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半蔵さんは、僕達の師匠となり、いろんな事を教えてくれた。
風がどうして吹くのか、水がどうして凍るのか、どうして体調を崩すのか、魔術とは何なのか、効率の良い体の動かし方から、様々な武器の扱い方とか、なんでも教えてくれた。
そして、不思議な物語りもたくさんしてくれた。
「おお、ルークは忍者の話が好きだな」
「はい、人知れず戦う姿には、とても感動させられました」
「感動する要素あるか? まあいいや。力を隠すって点で見れば、忍者になるのも悪くはないのかもな……」
「ニンジャになれるんですか⁉︎」
「いや、なれるって言うか、成り切るかなぁ……。一応、それらしい訓練はしてやれるが、結局魔術とか魔法になる。ああ、あとルークが力を使う条件も決めておこう」
「力を使ってもいいんですか?」
「あるんだから、どっかで使わなきゃ損だろ」
「でもどこで? 師匠が教えてくれるんですか?」
「勘違いするな、俺が教えるのは、あくまで力の制御の仕方だ。お前の自由意志まで奪うつもりはない。とはいえ、ルークの力は国を滅ぼせるくらい強いからな、はっきり言って災害レベルだ。なら、ルールを決めておこう。……そうだな、忍者の格好をしている時なら力を使っていいようにしよう。その方がテンション上がるだろ?」
「ニンジャの格好? 自分で作るんですか?」
「いや、俺がプレゼントしてやる。これを使うからには、正体は隠し通せよ。正体がバレちゃ、忍者失格だからな。他には……」
師匠は次々とルールを決めて行く。
自由意志を尊重するとか言っているけど、ほとんど師匠が決めてしまった。
◯
どこの世界にも、奪う事を生業にする奴はいる。
暴力を使って他者を脅し金品を奪い取る。それは人がいる町中でも、町を繋ぐ道でも、魔物が生息する森の中にも存在している。
「ギャハハ‼︎ やめれんねーな‼︎」
「助けてください〜、って命乞いしてたのにひでぇよなぁ」
「お前が殺したんだろ?」
「あっそうだった」
魔物が生息している森の中で、男達が酒盛りをしている。
彼らは森を通る商人を襲う盗賊であり、この辺りを牛耳っているバハナ盗賊団の一員である。
強奪の成果なのか、近くには積荷を乗せた馬車が停まっており、所々血が付着していた。
「なあ、あのニッ」
「あっ? 何だって?」
一緒に酒盛りをしていた仲間を見ると、頭が無くなっていた。
それを見ながらグビッと酒を飲む。
現実味の無い光景に、脳が理解するのに時間を要したのだ。
血が噴き出て辺りを汚す。その光景を見ていた盗賊達は、即座に武器を手に取り立ち上がる。
「おおーーっ⁉︎ 魔物か⁉︎」
「どこからだ⁉︎」
「ここには強い魔物は出ないはずだろう⁉︎」
「……待て、なんか少なくないか?」
彼らは十人一チームで活動する盗賊である。なのに、今立っているのは四人だけだった。
何かがおかしい。
襲って来たのが魔物なら、姿を現しているはずだ。
虫の声が聞こえなくなり、無音の世界が場を支配する。
そんな中で、ピチャリピャリと水の滴る音が嫌に響く。
「悪党の血が赤いというのは、何とも皮肉だと思わないか?」
暗闇から姿を現したのは、闇よりも黒い衣装を身に纏った化け物。
右手には、仲間の頭部が握られており、歩いている道を失った血液が汚していた。
「っ⁉︎」
見ただけで分かる圧倒的な強者。
勝つのは無理、逃げるのも無理。
選択肢は命乞いだけ。
「まっ⁉︎ 待っ」
声が突然途切れる。
交渉しようと声を上げると、頭部が消失したのだ。
「お前達に選択肢は無い。これまでの悪事、後悔しながら黄泉を渡れ」
闇が動き出し、盗賊達は何も出来ずに飲み込まれた。
◯
バハナ盗賊団の元締めは、ウラギ男爵である。
鍛えた盗賊を各地に派遣して、利益を得ていた。
裏金を渡して、その地の兵士を買収。盗賊活動を見逃すよう働き掛けていた。
「ちっ、最近上がりが少なくなってるな。失踪した奴らも多い。このままじゃ、上に示しが付かん。範囲を拡大するか?」
ウラギ男爵は地図を広げて睨めっこする。
東側に勢力を寄せていたが、中央まで伸ばしてもいいかもしれない。同盟の領主に許可をもらい、通過させてもらうのもいいだろう。西まで伸ばすと独立する奴らが現れるかもしれない。それは回避したいところだが、成果が少なくなっている以上、選択肢には入れておくべきだ。
「いや、それよりも隣国に渡らせても……」
戦争の火種になりかねない行為だが、どうせ戦火が上がる国ならそれもいいかもしれないと考えてしまう。
「よし、コーダイ帝国まで拡大を……なんだ?」
突然、窓が開く。
夜風が忍び込んで来て、異常事態を知らせる。
ウラギ男爵は立ち上がり、護衛の兵士に知らせようとするが、全て手遅れだった。
「ウラギ男爵だな?」
「なっ⁉︎ 何者だ⁉︎」
「陰に名などない。が、あえて名乗るなら、忍とでも覚えておくといい」
「シノビ? 何しに来た、金目の物ならここには無いぞ……」
「必要無い。なあ、お前は夜は好きか?」
シノビと名乗った男は、ウラギ男爵から視線を外して外を眺める。
それを隙と見たウラギ男爵は逃げ出そうとするが、踏み出した足が突然消失した。
「あがっ⁉︎ 足がっ⁉︎」
「俺は夜が嫌いだ、お前達みたいな奴らを隠してしまうからな。おかげで、更に深く闇に染まらなくてはならなくなった」
シノビはどこからか剣を取り出すと、倒れたウラギ男爵に近付いて行く。
「くっ来るな! くるなーーーーっ⁉︎⁉︎」
「己の罪を後悔しながら逝け」
首が落ちる。
悲鳴を聞き付けた兵士が、男爵の部屋に突入するが、そこには何も残されていなかった。
◯
盗賊の居場所を全て巡り、駆除した。
前々から、盗賊の数が増えていたから気になっていたが、まさか貴族が裏で糸を引いているとは思わなかった。
リーナが調べてくれなければ、被害は拡大していただろう。
ある大きな屋敷に到着すると、リーナが待っていた。
「お疲れ様でした」
「ああ、全て終わらせておいた。あとは任せてもいいか?」
「……良くはないですね。その檻に入っている物は何ですか?」
リーナが指し示すのは、屋敷の前に置いてある檻だ。
中には人が入っており、奴隷の魔術が施された焼印が見られる。
「盗賊を始末した時に見つけたんだ。お土産にと思ってな」
そう告げると、リーナは大きなため息を吐いた。
「はぁ〜、いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも言っているではありませんか、無闇に拾って来ないで下さいって‼︎」
これで何度目ですか⁉︎ と怒るリーナに、十回目くらいか? と答える。
「八十二回目です! いい加減にして下さい! 捕まっている場合、大抵表に出せない人達なんですよ!」
「すまない……」
そうは言っても、助けなかった場合でもリーナは怒る。
前に放置した時は、リーナ自ら救いに行っていたこともある。
結局のところ、こうなるのは必然なんだ。
「助けるなとは言いませんが、連れて来るのではなく解放に留めておいて下さい」
「……今後はそうする」
その手があったなと、俺は学んだ。
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師匠ルール
1.悪者は殺してよし。
2.仲間は大切に。
3.正体は隠せ。
4.力を使うのは忍び装束の時のみ。
5.苦手分野で頑張ろう。
6.困っている人は、余裕があったら助けよう。
7.リーナの言うことは聞くこと。
8.リーナは守ること。
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J.自分の意思で動こう。




