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魔王軍の落とし物係 〜勇者が忘れていった伝説の剣(折れ)〜  作者: 白兎 ななせ
第2部:広がる忘れ物の輪と魔界の休日
12/14

第12話:魔界のフリマは大騒ぎ

その日――

 魔王城の中庭は、異様な熱気に包まれていた。

「いらっしゃいませー! 魔界フリーマーケット、本日開催です!」

 ルルの元気な声が響く。

 並ぶのは、遺失物管理センターに溜まりに溜まった“ワケあり品”の数々。

 呪物。

 謎の道具。

 用途不明の機械。

 そして――

 誰にも引き取られなかった、悲しき日用品。

「主任、本当にこれ売れるんですか?」

 ルルは不安げに辺りを見回した。

「売れるとも」

 ベルは即答する。

「ここは魔界だ。“分からないものほど価値がある”」

「価値観バグってません!?」

 だが。

 開場から数分後。

「それ、いくらだ!」

「三つまとめてくれ!」

「その呪い、軽減できるか!?」

 ――大盛況だった。

「売れてる!?」

 サトシは目を見開く。

「売れているね」

 ベルは帳簿をつけながら頷く。

「“なんかヤバそう”というだけで値段が三倍になる」

「怖い世界!!」

 サトシは、ふと足を止めた。

「……あれ?」

 視線の先。

 山積みの商品の中に――見覚えのあるもの。

「これ……僕のだ」

 手に取る。

 少し歪んだ金属。

 丸い形状。

 取っ手付き。

「鍋の蓋……」

 だが。

 その瞬間。

「それ、ぼくのー!!」

「先に見つけたのはこっちだ!」

 左右から、小さな影が飛び込んできた。

 魔族の子供たち。

 目がキラキラしている。

「え?」

「それ、“伝説の防具”でしょ!?」

「勇者の盾になるやつ!」

「絶対強い!」

「いや違うから!!」

 サトシは全力で否定した。

「ただの鍋の蓋だから! これ僕の忘れ物だから!」

「嘘だ!」

「そんなわけない!」

「だって光ってるし!」

「油でテカってるだけ!!」

「これはぼくが買う!」

「ぼくも!」

「ぼくもー!」

 子供たちが群がる。

 完全に囲まれた。

「ちょ、ちょっと待って! これ本当に僕のなんだって!」

「証拠は!?」

「証拠!?」

 一瞬、詰まる。

「……使ってた!」

「弱い!」

「信用できない!」

「正論やめて!」

「はいはい、落ち着いて」

 ルルがひょいっと現れた。

「その商品は――」

 値札を確認する。

「“伝説級・防御力特化型装備(推定)”。お値段、銀貨五枚でーす」

「推定やめて!!」

「ぼく買う!」

「ぼくも!」

「競争だー!」

「やめてぇぇぇ!!」

 ――数分後。

 即席オークション状態。

「六枚!」

「七枚!」

「八枚!」

「上がってる!?」

 サトシの顔が青ざめる。

「いやいやいや、そんな価値ないって!!」

「静かに」

 ベルが一言で制した。

「市場が価値を決める」

「市場怖い!!」

「……くっ」

 サトシは財布を握りしめる。

 中身――わずか。

「僕も……参加します!」

「お兄ちゃんも!?」

「大人気だー!」

「違う意味でね!?」

「九枚!」

「十枚!」

「十……いち……」

 声が震える。

 財布が、軽い。

「限界来てる!!」

「十二枚!!」

 子供の一人が叫ぶ。

 沈黙。

 サトシの手が、止まる。

「……」

 出せない。

 これ以上は。

「……あ」

 気づいた時には。

「落札ー!!」

 ルルの声が響いていた。

 鍋の蓋は。

 誇らしげに掲げられ。

 小さな魔族の手に渡る。

「やったー! 伝説の盾だー!」

「最強だー!」

「守るぞー!」

 キャッキャとはしゃぎながら、走っていく。

 ぽつん。

 サトシは、その場に立ち尽くしていた。

「……僕の……鍋の蓋……」

 遠ざかる背中。

 楽しそうな笑い声。

 ほんの少しだけ。

 胸が、温かくなる。

 そして同時に。

 じわっと、目頭が熱くなる。

「……負けた……」

「サトシ君」

 ベルが隣に立つ。

「取り戻せなかったね」

「はい……」

「だが、悪いことではない」

「……え?」

「物は、使われてこそ価値がある」

 子供たちの方を見る。

「今、あれは“誰かを守る盾”だ」

「……ただの鍋の蓋なのに」

「それでも、だ」

 サトシは、鼻をすすった。

「……でもやっぱり悔しいです」

「だろうね」

「あと普通にお金なくなりました」

「だろうね」

 その帰り道。

 サトシは、とぼとぼと歩いていた。

 手には、何もない。

 財布も、軽い。

「……はぁ」

 ため息。

 その時。

 ――ガンッ!

「痛っ!?」

 頭に何かが当たった。

 見上げる。

 そこには。

「クワッ!!」

 アヒ丸。

 そして――

 くちばしに咥えられた、別の鍋の蓋。

「えっ」

 ポトッ。

 サトシの手に落ちる。

「……これ」

 さっきのとは違う。

 でも。

 ちゃんと使える。

「……」

 アヒ丸が胸を張る。

 ドヤ顔(くちばし)。

「……ありがとう」

 サトシは、少し笑った。

 その日。

 魔界フリマは大成功に終わり。

 遺失物の在庫は大幅に減少し。

 そして――

 一人の勇者は。

 鍋の蓋を一つ失い、

 鍋の蓋を一つ手に入れた。

 ベルの手帳に、新たな記録が加わる。

『勇者サトシ

・金銭管理能力:低

・市場適応力:低

・情緒:やや成長』

 一行、追記。

『魔王軍への帰化率――五五パーセント』

 ページが、静かに閉じられた。


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