第3話:ルルの「便利すぎる」改造術
魔王城・通用口。
そこに立っていたのは——
世界を救うはずの勇者とは思えない姿だった。
「……あの……バイトの面接に来たサトシです……」
猫背。
サイズの合っていない作業着。
そして手には、なぜか軍手(自前)。
「面接ではなく、強制労働の受付ですね。こちらへどうぞ」
ベル、即訂正。
「言い方!!」
こうしてサトシは、魔王城の“裏側”へと案内される。
遺失物管理センター。
そこは——
やたら生活感のある異空間だった。
棚、棚、棚。
整然と並ぶラベル。
【勇者の片方だけの靴下(右)】
【魔導士の度付き眼鏡(呪文誤爆済)】
【なぜか増える指輪(原因不明)】
「怖い怖い怖い!!」
「安心しなさい。増えるだけで害はない」
「それが一番怖いんですよ!!」
そのとき。
部屋の中央から——
バチバチバチィ!!
火花。
爆音。
そして、焦げた甘い匂い。
「おっ、主任! その子が例の“うっかり勇者”? ちょっと待って、今いいとこ——」
ドンッ!!
何かが爆発した。
「今いいとこじゃなかったよね!?!?」
煙の中から現れたのは、ピンク髪を完全に爆発させた少女。
発明担当、ルル。
「彼女がルルだ。あまり近づかない方がいい」
「なんで!?」
「物理的に爆発するから」
「もうしてるよ!!」
ルルはニヤリと笑う。
「失礼だなぁ。私は“遺失物を有効活用”してるだけだよ?」
そう言って差し出したのは——
見覚えのある剣。
「……あ」
サトシの顔が引きつる。
「僕の聖剣……」
だが、その姿は。
もはや“かつての面影”をギリギリ保っているだけだった。
刃の先端に——
おろし金がボルト留めされている。
「ひぃぃぃぃ!!?」
「紹介するね!」
ルル、ドヤ顔。
「全自動・聖剣式大根おろし機(試作1号)!」
「やめろぉぉぉ!!」
ベルが補足する。
「聖剣の微細振動を利用している」
「使い方おかしい!!」
「一秒間に三千回の往復運動が可能だ」
「スペックだけはすごい!!」
ルルがスイッチを押す。
ヴィィィィィィィン!!
聖剣、震える。
威厳ゼロで震える。
「うわああああああ!! 僕の伝説が震えてる!!」
「ほら見て!」
シャカシャカシャカシャカ!!!
大根が一瞬で雪のように削れていく。
しかも、ほんのり光っている。
「聖なる力で浄化されるからね、辛味ゼロなんだよ!」
ルル、スプーンでひとすくい。
「はい、あーん」
「やめてください!!」
「じゃあセルフで」
無理やり差し出される。
「いや僕の武器で削られた大根って何その状況……」
ベルが静かに追い打ち。
「ちなみにローンは残っているんだろう?」
「うっ……」
「未払いの剣と、有効活用されている剣。どちらが価値がある?」
「経済で殴るのやめて!!」
サトシ、ぐらつく。
精神が、金利で削られる。
「……ひ、一口だけ……」
もぐ。
——沈黙。
「……どう?」
サトシの目が、ゆっくりと見開かれる。
「……あま……」
一拍。
「……なにこれ……めちゃくちゃ美味しい……」
「でしょー!」
「なんでだよ!!」
膝から崩れ落ちるサトシ。
「僕……魔王倒すために旅してたのに……」
一口。
もう一口。
「大根で満たされてる……」
「人は大体そうだよ」
「嘘つけ!!」
その瞬間。
カーン、とどこかで鐘の音。
勇者のプライドが正式に折れた音だった。
ベルは静かに言う。
「よし」
一枚の紙を差し出す。
【臨時清掃員・業務内容】
・棚の埃取り
・床の清掃
・呪物のメンテナンス
一番下。
・藁人形のブラッシング(毛並み重要)
「待って」
「勇者の初仕事が藁人形の美容!?」
「呪いも見た目が大事だ」
「どの世界の常識!?」
ルルが横からニヤニヤする。
「大丈夫だよサトシ」
「何が!?」
「そのうち慣れるから」
「慣れたくない!!」
こうして。
世界を救うはずだった勇者は——
まず、呪いのケアから始めることになった。
なお、この日を境に。
魔王城の食堂では、
“聖剣おろし定食”が定番メニューになった。
「やめてぇぇぇぇ!!」




