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どうやら、正式に勇者パーティが決定したようである。
発表は大々的に行われ、国内外に通知された。
国王様からの任命式も近々行われるそうで、かなりの大事になっていた。
それもそうだろう。
人類の敵である魔王を打ち倒して、世界に平和をもたらす存在が現れたのだから。
それが自国の王子ともなればなおさらだ。
とはいえ、それはあくまでも外での話。
メノウ学園内では、また違った問題が浮上していた。
「どうしてあいつが選ばれたんだ?」
「平民だぞ、何を考えているんだ?」
「もっと相応しい人がいるだろう⁉︎」
「大した実力も無いくせに‼︎」
そんな声が、そこかしこから聞こえて来る。
これらの向け先は、俺の友人でもあるジール。
勇者パーティに選ばれた中でも唯一の平民で、メノウ大会で活躍していないことから、多くの人から反感を買っているのだ。
だがそれは、余りにも愚かではないだろうか?
国の上層部は、ジールの実力を知った上で正しく選んでいる。その目を疑って愚かなことを言い続けるのならば、相応の覚悟はするべきではないだろうか。
「待って! ルーク何する気⁉︎」
「安心しろ、少し話し合って来るだけだ……」
「いやいや⁉︎ そんなに睨み付けてちゃ信じられないって⁉︎ 怒ってくれるのは嬉しいけど、僕の立場も考えてよ⁉︎」
ジールの言葉に足を止める。
確かにそうだ。ここで俺が何かを言っても、周りの評価は変わらないだろう。本当の実力を示すか、もっと権力のある人が前に出て主張しなければ、ジールの立場はもっと悪くなってしまう。
それこそ、圧倒的な後ろ盾が必要になるだろう。
そう、たとえば公爵家とか。
「あなた達は、王国の決定に文句があるの?」
ジールの文句を言っていた集団に、普通科で最も身分の高い女性が問う。
「いえ、俺達は別に……」
「文句だなんてそんな……」
「では黙っていることね。ジールに文句があるのなら、このアンドレア・カーニバルに言いなさい!」
教室内にアンドレア様の声が響き渡る。
それと同時に、「ああー……」と絶望する声がジールから上がった。
「なあジール」
「何も聞かないで」
「アンドレア様が庇うということは、ジールの後ろ盾には公爵家がいるのか? それならそうと……」
「待って! 僕も理解が追い付いていないんだ。せめて落ち着くまで、何も聞かずに待って!」
「ああ、理解した。ジールには落ち着くまで、聞かないでいよう」
必死なところを見るに、どうやら冗談で言っているのではないようだ。ならば、もう一人に聞きに行けばいい。
「待って! もう分かってるから! ルークがどういう考えをしているのか分かってるから⁉︎ アンドレア様には迷惑掛けないで⁉︎」
「迷惑なんて掛けない、ただ話をするだけだ」
「その話題が問題なの⁉︎ お願いだから、今は大人しくしてて‼︎」
ジールの余りの必死さに、俺は大人しく引き下がった。
将来義理姉となる人物が、どういった理由でジールを手元に置こうと考えたのか知りたかった。その実力に目を付けたのならば分からないでもないが、どうにもそうではない気がするのだ。
「ジール、悩み事があったら俺に言えよ」
「うん、多分しないけど、覚えておくよ……」
疲れた顔のジールを見ながら、何事もなければいいのだがと思ってしまった。
◯
勇者パーティ
勇者 セガール・ジ・アメトラス
騎士 ミレイ・リンレイ
魔剣師 ベルモット・ストロング
魔術師 ジック・プレット
治癒師 セリア・ノルド
斥候 ジール
召喚師 ココ
以上七名が勇者パーティとして任命された。
このメンバーで魔王を倒せるのかと問われると、魔王の実力次第といった所だろうか。
戦力として突出している獣人族の召喚師がおり、そう簡単には負けないだろうが、相手は魔王だ。俺達にとっては大したことない存在でも、普通の人からすればそうではない。
大半の人が、魔王を前にすれば恐ろしさの余り動けなくなる。
魔王と戦えるのは、一部の選ばれた人間。
それが、勇者と呼ばれる人達だ。
「ミレイおめでとう。君なら、魔王を倒しロイヤルガードに選ばれるはずだ」
婚約者であるミレイと屋上に向かい、まずは祝福の言葉を送る。
「ありがとう、まさか本当に選ばれるとは思っていなかった。私よりも凄い騎士はたくさんいるというのに、正直言って驚いている」
「そんなことはない。君の実力は相当なものだ。それに、才能もある。それこそ獅子王と呼ばれる騎士よりも優れた才能だ。自信を持つといい」
「そっ、そこまで言ってくれるのか? だが、ルークはそんな才能溢れる私に勝利したんだ。なあ、どうして勇者パーティに選ばれるよう働き掛けなかった? ルークなら、問題なく選ばれていたのではないのか?」
ミレイの言葉に少し驚いてしまう。
それは、俺が勇者パーティに参加するという発想が無かったからだ。マブロから何か言われたが、それは無いと勝手に判断していた。
いや、そもそもリーナが選考に関わっていたのなら、俺が選ばらるということは絶対に無い。
そもそもの話、兄上がいるのに俺まで選ばれることは無いだろう。
「ストロング伯爵家から、二人出すわけにも行かなかったんだろう。ならば、跡取りである兄上を出すのは当然。俺が選出されては、いろいろと問題が起こってしまう」
そう告げると、ミレイはそうだなと頷くと、少し寂しそうな顔をする。
「もしかしたら、ルークと一緒に旅が出来ていたのかもしれないんだな……」
ミレイの横顔を見て、申し訳ない気持ちになる。
仕方ないとはいえ、一緒にいられないのだから。
「ミレイ、一緒にはいられないが、君の為に尽力すると誓おう。君が帰って来る場所は、俺が必ず守る。だから安心して欲しい。君は、君の望む道を行ってくれ」
これが、俺から送れる最大の言葉だ。
言葉を送った甲斐があったのか、ミレイから寂しそうな顔は消えて新たな変化を見せる。
「ルーク……」
顔を赤らめたミレイが近付いて来る。
これは、どうしたものだろうか。
恐らくミレイは発情している。
そうじゃなかったら体調不良だが、先ほどまで元気だったのに体調を崩せば、それはもう呪いを受けたレベルの話になる。
だから、間違いなく発情している。
再び、どうしようかと考える。
ここで解消してやるのも手ではあるが、そうすればミレイが後戻り出来なくなる。
旅の途中で、誰かを好きになった場合、この時の出来事が尾を引くかもしれない。それは、ミレイの未来の可能性が狭まってしまうのを意味していた。
俺は、彼女には幸せになってもらいたい。
具体的には、ロイヤルガードになり誇り高い騎士になって欲しい。
色恋沙汰のような事情で、その目標を見失って欲しくない。
ならば、俺に取れる手段は十通りある。
その中で最も無難な物を選択し、実行する。
指を弾くと空気の弾丸が飛ぶ。
それは、俺達を覗き見しているくノ一の近くに着弾し、「きゃわっ⁉︎」と声を上げて転倒した。
「誰だ⁉︎」
ミレイは正気に戻って振り返ると、魔術科の女子生徒を発見する。
「ごっ、ごめんなさい! 覗くつもりは無かったんです⁉︎ たまたま、そうたまたまだから⁉︎ たまたま屋上に来たら、二人が接近していて良い感じだなって見てしまっただけだから! ……その、僕に構わず続きをどうぞ」
「ちっ⁉︎ 違うからな⁉︎ 別にそんなことしようだなんて考えてないからな⁉︎ おっ、お前名前は何だ⁉︎ 名をなのれぇ〜……」
ミレイの言動が怪しくなる。
恥ずかしがっているのが、俺にも伝わって来る。
「僕、魔術科二年のトウリです。リーナ様とはとても仲良くさせていただいております」
「リーナ、あっ義妹ね、そうか、じゃあ、ルーク行こうか」
ミレイは俺の手を引いて屋上から出て行く。
顔は赤く、その姿が可愛らしいと思ってしまった。




