな人に贈るイベントだけれど、友チョコがあったように日ごろの感謝を込めて親しい人に贈ったりもする。
「エメラルド様、マリウスに贈りませんか?」
「え!?」
「私も……ジャスパー様に贈りたいんです」
「え……?」
前に会った時より確実に強気で、ジャスパーへの強い想いを持つルビーに、私は完全に押されていた。
明日も投稿予定です。




