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メノウ大会での決闘。
これをやるに当たり、条件を決められた。
「力はミレイさんにギリギリ勝てる程度に抑えて下さい。魔術は下級のみ使用可能。あと、必ず負けて下さい。これ以上目立つのは、忍者を探している勢力に見付かる恐れがありますから」
そうリーナから指示された。
ならば、決闘しない方がいいのではないかと思ったが、
「皆様に娯楽を提供すると思って、ここは一肌脱いで下さい」
とお願いされた。
どうやら、リーナ自身も必要ではないと考えているようだ。
「では兄様、そのようにお願いします。私はこれから取りに行く物がありますので、一週間ほど留守にしますが、くれぐれも騒動は控えて下さいね」
「ああ、メノウ大会の後にはテストがあるからな。問題を起こしている場合じゃない」
そう、俺に取ってのメインイベントは、メノウ大会の後にある。
「さあ、勉強するか」
前回は赤点だらけという散々な結果だった。
次こそは赤点ゼロを達成して、量産型赤点なる二つ名を返上するのだ。
◯
日々が過ぎて行き、刻一刻とメノウ大会の日が近付いている。
途中で、大会の内容の変更が発表された。
魔術科による魔術のお披露目は中止になり、代わりにトーナメント戦が全校生徒希望制に変更された。
トーナメントでは、武器魔術が使用可能と単純な強さを比べる内容に変わり、個人戦の他に三人一組のチーム戦が行われる運びとなった。
これに困ったのは、三学年魔術科の生徒達。
せっかくアピールする場が、トーナメントに参加しなければ得られなくなったのだ。それも勝利しなければならず、負けたらマイナスの印象を与える恐れすらあった。
領地を引き継ぐ貴族ならばそれでもいいのだろうが、ほとんどの生徒はそうではない。
少しでも良い就職先に選ばれようと、皆必死なのだ。
「何だか大変なことになったね。今回は普通科からも結構な人数参加するみたいだよ」
「ジールは参加しないのか?」
「僕? 僕はしないかな。やる理由も無いし」
「そうか、もったいないな。ジールならいいところまで行くと思うんだがな」
「そんなこと無いって、買い被り過ぎ。僕のことよりルークはいいの、訓練しなくて。決闘するんでしょ?」
「俺に取っての訓練は、今こうして参考書を開いていることだからな。決闘なんてどうだっていい」
決闘の勝敗などどうでもいい。
将来、文官になることと比べたら些細な出来事でしかない。
「シーッ‼︎ そんなこと今は言っちゃダメだって! みんなピリ付いているんだからさ。マブロ達なんて、必死に訓練してるんだよ。あっ、ルークが変なこと言うから……」
どうやら、マブロ達は今の会話を聞いていたようだ。
眉間に皺を寄せて、不機嫌そうな顔をしてやって来る。
「おい落ちこぼれ、今なんつった?」
「今とは? ああ、これが俺の訓練といったやつか」
そう言いながら参考書を上げて見せると、手で払い除けられた。
とはいえ、大切な参考書を手放すような真似はしない。マブロに取ってどうでもいい物でも、俺に取っては大切な物だから。
「テメー、舐めてんのか? マグレで騎士科に勝ったくらいで調子に乗んなよ」
「何を怒っている? すまないが分からないんだ。怒る理由を教えてもらえると助かる」
「このっ⁉︎」
拳を振り上げるマブロ。
どうやら、本気で怒っているようだ。
これは受けるべきだろうか?
怒らせてしまった自覚はないが、俺が何かを言ったのは間違いない。
……仕方ない、一発もらっておくか。
そう受け入れる準備をするのだけれど、俺が殴られることはなかった。
「マブロさんやめて!」
「今はヤバいですって⁉︎」
マブロの取り巻きが止めたのだ。
「止めるな!」
「落ち着いて下さい、これまでの努力が台無しになりますよ」
「ここで手を挙げたら、立場も悪くなります。我慢して下さい」
取り巻きに説得されて、マブロは握った手を納めた。
「おい落ちこぼれ! 二度と勝ち負けがどうでもいいとか言うな‼︎ 次言ったら、その首落としてやるからな‼︎」
今の発言で、俺が怒られた理由が分かった。
そうか、勝ち負けというのは、人によってはとても大切な問題なんだな。
「分かった。二度と言わないと誓う」
「このっ⁉︎」
「だからやめて下さいって⁉︎」
「ストロングも余計なこと言うな⁉︎」
再び殴り掛かって来ようとするマブロを、取り巻き達が止めていた。
そのまま引き摺って行き、教室から出て行った。
「ルークって、ナチュラルに煽るよね」
「いや、まったく分からん」
最後は、しっかりと誓っただけだ。怒られる覚えはない。
「最後のはタイミングだね、あそこは黙ってやり過ごすのが正解だよ」
「おおそうか、勉強になるな」
「そこは勉強じゃなくて、空気を読もうね」
ジールはため息を吐きながら、呆れたように俺の肩を叩いた。それから、俺の耳元に顔を近付け内緒話をする。
「これ噂なんだけど、マンドラ伯爵家で跡目争いが起こっているらしいんだ。それでマブロ、気が立ってるんだよ」
「そうか……」
以前、領民が反乱を起こすかもと話を聞いたが、これも何か関係があるのだろうか?
もしも反乱が起これば、多くの血が流れるだろう。
罪の無い多くの命が、無情にも失われるかもしれない。
それは、とても悲しいことだ。
とはいえ、俺は介入するつもりは無い。
反乱が起こるというのは、それだけ領民が苦しめられているからだ。その責任は、領主であるマンドラ伯爵家にある。
俺が動くなら、マンドラ伯爵を討つ時だろう。
◯
忍び装束に身を包むと、闇の中を疾走する。
「最近、魔物が多いな」
街や村を回っているのだが、魔物の出現率が上がっているように感じる。
魔物の集団が、村を狙って一斉に移動を開始する。
それを瞬殺して次に向かう。
同じような現象が他にも起こっており、今晩だけでも三箇所で魔物の集団を討伐した。
「これも魔王の復活の影響か……」
魔王が現れると、魔物が調子に乗る。
自分達のボスがいるからと、やる気に満ちて人の領域に足を踏み入れるのだ。
徒党を組めば、勝てるとでも思っているのだろうか?
愚かなことだ。
似たような習性を持つのは盗賊だろう。少人数では何も出来ないのに、集団になると途端に強気になる。人を襲っても平気な顔をする。
「……そこら辺は、人も魔物もそう変わらないな」
盗賊の死体を見ながらそう呟く。
この盗賊は、俺が殺した奴らではない。俺が来る前に、魔物に襲われて命を落としていた。争った形跡もあり、まだ近くに魔物がいるだろう。
森の中を歩いて行くと、盗賊を殺した魔物を発見した。
それは猿のような魔物で、大きな身体に四本腕を生やしており、その手には傷付いた子供の魔物の姿があった。
子供の魔物は、刃で斬られた痕があり、大量の血が流れて虫の息だ。その子供を愛おしそうに見つめる魔物。その目には慈愛の感情が宿っており、とても美しく見えた。
「……救われるべきは、人だけでいいのだろうか?」
人に感情があるように、魔物にも感情はある。
子供を失って悲しいのは、人も魔物も同じ。
俺はそっと近付き、死に掛けている魔物の子供に触れる。
親が反応しそうになるが、それを視線だけで制する。
「人がすまなかった」
謝罪の言葉を伝えて、回復魔術を使う。
魔物の子供の傷は癒えて行き、呼吸も安定する。これで、死ぬ恐れは無いだろう。
我が子が助かったと理解したのか、魔物は涙を流しながら抱き締めていた。
人も魔物も、俺からすれば大差のない存在。
この感覚は危険だと理解しているが、どうにも捨てることは出来ない。
「この感情、師匠ならどう向き合いますか?」
この世界から去ってしまった師匠に、つい尋ねたくなってしまった。




