リーナ6
獅子王様が言っていた忍者を知る人。
その方は、当時セガール殿下と共にいた女性二人のうちのどちらか。
一人はベルモット兄様の婚約者である、アンドレア・カーニバル様。
もう一人は、ノルド男爵家のセリアさん。
アンドレア様とは何度か接触しているけれど、特に変わったところは無い。うちのメイドと接触することもほぼ無く、忍者という単語を知る機会も同様に無い。
だとしたらセリアさんなのだけれど、彼女との接点はほとんど無い。一度、尋ねて来たことはあったのだけれど、一方的に喋って去ってしまった。
同じクラスのクレアから、不思議な方だが悪い人ではないと伺っている。話の通じない相手でもなく、普通に会話をして、授業も熱心に取り組んでいるそうだ。
ただ、時折り不思議な言動をする。
これが、セリアさんの特徴なのだろう。
「では、セリアさんを連れて来て下さい。手段は問いません」
もし、忍者を知るのならこちらだろう。
◯
クレアとトウリが、簀巻きにしたセリアさんを担いでやって来た。
どうしてわざわざ簀巻きに? という疑問に、
「この方が、運ぶ時安定するんです」
ということらしかった。
簀巻きにしたことも、されたこともないから知らなかった。
そんなどうでもいい情報を知りつつ、魔術を使用する。
セリアさんの拘束を解くと、空中浮遊させて椅子に座らせる。
このまま、記憶を引き摺り出しても構わないのだけれど、後遺症が残る恐れがあり辞めておく。
やるのなら、悪人。
どうしようもない悪人に対して、非常な魔術を使用する。
これは、私が私に科したルール。
人を救うを本懐にしながら、無闇矢鱈に人に危害を加えていては本末転倒だ。
彼女は善人。ならばやるのは、一つずつ聞き取って行くことだろう。
ただし、魔術により強制的に喋らせるけどね。
「ではセリアさん、忍者について知っていることを教えて下さい」
そう質問すると、目を閉じたままのセリアさんは喋り出す。
「……忍者? そう言われても、私は忍者という物に詳しくない。せいぜい……」
セリアさんの答えは、どれも興味を引かれる内容だった。
一緒に聞いていたクレアとトウリは困惑して、お互いに顔を見合わせたりしていた。
私は、お師匠様にこういう人物が現れる可能性を示されていたので、驚きはあっても狼狽えるようなことはない。
ゲームのストーリーの内容はとても長いけれど、そのどれもが、これから起こるであろう出来事の予言だった。
「……ココも重要人物だったのね。他に召喚獣がいるというのは、ありがたい情報ね」
この話が本当なのか、それを調べる術が出来た。
ココが他の召喚獣を召喚出来れば、セリアさんの話は本当という証明になる。
セリアさんの話を聞いていると、クレアは不安になったのか、質問して来る。
「あのリーナ様、セリアさんが言っているのは本当のことなのでしょうか?」
「そうであって、そうでないわね。セリアさんの話には、ある人物が登場していない」
「ある人物?」
「兄様よ。もし魔族や魔物が暴れるのなら、兄様は必ず動く。私もくノ一部隊を使って反撃するでしょう。その出来事が想定されていないし、荒唐無稽な展開が多くて穴だらけ。とても信じられるものではない……」
「では、この話は妄言なんですか?」
「いいえ、もし兄様がいなければ十分にあり得る出来事ね。セリアさんの話は、兄様が亡くなった場合の世界線、と考えておいた方がいいわね」
「ルーク様が亡くなる? いくら何でも、それは……」
「ふふっ、今の兄様を見たら死ぬ所なんて想像出来ないでしょうね。でも、兄様だって最初から最強だったわけではない。力の使い方を教えてくれるお師匠様がいたからこそ、あの領域に至れた。でなければ、幼い頃に命を落としていたでしょうね。私が魔術にのめり込む理由も何となく想像はつくし、魔王の肉体に選ばれる理由も分かる。そうだ、一つ聞いてみましょう……」
私はセリアさんに近付いて、ある人物を訪ねる。
「ルーク・ストロングという人物を知っていますか?」
「…………そんな人は知らないわ」
「ありがとうございます。では、話の続きをどうぞ」
「そう、マンドラ伯爵領で平民や冒険者が奮起して……」
これではっきりした。
セリアさんが前世でやっていたゲームは、お師匠様が現れず、兄様が星と共に死んだ世界の物語り。
兄様を目の前で失って、私はあの美しい魔術を再現しようと研究に没頭する。
魔王に目を付けられた理由も、お師匠様から伺っている。
『残酷な話だが、リーナちゃんの肉体にもルークと同種の力が宿っていてな。それを感じ取る奴らから狙われる恐れがある。しかもタチが悪いことに、その力は弱い。普通の人と変わらないレベルだ。だから、封印した方がいいんだが……』
『兄様と一緒がいいです!』
『だよな、じゃあ俺の力も上乗せするから、ちゃんと強くなるんだぞ』
『はい!』
搾りかすでも、神子の力は特別。
これを狙って、魔王は私を選んだのだろう。
「兄様が死んでいたら……いえ、お師匠様がこの世界に現れなかったら、私は死んでいたかもしれませんね」
そう呟くと、クレアとトウリが息を呑む。
「あの、リーナ様、もし、セリアの言う通りの世界だったら、僕たちはどうなっていましたか?」
トウリの怯えたような質問。
今更、この質問に意味は無いのだけれど、仮にその世界線だったら。
「あなた達のほとんどは、生きてはいなかったでしょうね……」
「っ⁉︎」
メイド服をギュッと握るトウリ。
この屋敷で働くメイドや、くノ一部隊で働く子達は、皆捨てられた者達だ。
セリアさんのいうところの、モブにもなれないような存在。
身内に見捨てられ、世界からも忘れられた子達。
ココのような子が稀のであって、他は普通の子なのだ。
多くを救え、そうお師匠様に言われた言葉。
改めて、この言葉の重みを実感する。
零れ落ちる命を掬い上げるだけではなく、世界からも見放された命を助けることが出来る。
私には、私達には、それだけの力が与えられた。
「安心なさい。たとえ世界が救わなかったとしても、私が救いましょう。あなた達は、私に選ばれたという誇りを持ちなさい。俯くのではなく胸を張りなさい。あなた達には、生きる価値があるのだと、世界に見せ付けてやりなさい。それだけの力も武器も手段も、今のあなた達にはある」
くノ一部隊に所属する者の大半は、ロイヤルガードに匹敵する力を持っている。上位に至っては、魔王軍四天王すら凌ぐだろう。
そんな子達が、無価値なわけがない。
有象無象の悪人どもに、食い潰されていいわけがない。
「私達は、悪を挫き、救われるべき者達を救い続ける。あなた達にも、手伝ってもらうわよ」
「っ、はい!」
「もちろんです」
セリアさんの話は、くノ一部隊に共有させる。
今回得た情報は、これから先、多くの命が失われる可能性を示唆したものばかり。
下らない野心で動く愚か者を、綺麗に一掃するいい機会でもある。
長いセリアさんの話は、ようやく最後を迎える。
「……あの最後の一枚絵が無かったら、たぶんクソゲーって言ってたと思うわ」
「そうですか、聞きたいことは大体聞けました。ではセリア・ノルドさん、起きていいですよ」
ゆっくりと目を開いたセリアさんは、驚いた表情で私達を見る。
「あっ、あなた、リーナちゃん、よね?」
「ええ、リーナ・ストロングです。間違っても、魔王に乗り移られたりしていませんよ」
皮肉を言ったつもりだけど、セリアさんはぼうっとした状態だ。
正気に戻るまで待ってもいいのだけど、この世界を遊び場だと思っている方に遠慮は要らないだろう。
「では、セリア・ノルドさん。いえ、世界の異物さん、お話をしましょうか」
そう告げて、正気に戻させた。




