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脳筋忍者はシノビたい  作者: ハマ


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4

 追試は、リーナのおかげで赤点を回避することが出来た。

 これで、学園から追放されることはなくなった。文官への道は、まだ閉ざされていない。


「ふん、どうせ家の力を使ったんだろう? 卑怯者め」


 マブロが正面から指摘して来る。

 家ではないが、リーナには助けてもらったので間違いではない。


「ああ、助けてもらったよ。一人では赤点だっただろうな」


 あんなピンポイントに問題を予想出来るのは、リーナだけだろう。もしも一人で勉強していたら、落ちていたと思う。


「ちっ、開き直りやがって。行くぞ」


 後ろの取り巻きに告げると、マブロ達はどこかに行ってしまった。

 確かにマブロの言う通りだろう。次こそは、俺自身の力で乗り越えるべきだ。いつまでもリーナに頼っていては、立派な文官になんてなれない。


「よし、勉強だ」


 そう意気込み廊下を歩いていると、正面から女子生徒がやって来る。


 何だろうか、女子生徒を見ると、少しだけ懐かしいと思ってしまう。

 明らかに違うのだけれど、その女子生徒を見ると師匠を思い出してしまう。


「あっ、イケメン。モブにもイケメンっているんだ……」


 意味の分からないことを呟いてすれ違う女子生徒。

 そんな意味不明な言動も、師匠に近いと思ってしまう。

 それでも、明確に違うのはその雰囲気だ。師匠はどこまでも大きかったのに、この女はどこまでも小さい。


 メガネに手をやって考えてみる。


 師匠は自分のことを『俺ってこの世界にとっては異物なんだよね』と何でもないように言っていた。

 それを証明するように、師匠を消そうと様々な脅威が襲って来た。それこそ、世界を滅ぼしてしまうのではないかと思うほどの化け物だっていた。

 そんな存在を片手間に相手してしまう師匠は、間違いなく本物の化け物だ。


「……違う、そうじゃない」


 師匠はこうも言っていた。


『異物ってのは世界にとって病魔と同じだ。排除しようとするのは、当然の行動だ。稀に俺みたいな奴がいるから気を付けろよ』


 俺は立ち止まり、去って行く女子生徒の後ろ姿を見る。


「異物か……」


 とても師匠と同じ存在には見えないが、俺では推し量れないほどの力を持っているかも知れない。

 注意しておいた方がいいだろう。



  ◯



 運動の出来る服装に着替えると、普段は騎士科が使う訓練場に移動する。


「うわー、嫌だね合同訓練なんて。騎士科だけでやってくれないかな」


 そう愚痴るのはジールである。

 手には木剣を持っているが、側から見てやる気が無いのが分かる。


 これからやるのは、週一で行われる騎士科との合同訓練。

 普通科は勉強だけでなく、幅広く様々なことを経験する必要があるという理由である。


「そう言うな、これも経験だ」


「うわー、ルークは真面目だね」


「ジールも真面目だろう、それなりに訓練を積んでいるんじゃないのか?」


「僕? あははっ無い無い、武器を握ったのだってこの学園に入ってからなんだから」


「そうか……」


 笑って誤魔化しているが、ジールはそれなりの腕前だ。かなりの訓練を積んでいるのは、見ただけで分かる。それこそ、騎士科にいても上位に入る強さだろう。


「今日もセガール殿下が活躍するんだろうなぁ」


「ああ、そうだな」


 セガール様はこの国の第二王子だ。

 剣の腕前は一流で、魔術もそれなりに出来るお方だ。見た目は良さはよく分からないが、周囲の評判はかなり良い。


「あっ、来たみたいだね」


「……」


 ジールが呟くと、皆が騎士科の校舎を見る。

 そこには装備を身に付けた生徒達。普通科の生徒と比べてがっしりとしており、日頃から訓練に励んでいるのがよく分かる。

 将来はこの国のを守る騎士となる人達。中には女性の姿もあり、完全に実力主義の世界である。


 そんな生徒の中から、とても煌びやかな男子が前に出る。

 この方こそ、この国の第二王子、セガール・ジ・アメトラス様だ。


「普通科の諸君、本日もよろしく頼む。教員が来るまでの間、身体をほぐしておいてくれ。本日は模擬戦の予定だ」


「ええー……」


 隣のジールから不満気な声が上がる。だがそれはジールだけでなく、他の生徒からも同様だった。

 模擬戦を騎士科だけでやるのなら不満は上がらないが、普通科との対戦になるから皆不満に思っていた。


 この中で騎士科に勝てるのは、俺を除いて三人。

 それでも上位には勝てないだろう。


 皆、口々にしながらも、手に持った武器を振り始める。文句は言っても、健闘したいとは思っているのだ。


 そんな中でストレッチをしていると、セガール様がやって来た。


「ルーク、相変わらず不思議なことをしているな?」


「セガール様、お久しぶりでございます」


「いい、学園でそういうのは必要無い。以前から思っていたが、不思議なことをしているな? それは何をしているんだ?」


「はっ、これはストレッチと呼ばれる準備運動です。関節や筋肉をほぐし、怪我をし難くなる効果があります」


「ほう、そんな運動があるんだな。ストロング伯爵家では普段から行っているのか?」


「いえ、俺とリーナくらいです」


「リーナ……。ところで、リーナ嬢は元気か? 何か私のことを言ってなかったか?」


 リーナの名前を出すと、急に距離を詰めて来るセガール様。

 周囲に話を聞かれないようにしているが、残念ながら聞き耳を立てている人達には筒抜けである。


「リーナは変わらずです。セガール様に関しては特に何も……」


「……そうか、何も無いのか」


 何故か気を落として去って行くセガール様。

 何かリーナと因縁でもあるのだろうか?


 ストレッチの続きをしようとすると、ジールから引っ張られる。


「ねっ、ねえ、リーナさんとどういう関係なの?」


「何と言われても、兄妹だが」


「そうじゃなくて、セガール殿下と!」


「知らん。何か個人的な付き合いでもあるのだろう」


「えー……王族との付き合いだよ、少しは気にしなよ……」


 ジールの残念そうな言葉を聞いて、少し考える。


「……そういう物なのか?」


「そういう物だよ。お兄さんなんだから、一応把握しといたがいいよ」


「そうか、教えてくれてありがとう」


「いえいえ、分かったら教えてね。こういう話って面白いからさ」


 シシシッと小物っぽく笑うジールと、それに同調するように頷く周囲の人。

 何がそんなに面白いのか分からず、俺は困惑してしまった。



  ◯



 騎士科の教員がやって来ると、直ぐに模擬戦は開始された。


 最初に舞台に立ったのは、意外なことにマブロだった。

 彼は騎士科に勝てるかもしれない人物の一人で、後の方に出るものだと思っていた。

 対するのは、騎士科の中でもトップクラスの生徒。

 マブロが出るのを見て動いたのを見るに、マブロの実力は騎士科にも知られているのだろう。


「くそっ⁉︎ 他の奴なら勝てた!」


 残念ながらマブロは勝利出来なかったが、かなり健闘した。それこそ、騎士科に声を掛けられるレベルだ。


 続く生徒も負けてしまい、アンドレア様の番が回って来る。


 アンドレア様は、もう一人の騎士科に勝てるかもしれない人物だ。その手には杖が握られており、魔術を主に戦うタイプだと分かる。


「まさか殿下がお相手だとは思いませんでした」


「魔術科主席の相手が務まるのは、私くらいしかいないからね」


「それはもう過去の話、今は普通科の一般学生です」


 ふふっと笑うアンドレア様は、一学年の時は魔術科にいた。

 ベルモット兄上との婚約が正式に決まり、普通科に変更したのだ。皆から惜しまれたようだが、本人の意思が固く魔術科に留めておけなかったらしい。


 二つの魔術が同時に発動する。

 その二つを使ったのはアンドレア様で、彼女はダブルキャストと呼ばれるスキルの持ち主だ。


 威力は抑えていても、魔術は魔術。

 当たれば怪我もする。そんな魔術を避けて前進するセガール様。

 身体強化を施しているであろう、素早い動きで魔術の弾幕を避け、剣で弾き確実に距離を詰めて行く。


 ダブルキャストにより間断なく放たれる魔術は、確かに強力だ。

 それでも、当たらなければ意味は無い。


「参りました」


「いい訓練になった。感謝する」


 最後は喉元に剣を添えて、セガール様が勝利した。


 もしも、ここが戦場ならば、勝っていたのはアンドレア様だろう。

 彼女は手加減していた。

 模擬戦というのもあるが、彼女はもう一つ同時に発動出来たのだから。


 この後は、普通科が圧倒的に負けて消化されて行く。

 勝てるはずのジールはあっさり負けてしまい、「あはは、やっぱ強いや」と残念そうでも何でもなく戻って来た。


「次、ルーク・ストロング!」


 教員に呼ばれて俺は舞台に向かう。


「騎士科、ミレイ・リンレイ!」


 対するは、ミレイと呼ばれる騎士科の女子生徒。

 ウェーブの掛かった紫色の髪、意志の強い瞳は相手を威嚇する。

 容姿の美醜は、残念ながら俺は判断が出来ない。だが、彼女の立ち姿は美しいと感じた。


「ルーク殿、あなたと一度手合わせしたいと思っていた」


「そうか、だが何故?」


「あなたの妹、リーナ・ストロングは魔術科始まって以来の天才と呼ばれている。兄である貴殿に興味を抱くのは自然ではないか?」


「いや、よく分からん。それなら、直接リーナと会えばいいだろう」


 リーナが優秀だからといって、俺に興味は湧かないだろう。俺と妹は、違う人間だというのに。


「私は、ロイヤルガードを目指している。いや、私だけではない、騎士科にいる全ての者がロイヤルガードを目指しているといっても過言ではない」


 いや、過言だろう。セガール様はなれないのだから。


 ロイヤルガードとは、王族を守護する最強の精鋭部隊の名だ。

 最大十一名という少数で、現在は八名任命されているという。

 誰でも成れるというわけではなく、実力と人柄により任命されるそうだ。


「リーナ殿は、いずれロイヤルガードに選ばれると言われている。ならば、あなたはどうだ! その実力を知りたいと思うのは当然だろう!」


「まるで当然ではないが、まあ、言いたいことは分かった」


 つまり、ただ戦いたいんだな。


 会話が途切れると、教員が模擬戦開始の合図を告げる。


 ミレイが動き出すと同時に、俺は木剣を上段に構える。


「一発勝負か⁉︎ 面白い!」


 ニィと笑うミレイに向かって剣を振り下ろす。それに合わせて、ミレイも振り抜く、が、途中で止まり横に跳んだ。


 それを目で追いながら、剣の軌道を変えて追い掛ける。


「くっ⁉︎」


 まさか追って来るとは思わなかったのか、ミレイは木剣で受け止めた。


 カンッと軽い音が鳴る。

 まるで力の入っていない剣に、ミレイはキョトンとする。

 一瞬の隙。

 俺は距離を更に詰めて、柄で腹部を殴打、しようとするがギリギリで回避されてしまう。


「やるな。落ちこぼれだと噂で聞いたが、やはりデマだったか。ルーク殿、本気で行かせてもらう!」


「……」


 落ちこぼれと思われていたのか。事実ではあるので否定しようがないが、そこまで噂になって広まっているのかと驚いてしまう。


 やる気になったミレイの動きは鋭く、先程よりも数段動きが速い。

 可能な限り木剣で受け、無理な物は身体を捻って避ける。


 勝つのは容易い。

 力を制限している状態とはいえ、ここにいる生徒を相手に遅れを取るほど弱くはない。

 だが、その勝利は正解なのだろうか?

 普通科のみんなは負けているのに、俺一人だけ勝ったらおかしくはないだろうか?

 ここで勝てば、間違いなく目立つだろう。それは良いことなのだろうか?

 勝つと、騎士科に声を掛けられて、学科を変更させられる恐れはないだろうか?

 俺は文官を目指しているのに、騎士になれと言われたらやる気が無くなる。そもそも、ルールから外れてしまう。


【苦手なことで頑張る】


 これが達成出来なくなる。


 ならば、負けるしかない。


 手の力を抜き、ミレイの剣で俺の木剣を弾き飛ばす。

 意外な感触だったのか、ミレイが「なっ⁉︎」と驚く。だが、今回は隙は生み出さない。


「はあああーーーっ‼︎‼︎」


 何を考えているのか、これまでにない魔力を木剣に込めている。

 しかも、かなりの殺気が込められており、殺す気でいることが窺える。


 これ、模擬戦だったよな?


 ミレイから素晴らしい一撃が放たれる。


 魔力が込められただけなら、俺は特に反応しなかっただろう。

 だが、その動きが美しく思わず反応してしまった。


 鋭い突きを避け、手を掴むと円を描くように一回転。


 合気。


 ミレイは空中を一回転して、地面に叩き付けられた。


「……こんなこともあるか」


 唖然とするミレイから視線を外して、そう呟いた。

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