↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/14

呪いのビデオ(再生機器がない)

――バンッ!!

「主任! 大変です、ついに“ガチでヤバい”落とし物が来ました!」

 ルルが青い顔で飛び込んできた。

 手にしているのは――一本のビデオテープ。

 黒い。

 重い。

 そして、纏わりつくような“モヤ”。

 表面には、血のような文字。

 ――『見たら死ぬ』

「……おお」

 ベルが、ほんの少しだけ興味を示した。

「典型的な呪物だね。分かりやすくて助かる」

「助かるんですか!?」

 サトシは一歩後ずさる。

「ゆ、勇者的に言うと“即封印案件”なんですけど!」

「勇者サトシ君」

 ベルの視線が向く。

「心当たりは?」

「ないです!! ……あ、でも」

 サトシの動きが止まる。

「昨日、古道具屋で“お買い得・福袋”を買ったんですけど……」

「ほう」

「その中から、カサカサした黒い箱が……」

「それだね」

「僕、呪いも当てるんですか!?」

「ある意味、引きが強い」

「嬉しくない!!」

 ベルは、無造作にテープを手に取る。

 その瞬間。

 ――ギギギギギ……

 耳鳴りのような、歪んだ声。

 空気が冷える。

 照明が、一瞬だけ明滅した。

「うわあああ出たぁ!!」

「静かに」

 ベルは無表情のまま、テープをひっくり返す。

「保存状態は良好だね。怨念のノイズも少ない」

「評価ポイントそこなんですか!?」

「よし、ルル」

 ベルはテープを机に置いた。

「内容を確認しよう。モニターを準備してくれ」

「了解! ……と言いたいところなんだけど」

 ルルの動きが止まる。

「主任。一つ、大きな問題があるよ」

「言ってみなさい」

 ルルは、備品棚を指差した。

 そこには――

 最新の魔力駆動型テレビ。

 水晶通信デバイス。

 高速配信装置。

 完璧な設備。

 ただし。

「……差し込むとこ、ないねぇ」

「……」

「……」

 沈黙。

「ビデオデッキが、ない?」

 サトシが恐る恐る言う。

 ルルは頷いた。

「去年のリフォームで全部処分したんだよね。今はみんな“魔界ネット配信(M-flix)”だから」

「そんな現代化の波ある!?」

 机の上。

 呪いのビデオが、じわりとモヤを強める。

 ――ゴゴゴゴゴ……

 明らかに“やる気”を出している。

「ちょっと待って、これ再生されないと呪い発動しないやつですよね!?」

「その通りだね」

「じゃあ今……」

「ただのテープだ」

「弱っ!!」

 モヤが、さらに膨れ上がる。

 ――ギィィィィ……

 何かを訴えるように、震えている。

「……焦ってるねぇ」

 ルルが興味深そうに覗き込む。

「呪いたいのに、再生できないって」

「現代社会の被害者じゃないですか」

「ルル」

 ベルが淡々と言う。

「これ、MP4形式に変換できないか?」

「無理だよ主任」

 即答だった。

「そもそもこれ、“怨念信号”で動いてるからね。アナログですらないよ」

「互換性ゼロか」

「変換アダプターも存在しない」

「詰んだね」

「詰んでますね」

 机の上。

 ビデオテープが、ぴたりと動きを止めた。

 ……理解したのだ。

 自分が。

 “再生されない存在”であることを。

「……仕方ない」

 ベルは静かに立ち上がる。

「これは“歴史資料”として扱おう」

「分類それでいいんですか!?」

「呪いとしての機能は失われている。あとは文化的価値だけだ」

「文化!?」

 数分後。

 棚の最下段。

 ひっそりと置かれるビデオテープ。

「サトシ君」

「はい……」

「磁石の近くには置かないように」

「呪いじゃなくてデータ保護!?」

「画質劣化は防ぎたいからね」

「優先順位おかしくないですか!?」

 それから。

 数日が経った。

 誰も、そのテープを再生することはなかった。

 モヤも、出ない。

 音も、しない。

 ただ、静かにそこにあるだけ。

 かつて“死をもたらす存在”だったものは――

 今や。

 完全に。

 “レトロ家電”として扱われていた。

 ある夜。

 巡回中のサトシが、ふと棚を見る。

「……」

 ビデオテープ。

 無言。

 無反応。

「……なんか、ごめんな」

 サトシは、ぽつりと呟いた。

 その瞬間。

 ――カサッ。

 ほんのわずかに、テープが動いた。

 ……気のせいかもしれない。

 だが、その日を境に。

 その呪いのビデオは――

 二度と。

 モヤを吹くことはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。