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メノウ大会が終わると、勉強に集中した。
周囲は何やら騒がしかったが、気にせず勉強に取り組んだ。
その成果もあり、テスト結果は……。
「赤点だ。追試確定だこの野郎」
「……」
マグニル先生より答案用紙をもらい、点数を確認して行く。
空欄は無く、全て埋めているのだが、何故か赤でバッテンされていた。
これは、本当に俺の答案用紙なのだろうか?
名前は間違いなく俺の名前、空欄は無く、全て埋まっている。
字も俺の物で間違いはなく、ほぼ百パーセント俺の答案用紙だ。
「マグニル先生、俺は留年か?」
前回の試験の際は、成績が悪過ぎて留年の恐れがあると告げられた。
それは困る。もう一度二学年をやり直さなければならなくなる。最悪それでもいいのだけれど、果たして父上が許してくれるか……。
「……いや、それはない。メノウ大会での活躍が評価され、ストロングの進級は約束されている」
「そうか、ならば安心だ」
「ただし! それは騎士科に移動した場合だ。普通科のままでは、追試の点数次第では留年だ!」
「それは困る。俺は文官にならなければならないんだ。ならばその追試、受けて立とう」
「受けて立つなよ⁉︎ 回避する為に、みんな必死に勉強してんの!」
おかしいな、俺も必死に勉強しているのに、回避出来ていない。
もっと根本から見直さなければならないのかもしれない。
「失礼します」と退出すると、目の前には美しい少女が立っていた。
「リーナ……」
「兄様、また留年の危機ですか?」
「その通りだ」
はぁとリーナの口からため息が漏れる。
「分かりました。テスト範囲を教えて下さい」
「いや、今度こそ俺の力で乗り越えて見せる。手出しは無用だ」
「前回と同じことを言わせないで下さい。もし留年なんてしたら、父様から勘当されますよ。文官の道が途絶えてしまうんですよ、それでもいいんですか?」
減らず口はいいから、さっさと答案用紙を渡せとリーナの目が訴えて来る。
俺は渋々渡すと、代わりに封筒を貰った。
「今晩、動くようです。早目の掃除をお願いいたします」
俺は頷くと、封筒を受け取る。
内容を確認すると、炎を出して一瞬で燃やし尽くす。
そして、何事もなかったように教室に戻った。
◯
教室に戻ると、そこではある話題で持ちきりになっていた。
「誰が勇者の仲間に選ばれるのかな?」
「個人戦優勝したベルモット様は間違いないよね」
「同じチームだったミレイさんとアンドレア様はどうなんだろう?」
「強さだけじゃなくて、バランスでいうならアスト様も外せないよな」
「だったら回復役も必要だよね」
魔王からの宣戦布告を受けて、アメトラス王国ではセガール様に魔王討伐の任務が言い渡された。
魔王の討伐。
つまり、勇者となり仲間を率いて討てということだ。
「何だか盛り上がっているよね、ルークは立候補しないの?」
「しない、勉強で忙しいからな。そういうジールはどうなんだ?」
「僕? ないない、そもそもメノウ大会に参加もしてないのに、選ばれるはずないって」
「参加していたら、選ばれたんじゃないのか?」
「だから無いって。選ばれるんなら、ベルモットさんみたいに優秀な人とか、リーナさんみたいな次期ロイヤルガードって呼ばれている人だよ。それにさ、現役のロイヤルガードだっているんだし、わざわざ未熟な学生から選ばれないと思うよ」
確かにそうだ。
そうなのだが、その現役の騎士が、どう見てもジールより弱そうだったのだ。
あれで、本当に国王陛下を守れるのかと心配になるほどだった。
あの獅子王と呼ばれる老人や、王妃様がいなければ、護衛はいないんですか? と尋ねていたかもしれない。
それだけ弱かった。
いや、弱いのではなくて、俺達の世代に才能ある者が集まっていると考えるべきかもしれない。
魔王と戦う為に、この世界が計画していたのではないだろうか。
そう考えると納得がいく。
「ジール、やはり君は参加すべきだと思うぞ」
「だから、選ばれないって! あっ、もう、ルークが変なこと言うから、マブロに睨まれちゃったじゃないか」
言い掛かりだ。
マブロを見ると、取り巻き達と一緒になって俺達を睨んでいた。
何か用があるのだろうか? そう考えて、あることを思い出した。
俺はマブロに謝らなければならない。
ジールに断りを入れて、マブロの下に向かう。
相変わらず俺を睨むように見ており、とても怒っているようだ。
それも仕方ないだろう。何故なら、俺は約束を守れなかったのだから。
「すまない。君に赤点は取らないと誓ったのに、俺は再び赤点を取ってしまった。また君に恥をかかせてしまう結果になり、とても申し訳なく思う。次こそは、必ず赤点を回避して見せる。どうか、もう一度チャンスをもらえないだろうか?」
誠心誠意の謝罪。
この思いが通じたのか、マブロはドンッと机を叩いて立ち上がった。
「煽ってんのかテメー‼︎ 少し活躍したからって調子に乗ってんじゃねーぞ‼︎」
思いは通じても、怒りは治らなかったようだ。
胸ぐらを掴まれて、怒りをぶつけられる。
この感情は、俺も良く分かる。だから、思う存分ぶつけてもらって構わないと、俺は無抵抗を貫いた。
しかし、それはまずいと思ったのか、取り巻き二人が止めに入る。
「まずいですって⁉︎」
「これ以上は立場が悪くなりますよ⁉︎」
「離せーっ⁉︎⁉︎」
取り巻きから、あっち行けと手を振られてしまう。
どうやら俺は、マブロを怒らせただけのようだ。
「また、赤点だったんだ……」
席に着くと、ジールから呆れた声が届く。
「ああ、間違えた気はしなかったんだが、ほとんど間違えていた」
「そっか、量産型赤点の二つ名は伊達じゃないね」
「……次こそは返上する」
「勉強教えようか?」
「いや大丈夫だ、リーナが手伝ってくれると言っていたからな」
「またリーナさん……。ルークって良い妹持ったよね」
「ああ、自慢の妹だ」
リーナがいなければ、俺は今頃学園にはいなかっただろう。文官への道は閉ざされて、工芸の道に走っていたかもしれない。
ジールと雑談していると、教員がやって来て誰かを呼ぶ。
「アンドレア・カーニバル、それからジール、話がある着いて来てくれ」
呼ばれた当人のジールは、「えっ僕?」と困惑しているようだ。
それは他のクラスメイトも同じで、どうしてこの組み合わせなのかと疑問に思っているようだった。
二人は教員に着いて行くと、入れ替わるようにマグニル先生が入って来た。
ジールが戻って来たのは一限目を終えてからで、何故か頭を抱えていた。
「やばいって、やっちゃったよ僕……」
「どうかしたのか?」
「ルーク……」
「何で睨むんだ?」
「何でもない、ただルークが変なこと言い続けていたからかな」
「余計わからん?」
これから一ヶ月後、ジールが勇者パーティに選ばれたと発表があった。
◯
夜も更けて、闇が世界を飲み込む時間帯。
住処にしている建屋に帰ると、タンスの奥から黒い腕輪を取り出す。
それを右腕に通すと一言呟いた。
「装着」
忍者の姿となった俺は、使命を果たす為、行動を開始する。




