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脳筋忍者はシノビたい  作者: ハマ


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リーナ8

 セリアさんの話を聞いて、これから何が起こるのか判明した。

 直近ではメノウ大会、その次がマンドラ伯爵領での領民による反乱。

 前者は魔族に対処するだけなのでそれほど難しくはないが、領民の反乱はそうも言っていられない。

 こちらの方は、明らかに裏で糸を引いている者がいる。


 その人物、いや人達を特定して、人形使い様と連携してことに当たるべきだろう。


「問題は山積みね……。ところでセリアさん、そろそろ出て行ってもらえませんか?」


「え? 私、リーナちゃんの奴隷だから、一緒にいないといけないんだよ」


「必要ありません、さっさと戻って下さい。もう直ぐ授業も始まりますよ」


「ええー……」


 後半の授業の時間が迫っている。

 次の時間、私が受け持つ授業は無いので、片付けられる業務は終わらせておきたい。


「リーナちゃんって生徒なの? 教師なの?」


「どちらもです。メノウ学園に生徒として在籍していますが、習うべきことがありませんので、教える側に回っています」


「それっていいの?」


「問題ありません。給金も発生していますし、様々な特権もいただいていますので」


「えっと、それなら特別科に行った方が……」


「そちらでも同じことです。新たな魔術の開発をやるべきだという声もありますが、それは私一人でやるべきではありません。後進を育て、その方達にやってもらうべきです」


「一番の後進がリーナちゃんじゃ……」


 そういう意見はいらない。

 そもそも、私が使うというだけの魔術ならば、すでに研究を終えている。やるのなら、これら魔術を皆が使えるまでに落としこむことだろう。それも、皆で知恵を出し合ってやるべきだ。私だけで完結しては、意味が無い。誰かから芽生える知恵にこそ価値があり、共有することで発展して行くのだから。


 それに、今は他にやるべきことがある。


 セリアさんに「授業に行きなさい」と命令をして、研究室から追い出した。


 机の上にあるのはメノウ大会に関する案。

 本来あるべき時期よりも前倒しで行われる目的は、魔王討伐に参加可能な人材を見付け出すというもの。


 国家どころか人類の危機なのだから、現役のロイヤルガードや騎士を出せばいいだろうという話ではあるが、ことはそう上手くは運ばない。

 隣国であるコーダイ帝国。こちらは、アルメニア王国の戦力が削がれたと判断した瞬間に、開戦に動く恐れがある。

 場合によっては、魔王すら利用するだろう。

 そのような国がいるのに、国の最高戦力を動かすわけにはいかない。やるのなら、これから成長するであろう人材。英雄として祭り上げても問題ない人物だ。


「我々が介入すれば早い話ではありますが、それをすれば、この国は自浄作用を失う。私が亡くなった後、緩やかに崩壊に進むでしょうね」


 絶大な力を示すのは簡単。

 四天王を魔王を大々的に葬ればいい。

 しかしそれは、悪手でしかない。

 独裁者の後を継ぐ者が賢人だとしても、考えるのをやめた周囲が足を引っ張る。誰かに頼り切った人は、もうその足で立てなくなってしまう。

 有象無象がまるで蝗害のように、国の富を食い尽くして滅んで行く。


 多くを救うを本懐とする私が、その選択をするわけにはいかない。


 あくまでも裏方。

 そうでなくてはならない。


「メノウ大会のイベントは、騎士科によるトーナメント戦。魔術科による魔術の披露。……弱いわね、これでは周囲を納得させられない」


 セガール殿下率いる勇者パーティの候補は上がっている。だが、それを納得させられるだけのパフォーマンスが出来ない。


「何か、いい手は……」


 頭を巡らせていると、研究室の扉がノックされた。

 扉の前に立つ人物の魔力には覚えがあり、「どうぞ」と入室を促すと、入って来たのはアンドレア様だった。


「リーナ、少しお話があるのだけれど、いいかしら?」


「アンドレア様、どうぞ……」


 アンドレア様が訪ねて来るのは珍しい。

 昨年まで魔術科の天才と呼ばれていた人物だが、私の入学が決まった時点でそう呼ばれることも無くなった。

 魔術科から普通科に移動した理由は別にあるのだけれど、私から逃げたと心無い人は口にする。それで嫌な気を起こしているはずなのだが、私に文句を言って来ることはない。

 将来、ベルモット兄様と結婚して、ストロング伯爵家の人になる予定の義姉様だ。


「それで、お話とは?」


 アンドレア様にお茶を出しながら尋ねる。


「ルークのことよ」


「兄様ですか? ベルモット兄様ではなく?」


「ベルモット様は関係無い。今、ルークが決闘を申し込まれているのは知ってる?」


「ええ、確か特別科のアスト・サモント様ですよね。兄様は断っていたはずですけど……」


「そう、頑なに拒んでいるわ。それ自体を責めるつもりは無いのだけれど、アストさんの心情を汲むのなら受けて立つべきだと思わない?」


 大方、兄様に断られて私のところに来たのだろう。

 その気持ちは分かる。

 アスト様はミレイさんの元婚約者。兄様とミレイさんとの婚約を進めるために二人の仲を調べると、とても仲が良いということが判明した。

 ただしそれは、婚約者としてではなく、兄妹のような関係。

 お互いのお母様が仲が良く、幼い頃からよく会っていたようだ。婚約は、ミレイさんに召喚師に似た魔力の性質があったから。

 実際には、召喚師としての資質は無かったのだけれど、幼い頃に取り決められた約束は維持されていた。


 その理由も一応は知っている。


 なので私の回答は、


「それは、兄様にお任せしようかと思っております」


 になる。


 婚約を勝手に決めたのは私だけれど、サモント侯爵も婚約破棄するタイミングを窺っていた。それを知っていたリンレイ子爵も、渡りに船とこの話に飛び付いた。

 貴族家という単位で考えたら、この婚約はwin-winの関係にある。


 それに、ミレイさんは肩身の狭い思いをしなくて済む。


「それじゃあ、アストさんが不憫でしょう。男として、ケジメを付けさせてあげて」


「男として? アスト様はミレイさんを愛していたわけではないですよね?」


「いいえ、あれは愛している男の目をしていた。ご自身で理解しているのか定かではないけれど、あれは誰かを愛する男の目だった」


 ……この人は何を言っているんだろう?

 どうして、他人の思いを妄想して口にしているのだろう?

 よく見ると、口元が歪んでいて、笑みを浮かべるのを必死に堪えているようだった。


「アンドレア様、もしかして楽しんでません?」


「なっ⁉︎ そっそそそそそそんなことない‼︎ 私は、アストさんとミレイさんの悲劇にスパイスを加えたいだなんて思ってなくて、純粋にアストさんの気持ちに整理を付けるお手伝いを……」


 図星か。

 とはいえ、決闘を断り続けて問題が無いわけでもない。


「でも、どうするの? このままルークが断り続けたら、武門であるストロング伯爵家としても名誉に関わるわ」


「そうですね……」


 その程度で傷付く名誉なら無くてもいい。

 と私は思うのだけれど、将来ストロング伯爵夫人になるアンドレア様には、とても重要な問題だ。


 私は逡巡するように視線を巡らせると、メノウ大会に関する案の用紙が目に止まった。


 ……これだ。


「いいですね、兄様には決闘を受けていただきましょう」


「まあ⁉︎ やっぱりリーナも楽しみたいのね⁉︎」


 この人、もう隠す気もないのか……。


「ただし、条件があります」


「条件?」


「アンドレア様には、メノウ大会で行われるトーナメントに出場していただきます」


「トーナメントって、騎士科主体で行われる催しよね? あれに魔術は使用不可だったはずだけど……」


「いいえ、今回は趣向を変えたいと思います。基本、なんでもありのトーナメントにします。騎士科、魔術科、普通科、特別科関係なく、全校生徒が挑戦出来る催しにしたいと思います。兄様とアスト様には、そのデモンストレーションをやっていただきましょう」


 これから、先生方を説得しなくてはならない。

 プレゼンで使う資料の作成に、終業後に説明する段取り。

 ロイヤルガードとしての権威も利用して、この案を通す。


「いや、いくらなんでもそんな思い付きで、そもそも教員が許すとは……」


「そこら辺は問題ありません。兄様には私から言いますので、安心して下さい」


「安心って……そもそも私は参加するとは……」


「これは決定です。兄様に無茶をやらせるんですから、アンドレア様も頑張って下さいね」


 誰かを見て楽しみたいのなら、あなたも誰かの楽しみになるべきだろう。


 よろしくお願いしますね。そう告げて、アンドレア様を追い出した。

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