リーナ2
獣人の少女の名前はココ。
集落を追い出されたところを盗賊に捕まったそうだ。
何故、集落を追い出されたのかというと、
「ココ、一番弱いから追い出された」
と要領を得ない回答を得た。
更に話を聞くと、どうやらココは獣人が得意とする身体強化を使えないそうだ。
獣人ならば、幼い頃に自然と使えるようになる技術だが、ココは十歳になっても発動出来なかった。そのせいで、無能のレッテルを貼られて無慈悲に追放されたという。
「そう、獣人にもそういうことがあるのね」
魔術で成り上がった貴族には、そういう風習がある。
魔術が使えなければ人権は無く、学園入学の十五歳を前に家から追放される。そういう子が、この屋敷でも働いている。
「ココ、ダメな子」
「いいえ、あなたはダメじゃないわ」
「でも、みんなから言われた……」
「その人達は、ココの才能に気付いてなかったのね。ココ、あなたは優れた素晴らしい能力を持っているわ」
「ほんと?」
「ええ、間違いなくある。ココはその使い方を知らないだけよ」
ココの顔がパァーッと明るくなる。
まだ九歳という幼い年齢なのもあり、人の言葉を素直に受け取めてくれる。
尻尾がぶんぶんと唸っており、その能力が何なのか知りたいのだろう。
「教えて教えて! ココって何が出来るの⁉︎」
「ふふっ、教えたいところだけど、約束をして欲しいの」
「約束?」
「そう約束、今日の出来事を、そしてこれから知ることを誰にも喋らないって約束。もしも、約束を破ったら大変な目に遭うけれど、それでもいいかしら?」
「んっ? んん〜〜んっ? うん、約束する!」
「ええ、では契約成立」
掌に赤い球体を作り出す。
これは、私の血を媒介にした契約の契り。奴隷の刻印よりも強力な効果を持っている。
それをココの口に放り込んで、ゴクリと飲み込ませる。
「っ⁉︎」
すると、ココは床に倒れて苦しみ出す。
「今、ココの体に刻まれた奴隷の刻印を消しています。もうじき、魔術も排除されるから、少しだけ我慢してね。クレア、水を用意してちょうだい」
「はい」
奴隷の刻印からドス黒い魔力が溢れ出して霧散すると、刻印自体も消えて無くなった。
息の荒くなったココを抱えると、私のベッドに寝かせる。
すると、間もなくして寝息を立て始めてしまった。
どうやら水は必要なかったみたいね。
「リーナ様⁉︎」
「いいのよ、ベッドはこういう時の為にあるの。頑張ったのだから、これくらい当然でしょう?」
「ならば、私のをお使い下さい!」
「あなたの部屋は離れているでしょう。いいのよ、今日はこの子と寝るから」
「くっ⁉︎ ならば私も護衛の為、一緒に⁉︎」
「必要無いでしょう、ココを連れて来たのは兄様。私に害を及ぼす輩なら、その場で始末されています。だから安心して」
「いえ、そういうことではなくて……」
何か言い淀むクレア。
うちのメイドはみんな優秀だけれど、心配性だから困る。
「ああそうだ、クレアのクラスに転校生が来たと聞いたのだけれど、どういう方なの?」
「セリア・ノルドさんですね。彼女と会話をしたわけではないので詳しくは言えませんが、不思議な方です」
「不思議? ……精霊眼をお持ちということ?」
精霊眼というのは、自分は特別な存在で、見えない物が見えているとアピールする人のこと。
お師匠様は『あっ⁉︎ それは俺の右眼を刺激する⁉︎ 邪気眼が邪気眼が発動するぅ⁉︎』と兄様の必殺技を見てよく悶えていた。
「それに近いとは思うのですが、クラスメイトが話しかけても、『モブね』と小声で呟いていたんです。もしかしたら、他国からの間者やもしれません」
「もぶ? 何かの隠語っぽいわね。無闇に呟いているというのは気になるけれど、注視しといてちょうだい。いざとなれば対処します」
「はい……」
「どうかしたの?」
「いえ、何でもないです。それでは、失礼いたします」
そう言って姿を消すクレア。
去っていく前に向いていたのは、私の服を掴むココの姿だった。
◯
「しゅうかんし?」
「召喚師ね、召喚獣を呼び起こす力よ」
ココの隠された才能は召喚師。
己の魔力を使い、この世界の記憶から魔獣や幻獣、神獣を呼び起こす能力である。
召喚する個体によって、魔力の消費量が異なり、多ければ多いほど強い召喚獣を呼び起こすことが出来る。
この能力はかなり珍しい。
アメトラス王国の貴族にも召喚師の家系は存在するが、三世代に一人の割合でしか産まれて来ない。市井から、召喚師の資質のある者を嫁がせたりもしているが、この確率に変化は無い。
強大な召喚師は、一人で軍を相手取れるだけの力を秘めている。
「召喚師にはイメージと知識が必要なのだけれど……難しそうね。ココは、どんな動物が好き?」
「動物? ……リーナ」
ココがピッと指差すのは私。
背後でメイド達が動こうとするが、それを手で制する。
「私は召喚出来ないから、他の動物がいいわね。じゃあ、ココが一番強いと思う動物を想像してみて」
「一番強い……ひっ⁉︎」
ココは悲鳴を上げると、私に抱き付いた。
背後でメイド達が動き出すが、それも手で制する。
「どうしたの?」
「昨日のこと思い出した……」
どうやら、完全にトラウマになったようだ。
これほど怯えられるとは、盗賊をどんな殺し方をしたのだろうか?
頭を撫でて落ち着かせると、とりあえず召喚をやってみようと適当な動物をイメージさせる。
「じゃあ、鳥をイメージなさい。空を飛ぶ偉大な鳥」
「とり……」
「魔力の補助はやってあげるから、詠唱とイメージに集中して」
コクリと頷くと、ココは杖を握り詠唱を開始する。
「だいちのきおくにのこるえいれいよ、わが? よっびごえにこたえてけんげんせよ! しょうかん‼︎」
拙い詠唱だが、召喚魔術は成功する。
魔法陣が展開すると、そこから更に巨大な魔法陣が発生する。
「……拙そうね」
即座に結界を張り、外から見えないようにする。
もし、魔法陣を見られていれば手遅れの可能性もあるけれど、そこは今考えても仕方ない。
「おおー、おっきいー」
ココが大きな魔法陣を見て呑気に呟く。
そこから発せられる魔力は相当な物で、メイド達は臨戦体制入っている。
それを再び手で制す。
「ココ、あなたは素晴らしい才能を持っているわね」
「本当⁉︎ やったー‼︎」
喜ぶココを尻目に、魔法陣を注視する。
元々、ココには質の高い魔力が備わっていた。その魔力は、私の血によって更に純度が増した。だから、このような存在が召喚されるのは必然だったのだろう。
魔法陣から鳥の雄叫びが上がる。
「キュエーーーーッ⁉︎⁉︎」
姿を現したのは、魔法陣と同じ大きさの鳥。
だが、ただの鳥ではない。炎を纏い、鋭い眼光は常人であれば失神するであろう迫力が宿っていた。
フェニックス。
私でも、これまでに一度しか見たことのない神獣がそこにいた。それに、
「青い炎とは、美しいものね」
明らかに上位の存在。
「リーナ……」
ココが怯えて私の後ろに隠れてしまう。
それも仕方ないだろう。このフェニックスは、ココが制御出来る存在ではないのだから。
己を召喚した存在を認めると、フェニックスは大きく羽ばたき、その力を使う。
背後にいるメイド達は動かない。
先ほど私が制したので、その指示を受け入れているのだ。それに、この程度の鳥に、私が遅れを取ることはないと理解しているのだろう。
「ここで火は使わないでね」
指を鳴らすと、フェニックスの炎は霧散して、魔封じの鎖が何も無い空間から現れて捕える。
「ッ⁉︎」
叫ぶことも出来なくなったフェニックスは地に落ち、私を鋭く睨み付ける。
地に落ちても、フェニックスの気高さは変わらない。
その誇りは神獣に相応しく、何者かに従うのなら自ら死を選ぶだろう。
「美しさ気高さは一級品、その力は一国を滅ぼして余りある。ココは本当に凄いわね」
「リーナッ、この子どうするの?」
「あなたが決めなさい、このフェニックスを呼び出したのはココなのだから」
「ココが……」
いざとなれば即座に殺す。
フェニックスが死ぬのか不明だが、ココに被害が出るよりも早く始末する。
そう準備をして、ことの顛末を見守った。
「ねえ、鳥さん、ココとお話ししない?」
「……」
「ココね、友達いないんだ。だから、一緒にお話しするお友達が欲しいんだ」
「……ポフ」
フェニックスが少しだけ火を吐く。
その炎に熱は無く、害を及ぼすことはない。
「お願い、ココと一緒にいて、初めての友達になって」
「……キュルル」
動きを封じている魔封じの鎖を解くと、フェニックスから魔力が立ち昇る。それはココへと送られ、正式な召喚獣となる。
本来の召喚獣は、魔力が切れた時点で姿を消すが、どうやらこのフェニックスは特別なようだ。
大気中から魔力を取り込み、その体を維持する。
しかし、体を維持するのはその程度の量では足りず、肉体を小鳥サイズまで縮小させてしまった。
小さくなったフェニックスは、パタパタと飛びココの頭の上に着地する。
「この子に名前を付けて上げなさい。それで、契約は成立するわ」
「名前? ……ん〜……クク。この子の名前はクク!」
「クルル!」
気に入ったようにククは鳴いた。
「……えっ、そんな名前でいいの?」
そう疑問に思ったクレアの声が聞こえるけど、それは言ってはいけない約束でしょう。と視線をやっておいた。




