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決闘が終わり、観客席に戻ろうとしたらリーナに捕まった。
わざわざ人払いの魔術まで使われており、緊急の用事なのかもしれない。
「兄様、何ですかあの戦いよう。私言いましたよね、負けて下さいって」
「しっかりと負けただろう、アストからもしっかりと要求されたしな」
「あの内容で、兄様が負けたと思う人はいません! 目立つなと言ったのに、よりにもよってこのタイミングとは……」
「決闘をこの日にしたのはリーナだろう?」
「そうですね、その通りです。兄様が普通に負けてくれたら、それでよかったのです。まさか、あそこまで圧倒するとは……。一体何があったんです?」
何がと言われても困るな。
とりあえず、リーナに加えて、ミレイと兄上に言われた要求に従った結果だと告げておく。
「はぁ〜、全てを採用すれば、ああもなりますね。兄様、前にも言いましたが、ロイヤルガードには忍者の正体を見抜く力を持った方がいます。その方は、このメノウ大会を観覧しておりますので、くれぐれもご注意下さい」
「大丈夫だ、対策はしっかりしている」
「……その対策、とても不安なのですが、どのような物かお聞きしても?」
「覗き見に対するカウンターを仕掛けた。もし覗けば、そいつは爆発四散する」
「今直ぐ解除して下さい! それは危険過ぎます!」
「安心しろ、忍び装束に施しているだけで、俺自身には何も無い」
そんなことすれば、今頃会場中死体だらけだからな。
「それでもです! 明日までに、解除しておいて下さいね!」
「何を焦る必要がある。明日、忍び装束になる必要でもあるのか?」
「場合によっては……。不確定な情報ですが、魔族が攻めて来る恐れがあります。可能な限りこちらで対処しますが、不測の事態が発生するやもしれません」
「魔族がまた来るのか、前回はドラゴンだったな。一体、何をしに来るんだ?」
「魔王の憑代を捕まえる為です。魔族がどなたを狙っているのかまでは、はっきりとしません。一応、めぼしい方はいるのですが、誰もが決定に欠けます」
「……それは、本当に来るのか? 」
「かなりの確率で来ると予想しております。魔族がどなたを狙っているのか、それが判明するまで手出しは厳禁でお願いします」
「ああ、了解した」
どうやら明日は、忍び装束を準備しておいた方が良さそうだ。
それとは別に、一つ聞いておきたいことがあるのを思い出した。
「そういえば、教員用の席に座っていたようだが、何かあったのか?」
「あら、言っていませんでしたか? 生徒ではありますが、教員としても皆さんに魔術を教えております。これでも、分かりやすいと評判なんですよ」
胸を張って自慢するリーナ。
そんな妹に、
「そうか」
とだけ返しておいた。
◯
観客席に戻ると、皆から拍手で出迎えられ、ジールから労われた。
「お疲れ様、凄かったね。怪我とかないの?」
「ああ、怪我する前に負けたからな」
「普通、怪我して動けなくなるから負けを認めるんだよ」
「無事に帰って来ると約束したからな」
「へー、誰と?」
「ミレイだ」
そう告げると、ジールだけでなく、周囲の人達から「おお〜」「男や」「愛されてるね」「愛だ、愛」なんて言葉が飛んで来た。
「急に仲が良くなったよね、アスト様にも認められちゃったし」
「そうだな。あのようなお願いのされかたをしては、俺も全力を出すしかない。まずは、父上と話さなくては……」
「お父さん? ああ、そうだよね、いろいろと融通利かせてもらわないといけないもんね」
「うん? んー……ん? ……いや、確かにそうだな、いろいろと気を遣わせてしまうだろうな」
まずはミレイとの婚約破棄だ。
ミレイはロイヤルガードになるのが目標だと言っていた。
それを邪魔する出来事は、早めに排除しておいた方がいいだろう。
彼女の願いを叶える。これこそがミレイにとって最も幸せなことなのだから。
『それでは、これよりメノウ大会を開催いたします。第一試合の選手は、入場して下さい』
ナレーションが流れると、闘技場に個人戦、チーム戦の選手が入場する。
個人戦の先頭にいるのは兄上。
チーム戦の先頭にいるのはセガール殿下となっている。セガール殿下の背後には、アンドレア様とミレイがいる。まさか、この三名で出場するとは思わなかった。
「あっ、試合が始まるみたい。アンドレア様、緊張してるね」
「初戦で優勝候補を持って来たか。これは、会場を湧かせる為か?」
「そうだろうけど、今回は裏目に出ちゃったね。もう期待値が上がり過ぎて、選手達のプレッシャーになってるよ」
確かに、普段とやや違う気がする。
ただ、緊張しているのはアンドレア様だけで、他の選手達はやる気に満ちていた。その顔立ちから、俺達もやってやろうという気概を感じる。
因みに、兄上の態度は変わっていない。
第一試合が開始された。
初戦というのもあり、互いに様子見をしながらの試合になるかと思ったが、そうはならなかった。
「うわー、派手に行ったねー……」
チーム戦では、アンドレア様の先制魔術から始まり、セガール様とミレイによる追撃であっという間に倒してしまった。
言っておくが、相手が劣っていたわけではない。
場を盛り上げる為というのもあり、相応の実力者が当てられていた。
それでも、セガール様が率いるチームが強かったのだ。
「ベルモットさんも容赦ないね」
「そうだな」
そして、兄上も圧倒的な実力差で勝利していた。
第一試合が終わると、観客は席を立ちバラバラに散って行く。
会場はここだけではなく、学園の各所で行われる。身内や仲の良い選手の応援に向かうのだろう。
「あれ? ルークどこ行くの?」
「少し、父上のところにな」
これからのことを話しておかなくてはならない。
ただ、会って話をしてくれるかは不明だ。兄上は俺に対して普通に接してくれるが、父上は少し気難しいところがある。
リーナがいてくれたら円滑に話は纏まるのだが、俺だけではそれも難しいだろう。
「そっか、行ってらっしゃい。空気読むようにね」
「それは難しいが行って来る。ああそうだ、ジール明日は念の為に武器を持って来ておけ」
「えっ? 何急に、怖いんだけど」
「念の為だ。そこまで気にする必要は無い」
あくまでも、リーナによる情報。
不確かな情報ではあるが、リーナが言うことは大体当たる。
不安なのは、魔族の対処はリーナ達すると言っていたが、被害を出さないとは言っていなかった点だろう。
魔王の復活もあり、危機感を煽る為に、ある程度の被害を許容している恐れもある。
リーナならそれくらいする。生きるに値する者を見極める。ならば、価値を示す為に、戦わなくてはならない。
明日は、皆が他人事ではいられなくなる事態が巻き起こる。
そんな予感がした。
◯
来賓の方々は、観客席とは違うVIPルームに案内されていた。
いつもなら誰でも入れる場所も、メノウ大会の期間中は、招待された人物しか入室出来ないようになっている。
「オスカルド・ストロングの子、ルーク・ストロングだ。通してくれないか?」
「ダメだ、許可証の無い者は通せない」
「ならば、オスカルド・ストロングを呼んでくれ、外で話がしたい」
「それは出来んな、帰れ帰れ」
しっしっと手を振り追い払われる。
扉の前に立っているのは、学園の生徒や教師ではなく、国を守る正真正銘の騎士だ。
その職務を考えれば、俺を追い返すのは分からないでもないが、もう少し融通を利かせてもらえないだろうか。
「そこを頼む。話しておきたいことがあるんだ」
「後ですればいいだろう。ここには国王陛下や王族の方もいらっしゃる、お前の要望に応えることは出来ん」
どうやら、正面からでは対応してもらえないようだ。
ならばここは、こっそりと忍び込むとしよう。
何も入り口はここだけではない。他にも二箇所の扉と、天井というルートがある。
このどれかから侵入すればいい。
そう考えていたが、背後からやって来た人物に遮られた。
「あら、あなたはサモントと戦っていた人ね?」
振り返ると同時に、俺は片膝を突き首を垂れる。
「王妃様、お初にお目に掛かります。オスカルド・ストロングの子、ルーク・ストロングに御座います」
そこにいたのは、マリーベル・アメトラス。
この国の王妃様である。
王妃様は、多くの人を引き連れており、これからVIPルームに入るのだろう。
「頭を上げなさい、この場では必要ないわ。何やら揉めていたようだけど、何かあったの?」
「はっ、父上と話がしたく参ったのですが、入室許可証を持っておらず困っていた所でした」
「そうなの……。あなた、リーナ・ストロングの実の兄よね?」
「はい」
「いいわ、私が許可します。この方を入れて差し上げて」
王妃様がそう言うと、「はっ!」と騎士は反応して扉を開けてくれた。
「私もあなたには興味があるの。ストロング卿に用事が終わったら、私の所に来なさい」
「はい」
王妃様の興味は、俺には無い。
俺に近しい誰かに、その視線が向けられている気がする。
十中八九リーナだろうが、一体何をしたのだろうか。
まあ、そんなのはどうでもいい。今は父上だ。




