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脳筋忍者はシノビたい  作者: ハマ


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12

 メノウ大会での決闘。

 これをやるに当たり、条件を決められた。


「力はミレイさんにギリギリ勝てる程度に抑えて下さい。魔術は下級のみ使用可能。あと、必ず負けて下さい。これ以上目立つのは、忍者を探している勢力に見付かる恐れがありますから」


 そうリーナから指示された。

 ならば、決闘しない方がいいのではないかと思ったが、


「皆様に娯楽を提供すると思って、ここは一肌脱いで下さい」


 とお願いされた。

 どうやら、リーナ自身も必要ではないと考えているようだ。


「では兄様、そのようにお願いします。私はこれから取りに行く物がありますので、一週間ほど留守にしますが、くれぐれも騒動は控えて下さいね」


「ああ、メノウ大会の後にはテストがあるからな。問題を起こしている場合じゃない」


 そう、俺に取ってのメインイベントは、メノウ大会の後にある。


「さあ、勉強するか」


 前回は赤点だらけという散々な結果だった。

 次こそは赤点ゼロを達成して、量産型赤点なる二つ名を返上するのだ。



   ◯



 日々が過ぎて行き、刻一刻とメノウ大会の日が近付いている。

 途中で、大会の内容の変更が発表された。

 魔術科による魔術のお披露目は中止になり、代わりにトーナメント戦が全校生徒希望制に変更された。

 トーナメントでは、武器魔術が使用可能と単純な強さを比べる内容に変わり、個人戦の他に三人一組のチーム戦が行われる運びとなった。


 これに困ったのは、三学年魔術科の生徒達。

 せっかくアピールする場が、トーナメントに参加しなければ得られなくなったのだ。それも勝利しなければならず、負けたらマイナスの印象を与える恐れすらあった。

 領地を引き継ぐ貴族ならばそれでもいいのだろうが、ほとんどの生徒はそうではない。

 少しでも良い就職先に選ばれようと、皆必死なのだ。


「何だか大変なことになったね。今回は普通科からも結構な人数参加するみたいだよ」


「ジールは参加しないのか?」


「僕? 僕はしないかな。やる理由も無いし」


「そうか、もったいないな。ジールならいいところまで行くと思うんだがな」


「そんなこと無いって、買い被り過ぎ。僕のことよりルークはいいの、訓練しなくて。決闘するんでしょ?」


「俺に取っての訓練は、今こうして参考書を開いていることだからな。決闘なんてどうだっていい」


 決闘の勝敗などどうでもいい。

 将来、文官になることと比べたら些細な出来事でしかない。


「シーッ‼︎ そんなこと今は言っちゃダメだって! みんなピリ付いているんだからさ。マブロ達なんて、必死に訓練してるんだよ。あっ、ルークが変なこと言うから……」


 どうやら、マブロ達は今の会話を聞いていたようだ。

 眉間に皺を寄せて、不機嫌そうな顔をしてやって来る。


「おい落ちこぼれ、今なんつった?」


「今とは? ああ、これが俺の訓練といったやつか」


 そう言いながら参考書を上げて見せると、手で払い除けられた。

 とはいえ、大切な参考書を手放すような真似はしない。マブロに取ってどうでもいい物でも、俺に取っては大切な物だから。


「テメー、舐めてんのか? マグレで騎士科に勝ったくらいで調子に乗んなよ」


「何を怒っている? すまないが分からないんだ。怒る理由を教えてもらえると助かる」


「このっ⁉︎」


 拳を振り上げるマブロ。

 どうやら、本気で怒っているようだ。

 これは受けるべきだろうか?

 怒らせてしまった自覚はないが、俺が何かを言ったのは間違いない。


 ……仕方ない、一発もらっておくか。


 そう受け入れる準備をするのだけれど、俺が殴られることはなかった。


「マブロさんやめて!」

「今はヤバいですって⁉︎」


 マブロの取り巻きが止めたのだ。


「止めるな!」


「落ち着いて下さい、これまでの努力が台無しになりますよ」

「ここで手を挙げたら、立場も悪くなります。我慢して下さい」


 取り巻きに説得されて、マブロは握った手を納めた。


「おい落ちこぼれ! 二度と勝ち負けがどうでもいいとか言うな‼︎ 次言ったら、その首落としてやるからな‼︎」


 今の発言で、俺が怒られた理由が分かった。

 そうか、勝ち負けというのは、人によってはとても大切な問題なんだな。


「分かった。二度と言わないと誓う」


「このっ⁉︎」


「だからやめて下さいって⁉︎」

「ストロングも余計なこと言うな⁉︎」


 再び殴り掛かって来ようとするマブロを、取り巻き達が止めていた。

 そのまま引き摺って行き、教室から出て行った。


「ルークって、ナチュラルに煽るよね」


「いや、まったく分からん」


 最後は、しっかりと誓っただけだ。怒られる覚えはない。


「最後のはタイミングだね、あそこは黙ってやり過ごすのが正解だよ」


「おおそうか、勉強になるな」


「そこは勉強じゃなくて、空気を読もうね」


 ジールはため息を吐きながら、呆れたように俺の肩を叩いた。それから、俺の耳元に顔を近付け内緒話をする。


「これ噂なんだけど、マンドラ伯爵家で跡目争いが起こっているらしいんだ。それでマブロ、気が立ってるんだよ」


「そうか……」


 以前、領民が反乱を起こすかもと話を聞いたが、これも何か関係があるのだろうか?

 もしも反乱が起これば、多くの血が流れるだろう。

 罪の無い多くの命が、無情にも失われるかもしれない。

 それは、とても悲しいことだ。


 とはいえ、俺は介入するつもりは無い。


 反乱が起こるというのは、それだけ領民が苦しめられているからだ。その責任は、領主であるマンドラ伯爵家にある。

 俺が動くなら、マンドラ伯爵を討つ時だろう。



   ◯



 忍び装束に身を包むと、闇の中を疾走する。


「最近、魔物が多いな」


 街や村を回っているのだが、魔物の出現率が上がっているように感じる。


 魔物の集団が、村を狙って一斉に移動を開始する。

 それを瞬殺して次に向かう。


 同じような現象が他にも起こっており、今晩だけでも三箇所で魔物の集団を討伐した。


「これも魔王の復活の影響か……」


 魔王が現れると、魔物が調子に乗る。

 自分達のボスがいるからと、やる気に満ちて人の領域に足を踏み入れるのだ。

 徒党を組めば、勝てるとでも思っているのだろうか?

 愚かなことだ。

 似たような習性を持つのは盗賊だろう。少人数では何も出来ないのに、集団になると途端に強気になる。人を襲っても平気な顔をする。


「……そこら辺は、人も魔物もそう変わらないな」


 盗賊の死体を見ながらそう呟く。

 この盗賊は、俺が殺した奴らではない。俺が来る前に、魔物に襲われて命を落としていた。争った形跡もあり、まだ近くに魔物がいるだろう。


 森の中を歩いて行くと、盗賊を殺した魔物を発見した。


 それは猿のような魔物で、大きな身体に四本腕を生やしており、その手には傷付いた子供の魔物の姿があった。

 子供の魔物は、刃で斬られた痕があり、大量の血が流れて虫の息だ。その子供を愛おしそうに見つめる魔物。その目には慈愛の感情が宿っており、とても美しく見えた。


「……救われるべきは、人だけでいいのだろうか?」


 人に感情があるように、魔物にも感情はある。

 子供を失って悲しいのは、人も魔物も同じ。


 俺はそっと近付き、死に掛けている魔物の子供に触れる。

 親が反応しそうになるが、それを視線だけで制する。


「人がすまなかった」


 謝罪の言葉を伝えて、回復魔術を使う。

 魔物の子供の傷は癒えて行き、呼吸も安定する。これで、死ぬ恐れは無いだろう。

 我が子が助かったと理解したのか、魔物は涙を流しながら抱き締めていた。


 人も魔物も、俺からすれば大差のない存在。

 この感覚は危険だと理解しているが、どうにも捨てることは出来ない。


「この感情、師匠ならどう向き合いますか?」


 この世界から去ってしまった師匠に、つい尋ねたくなってしまった。

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