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脳筋忍者はシノビたい  作者: ハマ


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5

【ルーク・ストロング、アンドレア・カーニバル、アブロ・マンドラ、セリア・ノルドの四名は、翌週に行われる騎士科の演習に参加すること。】


 模擬戦があった翌日に通達があった。


 騎士科の演習では、郊外の森で魔物との実戦がある。

 一月に一度、周辺の魔物の間引きを目的にも計画されている。

 これは地域の安定にも必要な演習、なのだと以前の授業で習った覚えがある。


「……ルークって強かったんだね」


 隣に立つジールが呟く。


「たまたまだ。苦し紛れに腕を掴んだら、相手が一回転しただけだ」


「うーん……苦しいね」


「……そうか」


 実力は隠して生きて行く、発揮するのは忍び装束の時のみ。

 このルールは絶対であり、違えることはない。

 模擬戦でも大した力を発揮していないのだが、それでも十分過ぎる成果を出してしまった。


「……なんだか……つまらないな」


 模擬戦が終了すると、セガール様や騎士科の生徒達から称賛された。

 それが、とてもつまらなかった。

 前回の追試で得た達成感の方が、よほど素晴らしい感動を与えてくれた。


 元々持っている物と、努力で得た成果は、これほどまでに得られる物が違うのかと思ってしまう。



  ◯



「そうですか。確かに、努力で得た物は素晴らしいと思います。ですが、追試の予想問題を作ったのは私なので、兄様の達成感はかなり間違っていますね」


「いや、リーナが作ってくれた問題文と回答を必死に覚えたんだ。これも立派な努力だろう」


 今はリーナに呼び出されて、屋敷にお邪魔している。

 リーナの近くで、頭に小鳥を乗せた獣人の子供が遊んでいるが、まあ気にする必要は無いだろう。


 紅茶が提供されて、早速学園での出来事を話たのだが、リーナに否定されてしまう。


「ならば、次は兄様の力で赤点を回避なさって下さい」


「ああ、そのつもりだ」


 話は終わったと椅子から立ち上がる。


「お待ち下さい、まだ何も話ていません」


「今ので終わりじゃないのか?」


「それは兄様の話でしょう、次は私の番です」


 そう言われて、再び椅子に座る。

 リーナは紅茶を啜ると、目を細めて俺を見た。


「兄様、お師匠様が決められたルールは守っていますか?」


「当然だ。今回の出来事で、師匠の言葉が正しかったのだと実感した」


「ならば良いのです。ですが、今回騎士科の生徒をを倒したことで、兄様は目立ってしまいました。これは忍者としてあるまじき行為です」


「なっ⁉︎ なんだと……騎士科を倒すことがか……」


「違います。目立つことがです。これまで上手く立ち回り、忍者という存在が露見することはありませんでした。ですが、兄様自身が目立ってしまっては、姿を現した時に看破される恐れがあります」


「何? 忍び装束を着ていてもか?」


「ええ、ロイヤルガードの中には、変装を見破るのを得意とする者がいます。彼女の目は、特殊な魔眼です。たとえ顔を隠していようと、兄様だとバレるでしょう」


「そんなの能力を持った者がいるのか? ……ところで、どうしてリーナが知っているんだ?」


「その彼女と会ったからです」


「そうか、リーナは誤魔化せたのか?」


「え? 私は別に変装していませんけど」


「そうか、力まで見破られるわけではないんだな」


「ええ、そこまで万能な力ではありません。遠方を見るのと、透過するだけです」


「そうか……先に消すという選択は?」


「ありません、彼女は善人なので」


「そうか」


 憂を排除出来ないかと考えたが、それは不可能なようだ。

 残念ではあるが、善人ならば良し。その彼女というのは、生かすべき人物なのだから。


「そういえば、今度騎士科の演習に同行することになったんだが、セリア・ノルドという人物は知っているか?」


 あの中に、知らない人物の名前があった。

 通達があった名前は、あの日模擬戦で活躍した人物のはずだ。だが、そこにセリア・ノルドなる人物はいなかった。


「セリアさんですか……」


「なんだ? 何かあったのか?」


「いえ、どうにも彼女、私をセガール殿下の婚約者だと思っているようなんです」


「…………リーナは婚約してたのか?」


「していません。これまで、全てを断っているんです。たとえ王族であろうと、受けるつもりはありません」


 それは大丈夫なのかと思うが、俺も婚約者はいないのでそんな物なのだろう。

 俺も、いずれは誰かと婚約して結ばれるのだろうか?


「……無いな、想像出来ん」


「どうかなさいました?」


「いや、俺が誰かと結婚する姿が想像が出来なくてな」


「まあ……、確かに想像出来ませんね。いざとなれば、くノ一部隊の誰かしら娶ればよろしい」


 リーナがそう告げると、並んでいたメイド達がビクッと震えた。


「まあ、冗談ですけどね。兄様には、気になる方はいないのですか?」


「気になる? 気になるか……ジールだな、あいつがどうして実力を隠しているのか気になる」


「いえ、そうではなく、異性ではいませんか?」


「異性か……」


 俺に異性の知り合いは少ない。

 リーナの配下であるくノ一部隊は知り合いではあるが、それは妹の配下として知っているだけだ。俺は、その顔も名前もほとんど覚えていない。

 とてもではないが、知り合いとは言えないだろう。


 じゃあと考えて、アンドレア様の顔が浮かぶが、彼女は兄上の婚約者でいずれは身内になる存在。知り合いとは少し違う気がする。


「あの……そこまで真剣に悩まなくてもいいですよ……。尋ねただけですから……」


 リーナを無視して、更に考えてみる。

 すると、一人だけ思い浮かんだ。


「ああ、いたな。ミレイ嬢だ」


 騎士科との模擬戦で相手になった人物。

 手合わせをしたのなら、十分に知り合いと呼べる範囲だろう。


「まあ⁉︎ まあまあまあまあ⁉︎ それはまた良いことです‼︎ 兄様も異性に興味があるのですね‼︎ クレア、直ぐに調べてちょうだい‼︎」


「はっ、はい!」


 いつもは動じないメイドが、驚いた表情を浮かべて出て行ってしまった。

 何をそんなに焦っているのだろうか?


「ふふふっ、なんだか楽しいことになりそうですね」


「何を言っているんだ? 話が終わりなら帰らせてもらうが良いか?」


「あっ、お待ちを。来週の演習には、忍び装束を収めた腕輪を持って行って下さい」


「何故? 正体がバレると言っていたではないか」


「念の為です。先ほど名前が上がったセリアさんなのですが、『今度の演習でイベント』と呟いていましたので、もしや何か企んでいるやも知れません」


「そいつは悪人なのか?」


 ならば殺せばいい。だが、返答は否定だった。


「そうではないのですが、どうにも不気味で……。身分の高い男性の元に行く以外、何もしていないのに、自信に満ち溢れてるのです」


「リーナがそう感じるのであれば、そうなのだろう。極力接触は避けた方が良さそうか?」


「はい。……もし不穏な動きをするようなら、兄様の判断で対処願います」


「ああ、分かった」


 これでようやく話は終わりだと椅子から立ち上がる。

 その足で部屋を出ようとして、一つだけ気になることが出て来た。


「そういえば、どうしてロイヤルガードの情報を持っているんだ」


 ロイヤルガードは騎士の中でも最上位の存在だ。

 個人情報に関しては、様々なガードが施されていると思っていた。だが、それをリーナは知っている。


 だから質問したのだが、リーナは驚いた表情を浮かべて俺を見る。


「申し訳ありません、報告しておりませんでした」


「報告?」


「はい、一昨年前よりロイヤルガードに任命されております」


「…………リーナが?」


「はい、私が」


「…………」


 リーナがロイヤルガードになったことを、少しだけ考えてみる。

 考えてみたのだが、どうにも腑に落ちない。


「どうかなさいましたか?」


「いや、権力には興味無いと思っていたからな。結構驚いている」


「兄様、何事にも力は必要なんですよ。権力も財力も武力も全て揃わなければ、人の世では出来ないことがあるんです」


「……そうだな……それもそうか」


 俺よりも広い視野を持っているリーナだ。

 きっと素晴らしいことをやってくれるのだろう。


「あっ、公表は学園卒業後を予定されていますので、誰にも話さないで下さいね」


「ああ」


 頷いて、今度こそ屋敷を後にした。

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