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脳筋忍者はシノビたい  作者: ハマ


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15

 ジールは観客席から、友人の戦う姿を見ていた。

 他の観客も、喋るのを忘れて闘技場で繰り広げられる決闘に見入っている。


 多くの召喚獣を使役するアスト・サモント。

 サラマンダー、シルフィード、ノーム、ウンディーネ。そのどれもが強力な召喚獣で、使う攻撃は全て上級魔術レベル。

 一軍を相手にしても戦える戦力を持っており、普通に考えたら勝てるはずのない相手だ。


「ルーク……凄い」


 それなのに友人は戦い続けており、召喚獣を次々と撃破して行く。


 特別に優れた身体能力は持っていない。

 使う魔術も下級だけ。

 騎士科になら、いくらでもいるようなスペック。

 いや、それ以上なんてゴロゴロいる。

 だが、召喚獣を倒せるかというと、そう簡単な話ではない。


 ルークは『騎士科の人達なら同じことが出来る』そう言っていたが、それは間違いだ。


 圧倒的な存在である召喚獣を前にして、大抵の人は全力を出せない。

 広範囲の攻撃を目の前にして、避けようなんて考えない。

 召喚獣の弱点を見抜いて、的確に攻撃など加えられない。


 神がかった状況判断能力。

 普通のスペックしか持たない彼は、それを武器に戦い続けていた。


 ジールは考える。


 これと同じことが、僕には出来るか?


 その回答は『出来る』だった。


 コーダイ帝国で幼い頃からスパイとして育てられており、戦闘技術なら誰にも負けない自信がある。

 状況判断能力も優秀で、今のルーク以上に戦えるという自負はある。


 だが、


「どうして、こんなに長時間戦えるんだ……」


 決闘が始まって四半刻。ルークはペースを落とさずに動き続けていた。

 召喚獣の相手は、一度や二度ならジールにも可能だろう。しかし、これだけの継戦脳力は無い。精神が擦り切れて、どこかでミスをする。そこを飲み込まれて、負ける姿が容易に思い浮かぶ。


 ジールは知らず知らずのうちに拳を握っていた。

 自然と親しくなった変わった友人。

 伯爵家の子であるにも関わらず、平民にも平等に接する変わった友人。

 どんなに勉強しても、赤点ばかり取る残念な友人。


 そんなルークが、ジールを熱くさせていた。


「この戦い、ルークの勝ちだ」


 ジールは友人の勝利を確信する。

 ジールだけではない、この戦いを見ていた誰もがそう思っていた。


 しかし、そうはならなかった。


「参った」


 闘技場の中央で、圧倒的に優勢だったはずのルークが負けを宣言した。



   ◯



「大地の記憶に残る英霊よ! 我が呼び声に応えて顕現せよ! いでよカーヴァンクル!」


 次に現れたのは、額に宝石を埋めた獅子。エメラルド色の鱗と白い毛が美しく、尾にある棘から目が逸れてしまいそうになる。


 あの棘には毒があるな。

 気を付けるべきはそれだけで、対処は十分に可能と判断する。


「とはいえ、もう限界だな」


 俺ではない、アストの魔力が残り少なくなっていて、肩で息をしていた。

 召喚をしている間も魔力は消費しており、このままでは、あと数分で倒れてしまうだろう。


 迫るカーヴァンクルの尾を避け、強烈な爪を盾で受けて大きく下がる。

 更に足止めをする為に、カーヴァンクルの目の前で火花を散らして警戒させる。


 距離を取り睨み合うと、俺は剣と盾をその場に落とした。


「参った。俺の負けだ」


「なっ⁉︎ 貴様っ、私を馬鹿にしているのか⁉︎」


「馬鹿になどしていない、俺の魔力はあと一度でも魔術を使えば尽きる。そうなれば動けなくなり、その召喚獣に殺されるだろう。残念だが、俺に勝ち目は無い」


 そう告げるが、アストは納得した様子は無い。


「カーヴァンクル‼︎」


 アストの呼び掛けに従い、カーヴァンクルが疾走する。

 俺はそれを眺めながら、凶悪な牙が迫るのを見ていた。だが、俺の体を貫くことはなく、カーヴァンクルは灰となって消えてしまった。


「……くそ‼︎ 納得出来るか‼︎ このような勝敗のつき方で、この私が! アスト・サモントが納得すると思うな‼︎」


 杖先を俺に向けて激昂するアスト。

 確かに真剣勝負ならば、このような決着のつき方は納得行くものではないだろう。

 だが、そもそも真剣勝負ですらない。

 アストは圧倒的な力で、一方的に俺を倒せると思っていたようだし、俺もミッションの一つ程度の認識しかない。


 この決闘は、そもそも茶番なのだ。

 主義主張も交わしていなければ、相手に飲ませる要求も決めていない。なあなあでやっているだけの、紛い物の決闘なのだから。


 そんな決闘で、こいつは俺に何を望むのだろうか。


「納得するも何もない。俺が負けを認めた以上、これが覆ることはない。そうだろう審判?」


 俺が問い掛けると、召喚獣による広範囲の攻撃から逃れる為、身を隠していた審判が驚いた顔をしていた。


 まるで、「えっ私?」みたいな表情だが、お前以外誰がいるというのだろう。


 転がるように出て来た審判は、メモ用紙を取り出して説明する。


『えー……決闘の定義上、一度負けを認めた者は、後で意見を変えても適用されることはありません。よって、勝者アスト・サモントォ‼︎』


 そう宣言されても、会場は静かだった。

 さっきまで歓声が上がっていたが、まるで熱が引いてしまったかのようだ。


『では、敗者は勝者の要望を聞かなくてはなりません。その命以外で、サモント様は何を望みますか?』


 アストはワナワナと震えており、勝利した者とかけ離れた表情をしていた。


「くっ⁉︎ こんな勝ち方、認めない、認められるか‼︎ 侮辱だ! これは私に対する侮辱だ‼︎ ……だが」


 怒りに満ちていた顔が、スッと平静に戻る。

 いろんな顔をして忙しい奴だ。


「悔しいが、これは喜ばしいことでもある。……ルーク・ストロング。私にとってミレイは、妹のような存在だ。幸せになって欲しいと、心の中からそう願っている。もしも、貴様が弱い男ならば、そのまま消してしまうつもりだった。そんな奴に、ミレイは任せられないからな……」


「そうか」


「強さに関して言えば、お前は合格ラインだ。そこで問う、貴様はミレイ・リンレイをどう思っている⁉︎」


 突然、何の質問だ?

 とはいえ、勝者の言葉だ。答えなければならないだろう。


「ミレイか……美しい女性だ。目標に向かい、ひたむきに努力する姿は尊く、芯の通った尊敬すべき女性だと俺は思う」


 そう答えると、アストは満足そうに頷いていた。


「お前は、ミレイのいい所をしっかりと見ているな……。私の要望を告げる! ルーク・ストロング、お願いだ、ミレイを幸せにしてやってくれ。どうか頼む……」


 決闘の勝者が、敗者である俺に頭を下げる。

 これが勝者の姿なのだろうか?

 いや、ただ一人の女性の幸せを願う男の姿だ。


 この姿を見て、俺は思わず【美しい】と思ってしまった。

 真っ直ぐに誰かを思う心は、こうも美しいのか。

 貴族という括りでしか見れない奴は、無様と評価するかもしれない。

 でも、少なくとも俺は、彼の願いに応えてやりたいと思うほどの驚きを与えてくれた。


「ああ、任せろ」


 そう告げた瞬間に、会場からこれまでにないほどの歓声が上がった。

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