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脳筋忍者はシノビたい  作者: ハマ


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7

 誰がこんな殺気を飛ばしたのだろうか。

 このレベルの殺気を飛ばせる者は、十数人くらいしか心当たりがない。


 一番近くにいるのは、リーナとくノ一部隊に所属する者だが、この森には来ていない。


 忍び装束を収納した腕輪を装備する。

 リーナの忠告には感謝だ。


「装着」


 俺は忍者へと姿を変えると、一気に加速した。




 この世界には、魔族と呼ばれる種族がいる。

 高い知能と強力な魔術、驚異的な身体能力を持っており、他の種族を蹂躙する凶暴性も兼ね備えている。

 その魔族の王である魔王は、何度も人類を滅亡寸前まで追い込んでいる存在で、恐怖の象徴として恐れられていた。


 とはいえ、全ての魔族がそういうわけではない。

 中には平穏を望み、人里離れた場所でひっそりと暮らしている魔族の女性を俺は知っている。


 あくまでも大半であって、全てではない。


 だから、目の前の状況に頭を悩ませるハメになる。


 森の中で対峙するのは、セガール様率いる班と、ツノを生やした大きな体格の魔族。


 魔族の手には巨大な剣が握られており、それを片手で保持していた。この魔族には、それだけの膂力が備わっている証。それも身体強化を使っていない状態でだ。


 対するセガール様達は、緊張した面持ちで武器を握っていた。

 息が荒くなっており、立っているだけで緊張から体力まで奪われていた。


 仮に戦ったとしても、セガール様達に勝機は無い。


「だが、セリアが師匠と同じならば……」


 アッサリとあの魔族は消滅するだろう。

 だが、それも期待出来ない。

 セリアはすでに、戦うことを諦めているから。


「とはいえ、どうする……」


 ここで介入するかどうかを迷ってしまう。

 悪は殺す。それに変わりはない。

 では、あの魔族は悪なのか?

 それが分からない。もしも、魔族だからとセガール様達が先に剣を抜いたのであれば、俺は介入するつもりは無い。

 あの魔族は、正当防衛をしただけなのだから。


 俺が事態を見守っていると、状況は一気に変化する。


 強烈な殺気が魔族から放たれ、セガール様の班員の半数が膝を突いてしまう。

 それを見た魔族が勝ち誇り、決定的な言葉を口にする。


「愚かなサルども、喜べ‼︎ 我が主の生贄にしてやるぞ‼︎」


 魔族が巨大な剣を振りかぶり、かなりの量の魔力を放出した。

 一気に加速する魔族。

 この一撃が決まれば、セガール様達は跡形も無く消し飛ぶだろう。


 当たればだが。


「なにぃ⁉︎⁉︎」


 俺は即座に飛び込み、魔族を蹴り飛ばす。


 幾つもの木々をへし折りながら魔族は飛んで行き、途中で魔力を放出して勢いを止めた。そして、凄まじい勢いで接近して来ると、俺に向かって剣を振り下ろす。


 そんな大振りの一撃に当たるはずもなく、距離を取って回避する。

 勢いを止められない巨大な剣は地面を叩き、大爆発を巻き起こした。

 凄まじい衝撃が駆け抜けて、大地を激しく揺らし、大量の砂埃が視界を塞いだ。


 俺は風を起こして、砂埃を排除する。

 すると、魔族が敵意を隠さずに俺を睨んでいた。


「……貴様、何者だ? ただの人ではないな?」


「陰に名は無い」


「大方、神の先兵だろう。どの神に加護を受けている?」


「……」


「黙りか。ならば、何も語らずに逝け‼︎‼︎」


 先ほどよりも膨大な魔力が魔族に宿る。

 本気の身体強化。その上、周囲には魔力の塊が浮かんでおり、遠距離攻撃も可能と見える。


 少しだけセガール様達に視線をやると、彼らは驚いた表情でこっちを見ていた。


 視線を逸らしたのを隙と思ったのか、魔族が動き始める。

 勝利を確信しているのか、顔が勝ち誇って見える。


 もしも、俺達が衝突すれば、セガール様達は戦いの余波に曝されるだろう。

 なので魔族の懐に潜り込み、短刀で切り裂いた。


「っ⁉︎ 馬鹿な⁉︎」


 驚く魔族に連続して切り付ける。


「かはっ⁉︎」


 青色の血が舞い、魔族が脅威を振り払おうと暴れ回る。

 だが、遅い。その動きが、余りにも遅い。

 巨体が故の鈍重な動き。

 その肉体の力と頑丈さを武器に戦って来たのだろうが、その程度では俺には通用しない。


「おおおーーー‼︎‼︎」


 魔族が剣に魔力を込めて、セガール様目掛けて投擲しようとする。

 俺に勝てないのなら、弱い奴を殺そう。そう考えたのだろうが、無駄なことだ。


 巨大な剣を握った腕を斬り落とし、怯んだ魔族を再び蹴り飛ばす。

 地面に着地すると、落下して来た巨大な剣を掴み、そのまま魔族に向かって投擲した。


 巨大な剣は魔族の頭部、の隣に突き刺さった。


「ズレたな、魔剣か?」


 頭部を潰すつもりで投げたのだが、僅かに軌道が逸れてしまった。

 魔剣などの意志の宿っている武器なら、主を守る行動をしてもおかしくはない。念の為に、剣も破壊しておくべきだろう。


「馬鹿な、神でもない先兵に圧倒されるだと……。この俺が、魔王軍四天王、龍将のヴェルダンドン様が負けるだとぉ……」


 ヴェルダンドンは、満身創痍なはずなのに起き上がって来る。

 残った腕で巨大な剣を掴み引き抜き、ギチギチと手に力を込める。

 片腕を失い、身体中切り刻まれており、片目も潰れて見えていない状態。それでも戦意は衰えておらず、なおも俺を睨み付ける。


「俺は負けん! この名に懸けて、貴様を必ず倒す‼︎」


 龍将のヴェルダンドンは、再び魔力を漲らせると、己の胸に貫き心臓を引っ張り出す。

 脈動する己の心臓を、力任せに握り潰した。


 ヴェルダンドンから膨大な魔力が溢れ出し、その肉体を覆う。

 まるで蛹のようにも見える魔力の膜。その膜に触れた物は、全て取り込まれて行き、どんどん肥大化して行く。


「愚かな……」


 この手のタイプとは前にも戦ったことがある。

 魔力の膜の中で、ヴェルダンドンは肉体を変質させている。より強力に、より強大に、より多くを破壊出来るようにと、肉体を作り替えている。

 だが、一度でも変質させれば、その肉体はもう元には戻らない。


 変質を終えた直後は意識を保っていても、やがて失われて暴れるだけの迷惑な存在になってしまう。


 ヴェルダンドンを哀れに思っていると、セガール様が訴えて来る。


「何をやっている! 早く逃げるぞ‼︎ このままここにいては危険だ‼︎」


 恐らく、膨大な魔力を見ての判断なのだろう。

 その判断は正しい。

 変質したヴェルダンドンは強力な存在になる。

 それこそ、一国を滅ぼすくらいに。


「邪魔だ、去ね」


「なっ⁉︎」


 ならば、尚のこと逃げられない。


 気を遣って、逃げるよう促したが、セガール様達は動かない。

 何をやっているのかと言いたい所ではあるが、残念ながら時間切れである。


 魔力の膜が裂かれて、中から巨大なドラゴンが姿を現した。


 黒に近い紫色のドラゴン。

 その姿は禍々しく、見る者を怯えさせる。


『この姿になった以上、我は止められんぞ‼︎』


 生臭い息を吐き出しながら、ヴェルダンドンは俺を見下ろす。

 翼を大きく羽ばたかせて空に上がると、夕焼けの空と重なり神々しく見える。


 膨大な魔力が、ドラゴンとなったヴェルダンドンの口に集まって行く。それだけで大気が震え、森の生物が生き延びようと逃げ惑う。


 どこに逃げても同じだ。

 次のヴェルダンドンの攻撃は、森を消し去る威力がある。


『神を焼き! 世界を滅ぼす我がブレスを喰らえ‼︎ 』


 龍将の息吹き(ドラゴンブレス)


 途轍もない威力のブレスが放たれる。

 セガール様達は絶望したように立ち尽くしており、生きるのを諦めていた。

 いや、アンドレア様だけは、少しでも生き残ろうと結界を張っている。


 絶望的な状況でも最後まで諦めない。その姿勢こそが、最後に生き残る者の特徴だと師匠が言っていたのを思い出す。

 きっと彼女は、最後まで諦めない心を持っているのだろう。


 それにしても……、


「……世界を滅ぼすか」


 短刀に魔力を込めると、空に向かって振り抜き、剣閃を飛ばす。

 空中で衝突すると、絶望のブレスを切り裂き全てを消し去ってしまった。


『なにぃ⁉︎⁉︎』


 驚愕するヴェルダンドン。

 余程、あのブレスに自信があったのだろう。

 この程度の力で、何が神を焼くだ、何が世界を滅ぼすだ。


 矮小な存在め、身の程を知れ。


「世界を滅ぼすと言っていたな?」


『っ⁉︎』


「貴様は、終焉を告げる星を見たことはあるか? 全てを破壊する救いの光を見たことはあるか?」


『なっ、何を言っている?』


「冥土の土産だ。矮小な貴様に、真に世界を滅ぼす力を見せてやろう」


 俺は操る魔力を増大させると、幾つもの魔法陣を展開する。


 これはかつて、星を破壊する為にあった救済の魔術。


 以前、命と引き換えにしなければ使えなかった魔術も、師匠の指導とこれまでの経験、そして俺の成長により、忍術へと昇華した。


 魔法陣を俺の肉体に宿す。

 俺の肉体は、赤く燃えるように光を灯し、爆発的に能力が向上する。


 このまま殴り掛かっても、一撃で葬れるだろう。だが今回は、世界を滅ぼす力を、こいつに見せ付けなければならない。


「忍法・隠り世」


 それでも、見せるのは最小に留めておきたい。

 周辺に結界を張り、外から見えないように処置を施す。しかも、この結界は外からの侵入を寄せ付けないようになっている。

 

 様々な形で手を重ね合わせ、印を切る。

 印を切る度に、チャクラ(魔力)が形を作り上げて行く。


 そうして出来上がったのは、一本の刀。


「忍法・十束剣(とつかのつるぎ)


 濃密なチャクラで作り上げた真っ白な剣。

 帯刀するように持ち、腰を低くして居合の構えを取る。


『うおおおおおおーーー!!!!!』


 ヴェルダンドンは分かっているのだろう。

 この剣の恐ろしさを、己が死ぬしかないのだと理解しているのだろう。

 それでも、必死に抗おうと口に膨大な魔力を溜め始めた。

 先程よりも膨大な魔力をその口に蓄えて、破壊の息吹きを解き放つ。


『龍将の息吹き‼︎‼︎』


 対する俺は、


「救世の太刀」


 十束剣から救済の光が放たれる。

 白い光は龍将の息吹きを掻き消し、それを放ったヴェルダンドンを飲み込んだ。


『馬鹿な……』


 小さな呟きを最後に、ヴェルダンドンは姿を消す。

 跡形も無く、ただそこにある全てを消滅させ、救済の光は空高く消えて行った。


 これは、それだけの太刀である。


 手に残る十束剣を霧散させると、体に残ったチャクラを放出する。その影響で、俺の周囲が結晶化するが、いつものことなので気にしない。


 空を見上げると、そこにはいつも通りの夕焼け空が広がっていた。

 

 セガール様達に視線を向け無事を確認すると、俺は姿を消した。

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