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脳筋忍者はシノビたい  作者: ハマ


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30/39

18

 この世界には神様がいる。

 世界は存在が確定すると同時に、最初の神様を創造した。

 それは巨大な黄金の龍で、すべての神様の原点になる存在だった。

 黄金の龍は神龍と呼ばれ、この世界に多くの生命を生み出した真の神様だった。


 神龍は、一千年掛けてマグマの大地を固めて大陸にした。

 大陸に水を通して、大地に生命が根付くよう作り替えた。

 大地が隆起して山になり、水が溜まって海が出来た。緑が溢れて生命の息吹を感じるようになり、やがて個別の意思を持った生物が生まれた。


 ここまでで、十万年という月日が過ぎた。


 これから先は、己の力が強過ぎて、生命に悪影響を与えると神龍は判断する。


 神龍は世界に別れを告げると、己の首を落とした。


 この世界が生み出した、最初にして最強の神はこうして死んだ。


 だが、ただ死んだわけではない。

 神龍の血肉から、新たな神々が生まれたのだ。

 中には悪神と呼ばれる神もいたが、皆が神龍の意思を引き継いだ存在だった。


 神々は様々な人種を生み出し、悪神は魔族や魔物を生み出した。


 良くも悪くも、互いの存在が双方を結束させて、コミュニティを作るようになる。


 人族は、神々より加護を与えられた者が指導者となり、集落から国へと発展させて行く。


 魔族と魔物は、悪神より生み出された魔王に従うよう、本能に刻まれてしまった。


 それが、この世界の生物の成り立ちだと言われている。




   ◯




 メノウ大会二日目。

 トーナメントは順調に進んでおり、チーム戦優勝候補であるセガール様のチームは着実に勝ち進んでいた。


 アンドレア様の魔術。

 ミレイの剣技。

 セガール様の武力と統率力。


 これらが噛み合い、他の参加者を寄せ付けない強さを発揮していた。


「なんだか、圧倒的だね。チーム編成にも驚くけど、こんなに連携が取れているというのも凄いよね」


 ジールが感心したように告げる。


「そうだな、この分ならセガール様達が優勝するだろう」


「だね、やっぱり持ってる人は違うね」


「持っている? 何の話だ?」


「いや、才能ってやつだよ。セガール殿下は生まれだけじゃなくて、勉学も武においても突出してるじゃない。アンドレア様もミレイさんも、どちらも才能に溢れているし、努力もしている。正直さ、羨ましいよね」


 そうジールは体育座りをしながら告げる。

 椅子の上でやるものではないぞ、そう注意しても意味は無いだろう。何故なら、さっきから何度も注意しているから。


「生まれはともかく、ジールだってあれくらい出来るんじゃないのか?」


「僕が? 無理無理、あんな天才達と一緒にしないでよ。あっ、言っておくけど、ルークもそっち側だからね。嫉妬の対象」


 無茶苦茶な言い分だ。

 本気で言ってはいないだろうが、ジールの中で燃えるような意思を感じる。それは、隣に置いてある槍が関係しているのかもしれない。


「試してみたいと思わないのか?」


「試すって……、ごめん、ちょっと気が立ってたかも……」


 ジールは普通に座り直すと、気まずそうにそうにしていた。


「いい、意外なジールの一面が見れて良かった」


「うわっ、婚約者がいる人の余裕だ⁉︎ 眩し過ぎて見ていられない⁉︎」


「余裕なんて無い。今もどうするべきか悩んでいるからな」


「急に暗くなったね。んー、それってミレイさんとの婚約の話だよね? 悩む必要なくない、あれだけみんなの前で宣言しちゃったんだしさ」


「ああ、そうだな。だが昨日、婚約破棄はミレイの為にはならないと言われたんだ」


「婚約破棄⁉︎ いや、確かに最初はそう言ってたけどさ、今更あれで婚約破棄はないって。男なら責任取んなきゃ……」


「責任? ……そうか、そうだな、責任は取るべきだ」


 婚約状態を維持しつつ、ミレイがロイヤルガードになれるようにサポートする。

 まずは、ロイヤルガードの実力がどれくらいなのか調べる必要があるな。もしも、リーナに匹敵する力が必要なら、ミレイにはいろいろと改造を施さなくてはならない。

 体内にある魔力回路の改善、筋組織の強化、脳への情報伝達向上なんかをすると、性格が変わってしまう恐れがあるから控えたい。やるなら、魔眼の移植。出来るならこれくらいで済ませておきたい。

 あまりやり過ぎると、寿命も縮めてしまうしな。

 それでもやりたいというのなら、止めはしないが……。

 一番いいのは、鍛えるくらいの領域で到達してくれることだ。


「あっ、あのルーク、よく聞こえないんだけど、なんか物騒なこと言ってない?」


「ジール、ロイヤルガードで最も強いのは誰だ?」


「えっ、それなら獅子王様じゃない? ほら、今も国王陛下の隣に立っているよ」


 指差す先には、昨日見た聖剣を持った老齢の男性がいた。


 そうか、ミレイでも届きそうだ。


 俺は安堵して、試合に目を向ける。

 そこでは、兄上が個人戦の優勝を決めるところだった。



   ◯



 魔王は魔族と魔物に命令出来るが、魔族は魔物に命令出来ない。

 ただ、魔術により強制的に従わせることは出来る。

 その代わり、魔物は暴れるだけの獣になり、力尽きると同時に死んでしまう。そんな非道な魔術だ。


 変化は突然だった。


 空が紫に染まり、夥しい魔力が学園がある街全体に充満した。


 トーナメントはチーム戦決勝戦が行われており、セガール様率いるチームと三学年騎士科のチームが白熱した試合を繰り広げていた。だが今は、異常事態に双方動きを止めて、何が起きているのかと様子を伺っている。


 観覧していた人達も、何事かと不安になっていた。


 そんな中で、一人の老人が闘技場の中央に歩いて行く。


 見た目は老人ではあるが頭部にツノが生えており、右手には宝飾された大きな杖が握られ、弧を描いた目はここにいる人間を見下しているようだった。


 その存在に狼狽したのは、戦っていた三学年の騎士科の生徒。


「魔族っ⁉︎」


「うるさいぞ人間、これから私が話すんだ。潰れろ」


 魔力が生徒を掴み、そのまま握り潰そうとする。

 しかし、セガール様が間に入り、魔力を叩き斬って生徒を救出した。


「皆距離を取れ! 攻撃っぐっ⁉︎」


「殿下⁉︎」


 セガール様は、魔族から目を離したわずかな瞬間に、魔力による打撃を受けてしまった。

 ギリギリで剣を合わせたようだが、威力が凄まじく弾き飛ばされてしまう。


「うるさいと言ったんだ。静かにしろ」


 口の前に人差し指を立てて、シーッと言い聞かせるように告げる。

 次に喋れば、必ず殺すという強い意思を、この場の全員が読み取ったようだった。


「うおっほん! 我は、偉大にして至高なる魔王アスモデウス様の配下にして四天王が一人、魔改のスカルビカンテである! 貴様ら猿どもに大切な知らせがあって来た! その耳かっぽじってよく聞けぇ! 我が主、魔王アスモデウス様が復活なされた! これより、猿どもをに対し宣戦布告を宣言する!」


 スカルビカンテが告げると、会場は騒めき始める。

 それが気に入らなかったのか、スカルビカンテは杖で地面を叩いた。


「黙れぇーーーーっ‼︎‼︎ 私の話が終わって! ないだろうが! 話は最後まで聞けぇーーーーっ‼︎‼︎」


 ガンガンと地面叩く度に、地面が割れて行く。

 老人の姿であっても、魔族は魔族。

 人族よりも強力な個体であるのに代わりはない。

 それに、スカルビカンテの能力も不明だ。無闇に飛び込めば何も出来ずに殺されるだろう。


 そんな魔族に挑む人がいた。


「まったくこれだから猿は嫌いなんだ、ん?」


 聖剣を持った老人、獅子王がスカルビカンテを強襲する。


 瞬きする間に放たれる一閃には一切の無駄がなく、どれだけの年月を掛けて鍛え上げた物か教えてくれる。


 その一閃をスカルビカンテは何でもないように杖で受け、体が宙に浮いてしまう。

 攻撃は受けれても、その勢いまで殺すことが出来なかったのだ。


「なんともまあ……」


 スカルビカンテは勢いに逆らわずに飛ばされ、空中で一回転して着地する。

 そこに追撃を仕掛ける獅子王。

 聖剣が煌めき、スカルビカンテの体を薄く傷付けて行く。


「野蛮な猿がいたものだ」


 しかし、スカルビカンテは平然としており、魔力を用いた不可視の打撃により獅子王を引かせる。


「……この技は以前見たことがある。魔力による具現化だな、古い戦い方だ。弱点が多く廃れたはずだが、魔族では時代遅れの戦い方が流行ってるいるのか?」


 獅子王は聖剣を操り、切先をスカルビカンテに向ける。

 打撃によるダメージは無いようで、動きに違和感は見られない。


「猿はこれだから分かっていない。弱点? そんな物……あるわけないだろうが! いつの時代の話してんだ猿が! ああー‼︎ くそぉ! 猿と話してしまった! クソクソクソクソクソクソクソックソーーーーッ‼︎‼︎」


 激昂するスカルビカンテは再び杖で地面を叩き始める。

 何度も何度も何度も何度も地面を叩く。

 一見隙だらけに見える姿。だが、獅子王は踏み込まない。


 ここでの獅子王の役割は、王族を逃す為の時間を稼ぐこと。

 セガール様を救い、国王陛下と王妃様を脱出させる。その為に、四天王に挑んでいる。


 だが、その狙いは今の動きで悟られてしまった。


「……どうして攻めて来なかった? ああ〜、あそこのダッサイお山の大将を逃す為か」


 スカルビカンテは、国王陛下がいる建物に向かって手を伸ばす。


「っ⁉︎ やめろーーーっ!!!」


 不可視の力は建物を包み込み、その性質を変えて爆発した。


 観客席から悲鳴が上がり、今頃になって逃げ出そうとする人達。

 余りにも遅い反応だが、それも仕方ない。

 ここにいる人達は、魔族が攻めて来るなんて考えていなかった。突然の出来事に、頭が追い付かなかったのだろう。


「ルーク! 僕達も逃げよう!」


 ジールが立ち上がり促すが、今出入り口に向かってもパニックになった群衆に巻き込まれて危険だ。


「待つんだジール、今行っても逃げられない。こういう時こそ、落ち着いて行動するんだ」


「いやいや⁉︎ いくら何でも呑気過ぎない⁉︎ 国王陛下も殺されちゃったんだよ⁉︎ 絶対ヤバいって⁉︎」


「そんなことはない。ほら、建物は無事だ」


「え?」


 爆発したはずの建物は、無傷の状態でそこにあった。

 建物の周りには強力な結界が張られており、あの程度の爆発では綻び一つ入ることはない。


「それと、あまり騒がない方がいい。あいつに目を付けられるぞ」


「え?」


 闘技場にいるスカルビカンテを指差すと、獅子王の相手をしながら激昂する姿があった。


「はあーーーーっ⁉︎⁉︎ 猿ごときに止められたぁ⁉︎ ふざけるな! ふざけるな! ふざけるなぁーーーっ‼︎‼︎」


 不快な声を上げながら、スカルビカンテの力は周囲に伸びる。

 特に人が殺到している場所に向かっており、幾つもの爆発が同時に巻き起こる。


 爆発の威力が凄まじく、強烈な衝撃が闘技場を駆け抜ける。


 だが、それだけだった。


 爆発では誰も傷付いていないし、建物も傷ひとつ付いていない。


 結界は建物だけでなく、闘技場全体を覆っていたのだ。


 これをやったのはリーナ。

 今は王妃様の隣に何でもないように座り、紅茶を飲んでいる。


 リーナは、魔族が誰かを狙っていると言っていた。

 スカルビカンテにはそんな様子は無いが、どうなのだろうか?

 もしかして、別働隊がいて動いているのだろうか?

 あれだけ派手に演出しているのだから、その可能性は高そうだ。


 その成果もあって、闘技場では獅子王に加えて人形も参加し、セガール様達や兄上まで参戦するようだった。

 残念ながら、それだけの戦力を揃えてもスカルビカンテには勝てない。全力を出させることも出来ないだろう。


「……ルーク、もしかしてミレイさんを助けに行くつもり?」


 俺が闘技場を眺めていると、ジールが尋ねて来る。


「いや、俺は……」


 やっていいのなら、さっさとスカルビカンテを倒したい。

 だが、リーナから止められている。

 もし俺が邪魔をすれば、後になって多くの被害を出してしまうかも知れない。

 悪を挫くのは俺の使命ではあるが、多くを救うリーナの使命を邪魔する気は無い。


 ジールの問い掛けに言葉を濁していると、スカルビカンテの魔力が膨れ上がる。


「群れることしか脳の無い猿め! 大勢で老人を苛めやがって! 猿め!猿め!猿め! 私にもなぁ、仲間はいるんだぞぉーーーーッ!!!!!!」


 街に充満していた魔力が動き始め、膨大な量の魔法陣が空中に描かれる。

 それは闘技場だけでなく、学園を超えて街中に発生していた。


 魔法陣が発光すると、そこから魔物が姿を現す。


 魔法陣の数だけの魔物が、一斉に動き出し人々を襲う。

 闘技場から逃げた人、逃げられなかった人、戦いに心得のある人、無い人、何も知らずに生活していた人、全て平等に襲われる。


「……」


 多くの悲鳴が上がる中で、俺は立ち尽くしていた。


「グルルッ……」


 目の前にいるのは、いつか見た四本腕の大きな猿の魔物だった。

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