表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
脳筋忍者はシノビたい  作者: ハマ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/39

2-2

 俺が追試を無事に乗り切ってから、メノウ学園はある話題で持ち切りになっていた。


「セガール殿下が、正式に勇者に任命されたんだって」

「教会も認めたらしいよ」

「やっぱりセガール殿下凄い!」

「誰が仲間になるのかな?」

「もう目ぼしい人には声を掛けているらしいよ。やっぱり、ベルモット様は欠かせないよな!」

「あとや騎士科のミレイとアンドレア様も間違いないんじゃないか? リーナ嬢だって選ばれているだろう!」

「いやいや、学生よりもロイヤルガードから選出されるでしょう」


 などと、セガール様の勇者任命と誰が仲間になるのかで持ち切りになっていた。

 こういう噂が大好きなはずのジールだが、


「大丈夫かジール、顔色悪いが?」


「あはは、大丈夫だから気にしないで……」


 元気が無く塞ぎ込んでいた。


 元気が無い理由は、リーナから聞いて知っている。

 そんなに嫌なら断ればいい。そう言ってやりたいが、まだ表に出てない情報を出すべきではないだろう。

 それに、ジールは平民だ。貴族からの誘いは断れないだろう。

 まあ、悪いことばかりではない。もし王族と親しくなり、魔王討伐という功績を上げれば、将来貴族位を得てもおかしくはない。

 それも死んでしまったら意味は無いが、リーナが人員を送り込んでいる以上、その心配も無いだろう。


「ジール」


「なに?」


「心配するな、きっと上手くいく」


「ごめん、何を言っているのか分かんないや」


 ジールは困惑しているが、まあいい。それよりも、近付いて来た同級生の相手をしよう。


「おい落ちこぼれ。貴様、まさか選ばれたりしていないよなぁ?」


 マブロが取り巻きを連れてやって来る。選ばれたというのが、何を指し示しているのか聞くまでもない。


「いや、俺は選ばれていない。マブロはどうだ?」


「ちっ‼︎ 落ちこぼれが質問してんじゃねーよ‼︎ マグレで善戦したくらいで調子に乗んなよ‼︎」


「ああ、大丈夫だ。俺は調子に乗ったりしない。それより、どうしたんだ? 何か嫌なことでもあったのか?」


 明らかに、いつもより怒っている。俺を侮蔑した目で見ていても、怒りを宿した目で見て来ることは滅多になかった。

 だから聞いたのだが、どうやらマブロはそれが気に入らなかったらしい。

 俺の胸ぐらを掴んで、顔を近付けて来る。


「そういう所が気に入らないんだよ! 何澄ました顔してんだ、落ちこぼれなら落ちこぼれらしく下向いて黙ってろよ‼︎」


「それは出来ない。何故なら、下を向いては相手の意思が見えないからだ」


「テメー‼︎ また馬鹿にして‼︎」


 拳を振りかぶるマブロだが、以前と同じように取り巻きが止める。


「待って下さい! こいつ、マジでそう思って言ってます!」

「まともに相手しないで下さい! メンタル持ちませんよ!」


 酷い言われようである。

 事実を告げただけだというのに、まさかここまで言われるとは思っていなかった。


 とはいえ、マブロに不快な思いをさせてしまったのも事実。誠心誠意謝罪しなければならないだろう。


「すまない。単に、マブロが追い詰められているように見えたんだ。他意は無かった。どうか、謝罪を受け入れて欲しい」


 頭を下げてマブロの反応を待つ。


「……くっ⁉︎」


 マブロは動きを止めて、怒りで震えていた。

 しかし、その怒りの向け先は俺ではない。もっと別の、不確かな誰かに向けられているようだった。


「貴様に何が分かる‼︎ 優秀な兄と妹がいる貴様にっ⁉︎ くそっ‼︎」


 悪態を放ったマブロは、途中で失言に気付き悔しそうに去って行った。

 一体何があったのだろうか?


「マブロ君、滅茶苦茶荒れてたね。何かあったのかな?」


 同じことを思ったのか、ジールが尋ねて来る。


「何があったのかは知らないが、言ってくれたら相談くらい乗るのにな」


「それ、絶対本人の前で言わないでね。もっと怒らせるから」


 何故かジールに止められてしまう。

 どうやら俺が、誰かの相談に乗ると酷く怒らせてしまうと思われているようだ。

 それはとても心外だ。


「そんなことはない。ジール、試しに何か相談してみてくれ」


「え? じゃあ、友達が変わり者なんだけど、どうしたら分かってくれるかな?」


「それは良く対話をするべきだ。一人一人違う意思を持って生きている。ならば、違う考え方や結論に至るのは当然だ。その意思のすり合わせこそが、人が他者と交流を深め、理解し合える方法だ。ジール、そういう友人とは、しっかりと話し合えばきっと分かってくれるはずだ」


「おお……、なんかまともなこと言ってる気がする。でも、当の本人には届いてなさそう」


 どうやらジールの友人は、それほどまでに変わり者のようだ。

 そんな会話をしていると、ジールが先生に呼ばれる。


「ジール、職員室まで来てくれ」


「あっ、はい! じゃあ、行って来るよ。マブロ君と喧嘩しないようにね」


「ああ、喧嘩なんて一度もしたことないから安心しろ」


「……凄い不安」


 半眼で俺を見るジールは、再度促されて教室から出て行った。その直後に、アンドレア様がやって来る。


「ルーク、ジールはどんな様子?」


「これはアンドレア様。ジールは悩み事があるようですが、いつも通りです」


「そう、それならいいわ。戻って来たら、放課後私の所に来るよう伝えてくれない? 待ち合わせはそうね……リーナの研究室がいいかしら」


「ジールをですか?」


「ええそうよ。何か文句でもある?」


「いえ、ジールには伝えておきます」


 ジールは嫌がるだろうが、アンドレア様の頼みを無碍には出来ない。何の用事か知らないが、まあ悪い話ではないだろう。

 それにしても、リーナの研究室というのは何だろうか? もしや、この学園では有名な場所なのだろうか?

 今度、リーナに聞いておこう。


 戻って来たジールに伝言を伝えると、あからさまに嫌な顔をしていた。



   ◯



「アンドレア様、お呼びでしょうか?」


 ジールは、アンドレア・カーニバルの下を訪れていた。

 呼び出された場所には、アンドレアだけでなく学園始まって以来の天才、リーナ・ストロングがいた。


「ええ、待っていたわ。そこに座りなさい」


 促されて席に着くのだけれど、ジールはどうにも居心地が悪くて逃げ出したくなった。

 その理由は、リーナが不機嫌だからだ。


「あの、アンドレア様。せめて使う前には、連絡を入れていただけませんか?」


 えっ、無許可で使ってるの? まさかの状況にジールは戦々恐々とする。

 いくら研究室とはいえ、ここには女性しかいない空間。口枷の無い者が見れば、密会していたなどと噂を流されて、醜聞の類になってしまう。

 そうなれば、アンドレアもリーナも立場が無くなり、平民であるジールは秘密裏に始末される恐れがある。

 もちろん、反抗するし殺されるつもりも無いのだけれど、面倒な事態になるのは間違いない。

 というより、予め許可を取るのが常識ではないだろうか。


「いいじゃない、ここじゃないと他の人に聞かれそうなのよ」


「……私が聞いてもいい内容なのですか?」


「ええ、リーナなら構わないわ。むしろ、貴方にこそ聞いておいて欲しいのよ」


「そっ、それなら、僕は聞かない方が良さそうですね。ははっ……じゃあ、失礼します」


 絶対に面倒な話だと思い、ジールは席を立つ。

 本来の立場からしたら、絶対に聞かなければならないのだろう。だが、平民という偽りの身分である以上、厄介ごとに巻き込まれるのは悪手でしかなかった。

 情報なら、後で手に入れたらいい。


 だから去ろうとしたのだが、それは許されなかった。


「待ちなさい、帝国のスパイさん」


「……え?」


 何を言われたのか直ぐに理解出来なかった。きっと、和やかな日常に密偵としての感覚が鈍っていたのだろう。おかげで、即座に行動することが出来なかった。


「驚く必要は無いわ、カーニバル公爵家は情報を集めるのが得意なの。コーダイ帝国から何人紛れ込んでいるのか、全て把握済みよ」


「なっ⁉︎ 何をおっしゃっているんですか⁉︎ 僕がスパイ⁉︎ そんなわけ無いじゃないですか⁉︎」


 全力で否定するが、アンドレアは澄ました顔で動じた様子は無い。

 この情報が正解だと確信を持っているのだろう。


 ジールは何とか否定しようと、言葉を続ける。

 

「ぼっ、僕がスパイなら勇者パーティに選ばれるわけないじゃないですか⁉︎ 僕が嫌々加わったのだって、アンドレア様も知っているでしょう⁉︎」


「ええ、知っていて見逃したのよ。魔王という人類共通の敵を相手にするんだもの、帝国にだって負担してもらわないと不公平でしょう?」


「はっ? え?」


 驚き過ぎて言葉が出て来ない。そんなジールを無視して、アンドレアは言葉を続ける。


「ジール、リーナ、二人にお願いがあります。暴走するカーニバル公爵家を滅ぼして欲しい」


 その言葉は、余りにも衝撃だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ