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騎士科の演習の日、俺はいつも通りの制服で集まったのだが、他の人達は戦う装備を身に付けていた。
「ルーク、今回は後方支援ではなく、騎士科の方と前線に出るのよ。そんな格好じゃ、いざという時戦えないわ」
そうアンドレア様から注意されるが、今更だ。
そもそも、俺は魔物と戦う装備を持っていない。
「ちっ、舐めやがって」
近くでマブロが舌打ちをするが、それ以上言って来ることはなかった。これまで、様々な助言をくれたというのに、とても残念に思う。
騎士科との模擬戦以降、マブロ達は俺に近寄ろうとしなくなった。理由は分からない。俺から近付くことはまずないので、この一週間、口どころか視界にも入って来なくなった。
ジールは「平和で良いね」と言っていたが、困ることもないので、別にどうでもいいなと思ったのを覚えている。
アンドレア様から「せめてコートを着ていなさい!」と注意されていると、以前聞いた声で名前を呼ばれた。
「ルーク・ストロング殿」
「確か……ミレイ嬢、だったか?」
「嬢はやめてくれ、そんなに幼くはないからな」
「すまない。ではミレイ殿でいいか?」
「呼び捨てでも構わない。ルーク殿、あの日から、私は徹底的に鍛え直した。この演習後、もう一度手合わせを願いたい。受けてはくれないだろうか?」
この申し出を断ろうと思った。だが、俺が目立ったのが騎士科に勝利したのが理由ならば、次は負ければいいのではないかと考えた。
「分かった。演習後楽しみにしている」
「……余裕だな。次は負けない」
そう言い残して、ミレイ殿は去って行った。
「完全に目を付けられたわね」
「そうなのか?」
「ええ、ミレイ・リンレイは騎士科でも突出した才能の持ち主。彼女に土を付けたのだから、他の方からも手合わせのお誘いがあるでしょうね」
「…………」
それでは意味が無いのではなかろうか。
リーナに相談したいところだが、残念ながらここにはいない。
何をどうしたら丸く治るのか答えを導き出したいところだが、騎士科の考えを想像出来ない俺では、何も思い浮かばなかった。
「……全員倒せば済むか……」
「えっ?」
「何でもない」
呟いた言葉は、あくまでも最悪の場合。
そんなことをすれば目立ってしまうのでやりたくはないが、勉強の時間を確保する為ならば、完全には除外出来ない選択肢ではある。
まあ、まだ時間はある。
その時までに考えておこう。
演習の出発時間が近付く。
皆の準備も整っており、あとは教員の指示で動くだけとなった。
そんな時に、間の抜けた声が響く。
「ごめんなさ〜い! 遅れました〜!」
その声の主人は、杖を手に持った女子生徒。
髪色がピンクと目立っており、必死な表情で走ってやって来る。
ただ、その表情が演技くさく見えてしまうのは俺だけだろうか?
「彼女は?」
「セリア・ノルドね、先月転校して来た子よ」
アンドレア様が教えてくれる。
セリア・ノルドをどこかで見た気がするなと思い出す。
「ああ、あの時すれ違った奴か」
前に彼女を見て、師匠に似ていると思ったのだ。
今もその感覚は変わっていない。
彼女は、この世界にとって異物なのだろうか?
もし、師匠に匹敵する存在ならば、最大限に警戒する必要がある。
万が一顰蹙を買えば、最悪世界が滅びる。
「セリア! 大丈夫か、心配してたんだぞ。やはり迎えに行くべきだった!」
彼女を心配して駆け寄る騎士科の生徒。
あの人物は確か、マブロに勝利した人物だ。
「彼はピスターブ様、ヒストリカ子爵の嫡男よ」
丁寧に教えてくれるアンドレア様、流石である。
ピスターブに続いて、セガール様や他の生徒も続く。
どうやら、セリアという女生徒は騎士科の人達に人気らしい。
「彼女は回復魔術が得意みたい。騎士科の訓練にも同席していて、怪我した人を得意の魔術で治療しているらしいわ」
「そうか、回復魔術でも人気が出るんだな」
「回復魔術は資質も関係するから、使い手が少ないのよ。その点、あなたの妹は凄まじいわね」
「リーナか……確かにそうだな……」
テストの予想に、人の上に立つ資質。
どちらも俺には無い才能だ。
そんな妹を持った俺は、きっと幸運なのだろう。
「……ルークは、優秀な妹に嫉妬しないの?」
「嫉妬? 考えたことも無いな。そんな暇があるのなら、少しでも勉強がしたい」
「そう……」
元気の無い声音。
アンドレア様を見ると、どこか遠い目をしていた。
◯
演習場所は、学園から離れた森の中。
ここで一泊二日の魔物の討伐が行われる。
泊まる場所にテントを張り終えると、騎士科の生徒が教員の下に集まる。
「時間になれば鐘を鳴らす、それまでは魔物を討伐するように! 怪我した者は本部に戻って来るように! では、班ごとに行動せよ!」
教員の指示により、騎士科は動き始める。
普通科である俺達は、予め指示された班に振り分けられていた。
「ミレイ殿、先ほどぶりだな」
「ルーク殿、君と肩を並べることになるとは思わなかったよ」
そう言いながら握手をする。
手袋越しではあるが、彼女がどれだけ剣を振って来たのかが伝わって来る。
やはり美しい。
ひたむきに頑張る彼女を、そう思ってしまった。
他の人達はというと、マブロはよく知らない騎士科の班に参加しており、どこか不満気だった。
反対にアンドレア様とセリアは、セガール様の班に参加していた。
この配置は、第二王子であるセガール様に万が一にも怪我をさせない為の配置だろう。
アンドレア様の魔法技術は、騎士科では敵う者はいない。
セリアは回復魔術が得意だと言っていたので、万が一が起きた時の保険と推測する。
セガール様の班員も、騎士科の上位で占められており、その過保護ぶりがよく分かる。
「我らも行くぞ」
ミレイの号令で、この班も魔物の討伐に向かう。
討伐は順調に進んだ。
この森に現れる魔物が大して強くないのもあるが、騎士科の練度が思っていたよりも高い。
騎士は個人で戦うのではなく、指揮に従い集団で動く。
それを体現するように、ミレイが指示を出し、従う俺達が魔物に剣を突き立てる。
ここまでやれるのなら、まず遅れを取ることは無いだろう。
「移動しよう」
ミレイが告げると、皆で移動する。
これまでに十度魔物と接敵しているが、特に疲れた様子は見られない。
一緒に戦うと親近感が湧くのか、
「普通科なのに、よく付いて来れるな」
そう、騎士科の生徒に話しかけられることもある。
「これくらいなら問題無い、普通科でも体力錬成は行われているからな」
「そうか? 前に一緒に回った奴は、動けないと嘆いていたぞ」
「そいつの体力が無いだけだ、大抵の生徒はやってのけるはずだ」
この程度で動けなくなるとは、どれだけ貧弱なのだ。
そこまで行くと、参加させた学園側の不手際と考えた方がいいだろう。
騎士科の人達と会話をしながら魔物の討伐を続けていると、森に鐘の音が響き渡る。
本日の魔物の討伐も、これで終わりのようだ。
「戻ろう」
ミレイが告げて本部に戻る。
本部には半数が戻って来ており、各々夕飯の準備始めているようだった。
では俺達もと動こうとして、強烈な殺気が駆け巡り動きを止めてしまう。
「何だ……これは……」
騎士科の人達は、自分の体が震えているのを見て困惑している。
魔物も動物も虫さえも恐怖して、その姿を隠してしまった。
俺は、誰にも見られることなく、この場を離脱する。




