リーナ4
ロイヤルガードとは、国王直属の精鋭部隊の名称である。
本来の役割は、その名の通り王族を守る事だが、その力が優れているがゆえに多くの場面で使われるようになった。
その弊害か、ロイヤルガードに求められる能力が高くなり、十一ある席が全て埋まることは無いと言われている。
現在のロイヤルガードは、一人一人が一騎当千であり、何らかの分野の天才である。
ロイヤルガードになる基準という物は無く、現役のロイヤルガード三名の審査と、王族への忠誠により任命される。
「新たに加わった魔術屋はまだ来ないのか?」
円卓に座った高齢の男性が口を開く。
高齢とはいえ、彼の肉体はとても逞しく、戦う者の雰囲気を発している。それを証明するように、腰には剣が携えており、いつでも抜けるような姿勢を取っていた。
「獅子王、落ち着くのだ。新任のロイヤルガードは、まだ学生だ。業務に就くことは許されておらんのだ。本来なら三年後まで待たねばならぬ所を、急遽呼び出したのだから大目に見よ」
そう告げるのは少女の形をした人形。
遠方から操られた人形は、カタカタと口を鳴らしながら本体の意思を告げていた。
「では何故、そのような輩を認めた。人形使い、貴様が真っ先に加えるべきだと主張したそうではないか? それまで待てば済む話を……」
「それだけ優れていたんだよ獅子王。私がこれまで見た誰よりも、あの子は優秀だ。私含めた、ここにいる誰よりもね……」
人形使いの言葉に、この場が殺気立つ。
ここにいる総勢八名は、己を天才だと自負しており、己こそが最強だと思っている者達だ。
上がいても、それを乗り越えればいい。
そう考えている者達ばかりだ。
「おいおい聞き捨てならねーなー、俺よりも優秀だ? 耄碌したか人形使い」
「武王、貴様も見れば分かる。いや、貴様程度では推し量ることもできんか?」
「あ゛っ?」
「やるか、チキン頭野郎」
カタカタと人形の音が鳴り、腕から刃が現れる。
緊張感が増す。
この戦いを止めるのは難しくない、だが仮にやれば怪我だけでは済まないだろう。
殺意が高まり衝突する寸前、円卓の扉が開かれた。
扉から現れたのは、美しい金糸の髪を持つ美女。
学生服を着用しており、あどけなさが僅かに残っていた。
「遅れて申し訳ありません。知らせを聞き急いで駆け付けたのですが、何せ学園だったもので時間が掛かってしまいました。あっ、お初にお目にかかります。私は、リーナ・ストロング。昨年、ロイヤルガードの末席に加えられた者に御座います」
リーナはカーテシーで挨拶をすると、円卓に充満する殺気を無視して、空いている席に座った。
◯
メノウ学園で魔術の講義を行っていると、教師から呼び出しがあった。
どうにも王城からのようで、『円卓へ至急来られたし』と伝令を受けた。
「申し訳ありません。街道に魔物が現れてしまい、到着が遅れてしまいました」
「お気になさらずに。……はい、確かに拝命いたしました」
先日の出来事を思えば驚きは無かったが、このタイミングかと頭を悩ませる。
私がロイヤルガードの一員だと教師に知られてしまった。まあ、それは口止めをすれば良いのでどうでもいいのだけど、講義が良い所で止まってしまった。
魔術式の拡張に付いて同級生の皆さんに教えていたのに、中途半端で終わってしまう。教師に後を任せたい所なのだけれど、残念ながら全ては理解し切れていないようだった。
せめて、兄様かクレア、トウリにお願い出来たら良かったのだけれど、それも無理な話だろう。
せっかく、生徒の皆さんの学ぶ意欲が湧いていたというのに……。
「リーナ様、お供いたします」
「大丈夫よクレア、それよりも兄様を見ておいてちょうだい。昨日の今日で仕出かすとは思えないけれど、念の為に、ね……」
そう告げると、クレアはスッと姿を消してしまった。
「王都に向かいましょう」
転移魔術を発動する。
伝令が遅れてしまい、すでに円卓会議の開始時間を迎えていた。
この街から王都へは、馬を使っても半日は掛かる距離。それを一瞬で移動可能とする転移魔術をとても重宝していた。
「問題は複数人でも移動できる手段ね」
転移魔術で移動出来るのは、使用者本人のみ。
複数で行えば、最悪肉体が交わる恐れがある。兄様のような超人と共に使えば、相手は消し飛ぶだろう。
使い方次第では、恐ろしい攻撃手段にもなり得る魔術。
「我ながら、恐ろしい魔術を編み出したものね」
頭の中で魔術式を整理しながら、私は王城に向かう。
円卓の間は、とてもスリリングな空気になっていました。
笑みを浮かべて挨拶をしても誰も反応してくれず、仕方なく空いている席に着席した。
ロイヤルガードの皆様から注目されるけれど、どうかしたのだろうか? 席に順番でもあるのだろうか?
そう考えていると、コインが飛んで来る。
当たるコースではなく、わずかに髪を掠めるルート。
女性にとって、髪は命と同じ。なんて酷いことをするのでしょう。
なので、椅子を手前に引くふりをして、コインの軌道から完全に外した。
ダンッ‼︎ と衝撃音が鳴り響き、壁にコインがめり込み亀裂を入れる。
それを無視して、ロイヤルガードの審査を行ってくれた三名に挨拶をする。
「人形使い様、歌姫様、氷結様、ロイヤルガードに任命していただきありがとうございます。こうしてお礼を言うのが遅れてしまい、申し訳ございません」
「おい」
三人はコクリと頷いて、挨拶を返してくれた。
「それで、今回緊急で招集というお話でしたが、一体どのような要件なのでしょう?」
「おい‼︎ 無視すんじゃねー‼︎」
私の前に、野蛮な男が立つ。
男性にしては小柄な体格だが、その身に宿る武と強靭さは、この国の誰もが知っている。そして、コインを投げた人物でもある。
「初めまして、武王様。一体、どうなさったのですか?」
ここに来た時から敵意を向けられている。
こちらはか弱い少女だというのに、一体どういうつもりなのだろう?
「どんな小細工使いやがった?」
「はい? 小細工ですか? 申し訳ありません、一体何のことか……」
「テメーみたいな小娘が、ロイヤルガードになれるわけないだろうが‼︎ どんなズルをして、その席に座ってやがる」
この言葉が聞き捨てならなかったのか、審査をした三名が声を上げる。
「おい、それは審査をした我ら、引いては任命した国王陛下に対する侮辱でもあるぞ。言葉を慎めよ武王」
「言っておくけど、その子、あなたよりも強いわよ」
「弱い犬ほどよく吠える。見ただけで、リーナの異常性を理解出来ないのか?」
そう皆様から言われても、武王様の態度は変わらなかった。
「だから俺が審査してやるっつってんだ。こいつらの目は誤魔化せても、俺はそうは……はっ?」
私は独り言を呟く武王様の後ろに立つと、背中をタッチする。
まるで気付いていない様子だったので、酷く驚かせてしまった。
「っ⁉︎」
武王様は飛び退いて、私から距離を取る。
呼吸が荒くなっており、見ているこっちが心配になるレベルだ。
「これでよろしいですか?」
そう確認すると、武王様はハッとして構えを取った。
「はっ、ははっ……どんなズルしやがった。お前みたいなのが、俺の背後を取れるわけなんて無いだろうが……」
よほど驚いたのだろう、動揺しているのがよく分かる。
落ち着ける為に、少しだけ歩み寄ろう。
「ズルは……しているかもしれません」
「は? ……おい聞いたか? こいつ今認めたぞ⁉︎」
「そうですね、実力という物でロイヤルガードに任命されましたので、確かにズルかもしれませんね」
喜んでいる武王様に笑顔で答えて、私は先ほどの席に戻る。
これでようやく話が進む。そう思ったのだけれど、残された武王様は、貶されたと思ったのか頭に血が昇っているようだった。
「テメー……馬鹿にしやがって……ぶっ殺す‼︎」
こちらにやって来る武王様。
だけど、その歩みは途中で止められた。
武王様の首元に、剣が添えられていたのだ。
「いい加減にしろ。これ以上やるのなら、儂が相手になるぞ」
獅子王様が間に入って庇ってくれた。
しばらく睨み合いが続くと、武王様は拳を解いて席に着いた。
流石は、ロイヤルガードの長である獅子王様。
「助けていただき、感謝申し上げます」
「いい、このままでは日が暮れてしまうからな。では円卓会議を始める」
獅子王様の言葉を合図に、円卓会議が始まった。




