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脳筋忍者はシノビたい  作者: ハマ


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2

 アメトラス王国にはメノウ王立学園という、将来有望な若者を集めて教育する場所がある。


 このメノウ王立学園には貴族の子息だけでなく、他国からの留学生や平民も通っており、一千人を超える学生が在籍していた。

 過去には、魔王を倒した勇者アレスや救国の英雄と呼ばれるドミニク、聖女と呼ばれるナミミナなどを排出しており、とても権威ある格式高い学園でもある。


 そんな偉大な学園に通っている俺は、ルーク・ストロング。

 アメトラス王国のストロング伯爵家の者だ。


 残念ながら嫡男ではなく、妾の子である。


 そんな俺は、いつも通り職員室に呼び出されていた。


「ルーク・ストロング、呼び出された理由は分かっているな?」


「はいマグニル先生、先のテスト結果に付いてですね」


「そうだルーク・ストロング。昨年は奇跡的に進級出来たようだが、次はそうもいかんぞ。全教科赤点では留年確定だ。……お前、ちゃんと勉強してんのか?」


 途中まで真剣だったマグニル先生は、俺の答案用紙を見て素が出てしまっている。


「はいマグニル先生、俺は常に全力で勉強して挑んでいる。勉強の時間だけなら、そこらの学生には負けていない」


「いや、そうなんだろうけどな。一学年から見て来たから知っているけどな、どうして赤点になるんだ? ちゃんと問題解けていたじゃないか?」


「それは俺も知りたい」


 眼鏡をクイッと上げてそう主張すると、マグニル先生は呆れたような顔をしていた。


「まあいい。良くはないが、こればかりはどうしようもないからな。来週追試を行う、もしまた赤点を取れば留年になるぞ。分かったら全力でやるように」


「了解だマグニル先生、これまで通り全力で挑もう」


「これまで通りじゃ駄目なんだよ。やり方を変えろ! 丸暗記するくらい教科書を頭に叩き込め! 分かったか⁉︎」


 俺は頷いて肯定する。

 疲れた表情のマグニル先生は、椅子にドカリと座ってもう行っていいと手を振る。

 頭を下げて一礼すると、俺は職員室を出た。


 扉を開いて出ると、そこには一人の女子生徒が立っていた。

 美しい金糸の髪を腰まで伸ばしており、無表情ではあるが整った顔立ちをしている。意思の強い紫色の瞳が、真っ直ぐに俺を見つめていた。


「兄様、また留年の危機ですか?」


「リーナ、その通りだ」


 彼女の名はリーナ・ストロング。

 俺と血の繋がった妹である。


 リーナはメノウ王立学園の魔術科に所属しており、とても優秀な成績を収めている。他にも剣術を嗜んでいて、俺から見ても中々の腕前である。


「分かりました。テスト範囲を教えていただけませんか?」


「いや、今回は俺の力でやる。リーナは手出し無用だ」


 そう進言するのだが、リーナはぐいっと近付いて来て、美しい笑みを浮かべる。


「それで合格出来ると思っているんですか? 早く教えて下さらなければ、兄様は留年、最悪退学の上伯爵家追放だってありえるんですよ」


 だからさっさと教えろ。そうリーナの目が脅して来る。

 俺は渋々赤点の答案用紙を渡す。

 リーナは受け取ると、お返しに封筒を差し出した。


「例の場所が判明しました。あとはお任せします」


 俺は頷くと、封筒を受け取った。


 中身を即座に確認すると、炎を出して一瞬で燃やし尽くす。

 そして、何事もなかったように教室に戻った。



 メノウ王立学園には四つの学科がある。

 まずは普通科、七教科に加えて魔術も剣術も学ぶ。卒業すると、主に文官になることが多い。

 次に魔術科、文字通り魔術の習得、開発を行っている。その中でも優秀な成績を収めた者は賢者の称号が与えられ、身分関係なく王国の中枢に入り込める。

 次に騎士科、アメトラス王国軍のエリートを養成する学科である。剣技を学び、槍術を学び、戦術を学び、魔術も学ぶ、そんな志しが高い人達が集う場所でもある。

 最後に特別科。先の三つとは異なり、普通とは違う才能を持った人達の集まりである。先に述べた偉人も、この学科から排出されている。


 そして俺の学科は、普通科だ。

 将来文官になる為、日々勉強に勤しんでいる。


「よう、落ちこぼれルーク。退学でも言い渡されたか?」


 教室に入って、早速声を掛けて来たのは、同級生のアブロ・マンドラだ。マンドラ伯爵家の嫡男で、取り巻きを連れており、何が面白いのかニタニタと笑っていた。


「いや、まだ留年は言い渡されていない。追試で合格点を取れば、まだここにいていいそうだ」


 淡々と返すと、マブロは怒りの表情を浮かべていた。


「おい、落ちこぼれ。テメーみたいなのがいると目障りなんだよ! 無能な奴と並べられるこっちの身にもなれよ。テメーがいるだけで、俺達の価値が下がんだよ‼︎」


 どうやらマブロは、とても怒っているようだ。

 顎に手をやり、言葉の意味を考えてみる。

 正直、勉強が出来ないのは否定しようがない。俺が目障りだというのは、それは個人によるもので何ともいえない。しかし、俺がいるから誰かの評価が下がるというのは初耳だ。そうか、それは悪いことをしてしまった。


 俺は九十度の礼を持って謝罪する。


「申し訳ない。まさか、君がそこまで不利益を被っているとは思わなかった。次こそは、合格点に達して見せる。どうか許してもらえないだろうか?」


「……ちっ、腰抜けが。行くぞ」


 去っていくマブロ達。

 彼らが通り過ぎると、俺は頭を上げる。

 すると正面には、別の人物が立っていた。


「ねえ、あんなに言われて悔しくないの?」


「アンドレア様……」


 銀色の髪を持つ美しい女性、アンドレア・カーニバル。

 カーニバル公爵家の息女で、いずれ身内になる女性でもある。


「様はいらないわ。それより、どうして頭を下げたの? あんなの言い掛かりだって分かってたでしょう?」


「言い掛かり?」


「……分かってなかったのね。まったく、しっかりしなさい。そんなんじゃベルモット様に迷惑が掛かるわ」


「申し訳ない」


 ベルモットは、俺の兄である。

 ストロング伯爵家の嫡男であり、いずれストロング伯爵家を継ぐ人だ。とても優秀で見目も良く、かなり人気だとリーナから聞いた覚えがある。


「そんなんじゃ、ベルモット様の補佐官は務まりませんよ」


「精進します」


 再び頭を下げる。

 俺の目標は、今アンドレア様が述べた通りだ。

 文官として経験を積み、兄の補佐官になる。

 それを知って、将来義姉になるアンドレア様は叱咤激励をしてくれている。


 アンドレアから離れて席に着くと、隣の友人から話し掛けられた。


「見てたよ、大変だったね」


 緑色の髪で人懐っこい笑みを浮かべている彼はジールと言い、身分は平民である。優秀な成績を収めており、特待生として受け入れられている。


「そうでもない、どちらも俺を思っての言葉だろう」


「えー……そっ、そうだね。ルークって変わってるって言われない?」


「よく言われるな、昨日もマグニル先生に言われたよ」


「そうだったんだ……。勉強、教えようか?」


「いや大丈夫だ、リーナが手伝ってくれると言っていたからな」


「リーナさんって、ルークの妹だよね? 凄い人気だよね」


「そうなのか?」


「うん、魔術科始まって以来の天才だって言われているし、あの美貌でしょ? 滅茶苦茶人気あるんだよ」


「美貌……」


 魔術は分かるが、美貌と言われてもピンと来なかった。


 午後の講義が始まり、一日が過ぎて行く。

 必死にノートを取り、頭の中に叩き込んで行く。少なくとも今は理解しているし、問題も解けている。この調子で勉強をすれば、赤点を取ることはないだろう。


 学園の授業が終わると、借りている部屋に戻る。学園には寮が存在しているが、金に余裕の無い家や平民が入っている為、俺は入寮出来なかった。


 外に借りた部屋は、残念ながら良い環境とは言えない。

 隙間風は入って来るし、熱い季節になると虫が湧いて来る。修繕すればいいのだが、別に必要ないと放置している。


 俺はタンスの奥から、黒い腕輪を取り出すと右腕に装着、そして魔力を流す。すると、黒い液体が流れ出し俺を飲み込んでしまう。

 液体は纏わりつくと、形を整えていき俺の姿を完全に隠す。


 黒一色の姿。

 顔を隠し、体を隠し、足を隠す。

 ルーク・ストロングという存在そ覆い隠した姿は、まるで忍者のように見えるだろう。


 忍者。師匠が教えてくれた最高の存在。


「さて、行くか」


 俺は使命を真っ当する為、姿を消した。

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