セリア3
魔王軍四天王、龍将ヴェルダンドン。
復活したばかりの魔王を守護しており、基本的にその場から動くことはない。
ゲーム中では、魔王の前に戦う強敵であり、あるアイテムを手に入れるかココちゃんが仲間にいないと負ける。
第一形態である人型ならまだ戦える。でも、肉体を変質させた第二形態のドラゴンになると歯が立たない。これを倒すには、アイテムを使って能力を封じるか、ココちゃんの召喚獣を犠牲にして倒すしか手はない。
魔王に次ぐ力を持つとされているが、復活したばかりの魔王よりも強い。
実質、最終ボスである。
三メートル近い大きな体躯。ところどころ龍鱗があり、同じ四天王すら見下す傲慢な目付き。濃い紫色の立て髪は、ドラゴンとなった時の体色を彷彿とさせる。
巨大な魔剣を持ち、その口から放たれる火炎は全てを焼き尽くす。
そんな龍将ヴェルダンドンが森の中に立っていた。
「まさか、魔族⁉︎」
セガール殿下が驚き剣に手をやる。
それと同時に、ヴェルダンドンから強烈な殺気が放たれてしまう。
「っ⁉︎」
「ひっ⁉︎」
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎
頭の中に警笛が鳴り響く。
生物としての本能が、早く逃げろと告げて来る。
「ちっ、猿か。魔王様の憑代になる肉体があると言っていたが、ジュライミルめ、適当なことをほざいたな」
こちらには目もくれず、辺りを見回すヴェルダンドン。
私以外の人達は、武器を抜いて立ち向かう格好をしている。
でも、みんなの息は荒い。緊張から、呼吸をするのもやっとの状態なんだ。
そんな私も、みんなを見て自分が呼吸してないのに気付いた。
「はあ! はあ! はあ! はあ!」
どうしてここにヴェルダンドンが⁉︎
ココちゃんは⁉︎
みんな逃げないと⁉︎
ダメだ声が出ない⁉︎
私はそんな状態でも、セガール殿下、ピスターブ、それにアンドレアさんは動けるようだ。
他の人達は、剣は構えられていても、動けそうもない。
「ほう、俺の殺気を受けても動けるのか」
しかし、そのせいで関心を持たれてしまった。
セガール殿下は剣を構え、震える体で必死に声を絞り出す。
「魔族、何故ここにいる。何が目的だ!」
「サルが、勝手に口を開くな」
そう吐き捨てたヴェルダンドンは、睨むように私達を値踏みする。
「……弱いな、憑代になる器ではない。強者の気配も近くには感じない。……ちっ、ジュライミルめ、まさかこの中にいるのか? この弱者の中に⁉︎」
「くっ⁉︎」
再び強烈な殺気が放たれて、私達はいよいよ動けなくなる。
それはセガール殿下達も同様で、この中で動ける者はいなくなってしまった。
「……そのような弱い肉体はいらん! 矮小なサルども、喜べ‼︎ 我が主の生贄にしてやるぞ‼︎」
余りにも暴力的な魔力に、みんなの顔が絶望に染まる。
こんなの、どうしろっていうの⁉︎
ロイヤルガードの人達でも勝てない相手に、どうしたらいいの⁉︎
もしかして負けイベントで、誰かが助けてくれるの⁉︎
それとも、セガール殿下が覚醒してくれるの⁉︎
そんな思いが湧いては消えて湧いては消えてしまう。
今の私じゃ何も出来ない!
覚醒しても、結界と聖女クラスの治癒魔術が使えるようになるだけで、単独でヴェルダンドンをどうにかなんて出来ない!
ココちゃんはどこ⁉︎
今こそ、ココちゃんの召喚獣を⁉︎
他力本願にまで行ってしまう私の走馬灯。
そんな私達の状態なんて知ったことかと、魔族は動き出す。
地割れするほど踏み込み、一瞬で加速するヴェルダンドン。
ダメだ、殺される‼︎
迫る暴力は圧倒的で、私達を一振りで葬ってしまうだろう。
私は諦めて、目を閉じてしまう。セガール殿下達は抗うだろうけど、それも無駄な足掻きだ。
だから、決定的な場面を見逃してしまった。
大きな衝撃音が鳴り響く。
もしかして、痛みも無く私達は殺されてしまったのだろうか?
そんな恐ろしい想像をしながら、ゆっくりと目を開くと、なんか忍者がいた。
「なっ⁉︎」
セガール殿下が目を見開いて驚いている。それは私達も一緒で、忍者の姿を見て驚いていた。
……忍者?
あれ? ん? あれって忍者だよね?
どうしてここに忍者?
ここって、剣と魔術が織りなすファンタジーな世界じゃないの?
頭が混乱している間に、突然現れた忍者と龍将ヴェルダンドンの戦いが開始された。
いや。
戦いなんて呼べるような物ではなかった。
一方的な蹂躙。
ヴェルダンドンの攻撃は一切当たらず、忍者の短刀が魔族の身を刻んでしまう。
それも一瞬で。
瞬きする間もなく、ヴェルダンドンは血塗れになってしまった。
強い、なんて物じゃない。異常だ。
ゲームで強さをカンストさせても一撃では倒せない魔族を、文字通り一瞬で戦闘不能に追い込んでしまった。
最後の足掻きにと、ヴェルダンドンは第二形態に変身する。
羽化する前に逃げるようとセガール殿下が訴えるが、忍者は聞く耳を持たない。
いくら強くても、ドラゴン化したヴェルダンドンには勝てない。
作中で最強なら、この世界で最強も同じこと。
そんな化け物を相手に出来るはずがない⁉︎ と、そう思っていた。
絶望しそうになるほどに強大なドラゴン。
滅殺龍ヴェルダンドン。
見ただけで分かる。隔絶した力、生物としての格の違い、私達が蟻を見下ろすように、ヴェルダンドンも空から私達を見下ろしている。
怒りのままに口に溜められた魔力は、森を消し去ってしまえるほどの膨大な量が込められており、全てを焼き払うブレスとなって放たれるだろう。
だけど忍者は、そんな物大したことないと、短刀を無造作に振っただけで霧散させてしまった。
「……なんかもう、意味不」
あの忍者は転生者だ。
間違いない。
キャラクターがおかしくなっているのも、あの忍者のせいだ。
ここにココちゃんがいないのも、ヴェルダンドンがいるのも、きっとあの忍者のせいだ。
私よりも早くに前世を思い出して、俺ツエーをやる為にひたすら鍛え上げたのだ。
隠しアイテムも全部回収されて、隠しダンジョンも攻略されているに違いない。
ちくしょ〜。
私の薔薇色人生が台無しじゃない!
別に逆ハーとか狙ってなかったよ、みんな幸せになったら良いなって思ってたよ。その為に、いろいろやろうとしたんだよ!
もう台無し!
全部あのコスプレ野郎のせいで、私の計画が全部無駄になってしまった。
「忍法・十束の剣」
もう完全に日本神話に登場する剣だ。
私には感じることも出来ないほどの膨大な魔力量。
その魔力を使って構築される、幻の剣。
「救世の太刀」
忍者の一太刀で、ヴェルダンドンは跡形も無く消え去ってしまった。
この人は、この調子で残りの四天王を倒して、最後に魔王まで倒してしまうんだろう。
「……何だったんだ、一体……」
忽然と姿を消した忍者。
静寂が流れるこの場所で、セガール殿下が呟いていた。




