2-4
明日から、メノウ学園は長期休暇に入る。
この日に、セガール様率いる勇者パーティは国王様から任命され、正式に活動を開始する。
最初の目的地は決まっているらしく、準備が大変だとジールが愚痴を溢していた。
「ルークとも、今日でお別れだね」
「ああ、新学期にまた会おう」
「あのねルーク。旅に出るから学園で会えるのは、いつになるか分からないんだよ」
「魔王を倒せば、復学出来るのだろう? ならば、それまでに倒せばいい話だ」
「それが出来るのなら、僕らはいらないよ……」
「分かっている。だが、それくらいの気持ちでいた方がいい。目標は明確にした方が、叶う可能性も上がるからな」
「何その理論? でも、そうだね、出来るだけ早く戻れるように、僕も頑張るよ」
ジールは困ったように苦笑を浮かべる。
本気で隠れた魔王を探すのは、かなり難しいだろう。俺やリーナでも、一年間専念してどうかといったところだ。
それを考えると、メノウ大会に現れた四天王を葬ったのは失敗だったかもしれない。せめて、魔王の居場所を聞き出して始末するべきだった。
とはいえ、あの四天王は人類に宣戦布告して来たのだ。
いずれ動くのは間違いない。
俺達は、その時に備えておけばいい。
「ジール、何か必要な物があれば言え。俺に用意できる物ならば、何でも持って来よう」
「ありがとう。でも、大丈夫だよ。国からも支援してもらえるし、アンドレア様にも良くしてもらってるからさ」
「そうか……」
選別に、伝説の武器の一つでも渡そうかと思っていたのだが、それも必要無さそうだ。
ならば、ジールの旅の無事を祈っておこう。
そう思ったら、光の粉らしき物が空から降って来て、ジールに降り注いだ。
ジールや他のクラスメイトは気付いていないようだが、どうやらジールは加護を与えられたらしい。
どこの神だと目を凝らしてみると、どうやら俺だった。
「……やってしまった」
「どうかしたの?」
「いや、何でもない。ジール無事でな」
「えっなに? いきなり普通の反応でびっくりするんだけど」
若干引いているジール。
それはどういう意味だと聞きたい所だが、それどころではない。
もし、加護を与えられたとバレたら、ジールは自由な生活を送れないかもしれない。
ましてや、俺という名も無い者の加護だ。
最悪、邪神からの加護と誤解される恐れすらある。
解除しようにも、元あるジールの能力さえ奪ってしまう恐れがある。
たとえ能力が向上したとしても、元の生活に戻れないのなら、それは無用の長物でしかない。
これは、リーナに報告しておいた方が良さそうだ。
◯
長期休暇に入り、俺はストロング伯爵家に帰ることになった。
加護の件をリーナに報告すると、『分かりました。最悪、こちらで保護いたしますのでご安心ください』と返事をもらったので、大丈夫だろう。
馬車での移動は、時間が掛かるから好きではないのだが、滞在期間を少しでも短く出来るのなら悪くは無い。
片道七日の道程。
ゆっくりと進む馬車の中で、本を読んで過ごし、襲って来る魔物を排除する。長閑な風景を見て時間を潰し、昔のことを思い出して己を鍛えたりもした。
変化があったのは五日目の夜。
宿場町に到着する予定だったが、倒木で道が塞がれていて思うように進めなかったのだ。
おかげで、野宿する羽目になってしまった。
「お兄さんって、メノウ学園の学生なんですか?」
そう尋ねて来たのは、倒木で足留めをくらっていた行商人の娘サーリャだ。商人の両親と一緒に、遠い町に行った帰りのようで、好奇心旺盛に俺に話しかけて来る。
行商人と共にいるのは、単独での野宿というのは危険で、一緒にどうかと誘われてお邪魔することになったのだ。
夕食の準備を手伝い、周囲の警戒は商人が雇った冒険者の男女二人が行う。
二人はそれなりに有能なようで、倒木の排除も彼らがやっていた。
夕食の準備が完了して、食事を始めた時にサーリャから質問されたのだ。
「ああそうだ。学園に興味があるのか?」
「うん、私も魔術が使えるようになりたいの!」
「そうか……。うん、サーリャなら魔術は使えるだろう」
サーリャの魔力量を見ると、一般の魔術師並みにはある。
鍛錬を怠らなければ、魔術師としてやって行けるだろう。
「本当⁉︎ じゃあ、魔術教えて⁉︎」
「こらっやめなさい⁉︎ すみません、この子、魔術に目がなくて……」
母親に怒られて、サーリャはしゅんとしてしまう。
それも仕方ない。本来なら、魔術を習うのには金が掛かる。それを無料で教えていては、教えるのを専門とした魔術師が廃業してしまう。
とはいえ、魔術の魅力を教える為に、少しくらいなら良いだろう。
「構わない。俺が魔術を教えるのは、本来許されないのだが、簡単な物ならいいだろう。それでもいいのなら教えよう」
「いいの⁉︎」
両親は謝っていたが、気にする必要は無い。
これは、俺がやろうと思っただけなのだから。
それに、夕食をご馳走になった礼もあるしな。
教えるのは、光を灯す魔術。
これは、魔術の基礎の基礎。
これを用いた物は、魔道具としても販売されており、とても身近な魔術でもある。
サーリャは才能があるのか、一時間ほどで魔術を成功させていた。
「わぁ⁉︎ 私出来たよ⁉︎ これで私も魔術師になれる⁉︎」
「ああ、サーリャには才能はあるだろう。ただ……」
「ただ?」
「魔術という物は、決して綺麗なだけの力ではない。それを理解して、目指すのか決めるといい」
「?」
まだ、この言葉の意味は分からないだろう。
分からないままでいた方が、きっと幸せなのだろうが、知るチャンスが来てしまった。
俺は魔術を発動させて、女性冒険者の前に土壁を作る。
「なっ⁉︎」
突然の出来事に驚いているが、それよりも警戒して欲しい。
土壁には、矢が突き刺さっているのだから。
「お兄さん?」
「これから、魔術の汚い側面を君に見せる」
立ち上がると、魔術を使い地面から一本の剣を作り出す。
何の特徴の無い、ただの剣だ。
これを振り払い、飛んで来る矢を払い落とす。
「きゃっ⁉︎」
驚くサーリャに視線を送ると、冒険者に指示を出す。
「冒険者、お前達はこの家族を守るんだ」
「何を言って⁉︎」
再び飛んで来た矢を風の魔術で叩き落とす。
そこでようやく事態を察したのか、周囲に目を凝らす。
「盗賊が狙っているぞ」
そう忠告して、ようやくその存在に気付いたようだ。
とはいえ、恥じる必要は無い。
何せ相手は、冒険者よりも格上の者達だからだ。
木々の間から姿を現したのは、少々装備が充実した盗賊達。
無言で現れて、こちらに何かを要求するでもなく剣を構えた。
本来なら、目立つのは避けるべきだろう。圧倒的な力で始末するのなら、忍の姿でなければならないからだ。
だが、学生が使える程度の技術で倒すのなら、その限りではない。
盗賊を警戒して、冒険者の二人は剣を構えた。
しかし、その人数と実力差を認識して、絶望した顔になっている。
二人に再び、「下がって、この家族を守れ」と指示を出すと急いで下がって来た。
俺は前に出て、盗賊達に問い掛ける。
「お前達は、どこに所属している?」
「……」
「黙りか。ならば、魔術の演出に付き合ってもらうぞ。サーリャ、魔術の恐ろしさをよく見ておくんだ」
背後を振り返りそう告げると、サーリャは小さく頷いた。
一斉に動く盗賊達。そのうちの一人の首を風の刃で跳ね飛ばす。
仲間がやられて動きを止めた奴を、石の杭で串刺しにする。
散会の指示を出した先頭の男の頭部を、水の球体で包み込み窒息させる。
逃げようとした盗賊に火球を放ち、上半身を爆ぜた。
一気に攻めて来た連中に雷撃を喰らわせて、その肉体を戦闘不能に追い込む。
これを、盗賊を全滅させるまで続けた。
「サーリャ、これが魔術だ。様々なことが出来るが故に、多くの血を流すようになってしまった技術。お前は、それでも魔術師を目指すか?」
そう問い掛けると、サーリャは真っ直ぐに俺を見返した。
それは、年齢にそぐわないしっかりとした目付きだった。
「……私、それでも、魔術師になりたい! お兄さんみたいに、パパやママを守れるなら、私も魔術師になりたい!」
「……そうか。もし、その思いが続くのならば、ストロング伯爵家の門を叩き、ルーク・ストロングの名を出せ。さすれば、サーリャを導く者と出会えるはずだ」
これは、飯を恵んでもらった恩返しだ。
その時は、母上かリーナの部下が対応するだろうが、まあ悪いようにはならないはずだ。




