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日々が過ぎて行く。
メノウ大会に向けて、多くの人が訓練に励んでいる。
特に今回は、これまでと違う趣向というのもあり、皆魔術対策や近接戦対策を念入りにやっているようだった。
そうして、メノウ大会当日を迎える。
「ついにメノウ大会だね、ルーク頑張ってね」
「ああ、ジールは結局参加しなかったんだな」
「うん、期待してもらっているところ悪いけど、僕には無理過ぎるよ」
「……そうか」
ジールは何もやっていないように見えて、かなり鍛えている。
それも、メノウ大会が早まってから、かなり追い込んで鍛えているように見える。それを表に出さないのは、ジールなりの配慮なのだろう。
「僕は参加しないけど、ルークのお兄さんが参加するじゃない。優勝候補だって。凄いよね!」
「そうだな、兄上なら優勝するだろうな」
リーナも参加していないしな。
見る限り、兄上に勝てそうなのはセガール様だろう。
ここ最近、異常なまでに力を付けており、いい戦いをするだろう。
しかしセガール様はチーム戦の方に参加しており、個人戦には参加していない。
両方に参加するのは不可と規定されてはいないが、人数の関係で絞られていた。
メノウ大会の参加者数、述べ三百八一名。学園の約三分の一が参加している。
この人数が二日間に渡って戦い、No. 1を決めるのだ。
「それにしても、決闘を最初に持って来るのって、運営の悪意を感じるね」
「そうか? 盛り上がるのに打って付けと考えたのではないのか?」
「だからだよ。決闘って、お互いの主張をぶつける場所でしょ、それを大勢の前でやらせるって悪趣味だよ。負けた方は、とんでもなく恥ずかしい思いをするんだしさ」
「恥ずかしい思いか、確かにそれは嫌だろうな」
「なに他人事みたいに言ってんだよ。今からルークがやるんでしょ⁉︎」
「ああ、そうだな」
決闘の時間が差し迫っている。
開会式の後に、俺とアスト・サモントが皆の前で決闘を行う。
「……そういえば、主義主張ってどうなっているんだ?」
「え? ミレイさんを懸けての決闘じゃないの?」
「そんな話は聞いていないな。そもそも、人を懸けるなんて真似はしない。もしそうだったら、俺は決闘を受けていない」
決闘をやれと指示したリーナも承諾しなかったはずだ。
だとしたら、一体何を……。
「……時間だな、行って来る」
「うん、頑張ってね!」
ジールに見送られて、俺は闘技場に向かう。
開会式が始まり、会場では大いに盛り上がっているようだ。
今回のメノウ大会は、多くの来賓を迎えている。
貴族の当主はもちろんだが、他国の外交官に教会のお偉い様、そして今回は、国王陛下と王妃様まで二日間に渡ってやって来ている。
恐らく、セガール様の勇姿を見ようと思ったのだろう。
そのせいか、ロイヤルガードなる人物までやって来ているらしい。
因みに、リーナは教員席に座っており、お前は生徒じゃないのかと言いたくなった。
「……父上に婚約の件聞かなくてはならないんだった」
そうだ、今日は父上も来ているだろうから、この決闘が終わったら尋ねに行ってみよう。
貸し出されている武器を手に取り、決闘に備える。
『さあ、異色のメノウ大会! そのオープニングを飾るのはこの二人! その召喚獣で愛しい人を取り戻せることが出来るのかぁ⁉︎ メノウ学園特別科所属、アスト・サモントォ!!』
ナレーションが流れると、地響きのような歓声が上がる。
『続いて登場するのは‼︎ 学園始まって以来の天才、リーナ・ストロング‼︎ の兄! 婚約者がいる女性を口説き落とすクソ野郎ぉ‼︎ 普通科所属、ルーク・ストロングゥ‼︎‼︎』
呼ばれるのと同時に闘技場に入ると、大きなブーイングが浴びせられた。
まるで、会場中が敵だらけになったかのようだ。
この闘技場はかなり広い。
予定では、中央で区切り二試合同時進行で行われるそうだ。それに、会場はここだけではない。また別の訓練場を使って、トーナメントが行われる。百試合以上を二日間で消化するには、これくらいしなければ不可能だろう。
「逃げずによく来たな、その姿勢だけは褒めてやろう」
「そうか、これくらい大したことではない」
「……皮肉も通じないのか」
呆れた表情のアストは、杖を構えて魔力を高め始める。
どうやら戦闘体制に入ったようだ。
それに応えるには、俺も構えるべきなのだろうが、ジールに言われたのもあり聞いてみる。
「決闘の前に一つ確認したい」
「何だ?」
「この決闘は、ミレイの為にやるのか?」
「今更な質問だな、その通りだ!」
その返答を聞いて、構える。
この決闘において俺は、以前にミレイと手合わせした程度の身体能力で、無傷な状態で、無様を晒さずに敗北しなければならない。
無理難題な条件だが、やると言ってしまった以上、必ず実行する。
両者の準備が整ったのを確認した審判が、手を上に掲げて、一気に振り下ろす。
『始め‼︎』
アストは杖を掲げて、詠唱を開始する。
あっ、隙だらけ。
これはもう、反射的だった。
俺が手にした武器は、片手剣と円盤形の盾。
その盾を持ち直して、投擲する。
「大地の記憶に残っ⁉︎ どわっ⁉︎⁉︎」
ギリギリの所で、倒れるように避けたアスト。
そんな無様な姿を晒すアストに、歩いて近付いて行く。
これは、やってしまった。
このまま近付いて、立ち上がれないアストの首元に剣を添えれば俺の勝ちである。だが、今回は負けなくてはならない。目的が違う。目立たないよう行動するつもりが、勝利して目立っては意味がない。
俺はスタスタとアストの横を通り過ぎて、投げた盾の回収に向かう。
「…………貴様」
「どうした、早く立て。召喚獣を見せてみろ」
「貴様! いいだろう! 今見逃したことを後悔させてやる‼︎」
挑発するつもりは無かったのだが、これはもう仕方ない。勝ちそうになった俺の判断ミスだ。
「大地の記憶に残る英霊よ! 我が呼び声に応えて顕現せよ! いでよサラマンダー‼︎」
凄い隙だらけだ。
どうしてこんな隙だらけで、詠唱をのんびりと出来るのだろう。短縮詠唱、省略、予め別の物に付与なんかはしないのだろうか?
これで、どうして戦いの場に出て来た?
決闘は最悪死ぬというのに。
アストの正面に魔法陣が展開され、人を軽く丸呑み出来そうな大きなトカゲが姿を現した。
トカゲのようなサラマンダーは、体の節々から炎を噴出しており、それ以外は岩のような鱗で守られていた。
時々口から噴き出す炎は、高温ゆえか炎が青く見える。
「サラマンダー‼︎ 奴を焼き払え‼︎」
『グルルッカッ‼︎‼︎‼︎‼︎」
広範囲に青い炎が広がり、俺を殺そうとして来る。
魔術の強さで言えば上級クラスの威力。制限で下級しか使えない俺からしたら、とんでもなく強力な炎だ。
「とはいえ、この程度でやられるわけにはいかないんだがな」
走りながら盾の前に魔法陣を展開する。
使うのは下級魔術の一つ、エアロ。
盾を後方に向けて、魔術を俺に向けて放つ。
強烈な突風が推進力になり、俺を炎の範囲から脱出させる。
転がり受け身を取ると、サラマンダーに向かって疾走する。
「サラマンダー対処しろ!」
曖昧な指示だ。
それで通じるように、動きのパターンが作られているのだろうか?
「それは無さそうだな」
サラマンダーは炎を吐くのを止めると、体から噴き出る炎を操り、幾つもの炎球を作り上げる。
それらが放たれるが、どれも真っ直ぐに飛んで来る。威力はそれなりにあるのだが、軌道が読めれば避けるのは難しくない。
「馬鹿な⁉︎」
ジグザグに走り抜け、炎球を回避する。徐々に迫る俺に焦ったのか、アストはサラマンダーの陰に隠れた。
「敵を見ないでどうする? それとも視界を共有しているのか?」
試しに魔術を使用してみる。
大地の下級魔術であるサンド。グラウンドにある砂を操り、俺とサラマンダーの間に吹き上げる。
攻撃力の無い魔術だが、お互いに見えなくなる。
ここで何かしら指示が飛ぶと思っていたが、変わらず炎球が飛んで来るだけだ。
ならば怖くないと、再びエアロの魔術を使い加速する。
ドンッドンッと二連続で使い、サラマンダーに接近する。
残念ながら、サラマンダーの皮膚は硬くて持っている剣では傷付けられない。なので、最も弱い目を狙う。
手に柔らかい感触が伝わる。
「ギャーーーーーッ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」
片目を失い、悲鳴を上げて暴れ出すサラマンダー。
「サラマンダー⁉︎ 落ち着け! 奴を焼き払うんだ!」
指示を受けるとサラマンダーは暴れるのを辞めて、その口を開く。
ここに来て、またそれか。
炎が放たれる瞬間にエアロを使い、もう一つの目に向かう。
あそこでやるべきは、その巨体を使った接近戦。
暴れるサラマンダーには、とてもではないが近付かなかった。この頑丈な巨体は、少し動くだけでも武器になる。だというのに、わざわざ動きを止めてくれるとは思わなかった。
「悪いな」
サラマンダーの目に突き刺すと、剣の柄を蹴り深く突き刺した。
それは脳にまで届き、その命を奪う。
「サラマンダー⁉︎⁉︎」
吐かれていた炎の火力は落ちていき、体から力が抜けると内部から燃やし始めた。
仮初で作られた肉体はあっという間に灰に変わり、最初から無かったかのように消え去ってしまった。
俺が突き刺した剣が落下して、カランと乾いた音を立てる。
それを拾い、狼狽するアストを見る。
「馬鹿な、私のサラマンダーが……」
驚いている所悪いが、ある事実を告げなければならない。
「言っておくが、騎士科の人達なら今と同じことが出来た。単調な攻撃、敵から目を逸らす愚行、どれだけ強力な召喚獣でも使い切れなければ、ただの的だ」
「貴様っ⁉︎ 私を馬鹿にするのか⁉︎」
「馬鹿にするつもりは無い。ただ、強力な召喚獣に比べて、召喚師の実戦経験が余りにも足りていない。それなら、召喚獣に自由に行動させた方がより効果的だ」
俺を倒すのなら、明確な指示をせずに『奴を倒せ』と告げるだけで、俺を追い詰めただろう。
制限された俺では、自由に動くサラマンダーを無傷で倒すのは不可能。その時点で、俺は無様を晒して降参していた。
それが理解出来ないのか、アストは吠える。
「……実戦経験? そのような物、更に強力な召喚獣さえ使えばいいだけだ! 大地の記憶に残る英霊よ! 我が呼び声に応えて顕現せよ! いでよシルフィード‼︎」
魔法陣が展開すると、風を操る美しい女性が姿を現した。




