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婚約騒動の数日後、アンドレア様が復学した。
何でも、演習後にご実家に戻っていたらしく、学園に来れなかったのだという。
「これからもよろしくお願いします」
そう、女子生徒達に挨拶をしていた。
取り巻きは相変わらずで、アンドレア様が戻ってきてとても嬉しそうだ。
対してマブロだが、
「ちっ……」
取り巻きが離れており、今は一人で勉強をしていた。
「なんか、マブロ君変わったね。前は他人を見下していたのに」
「そうか? 今は余裕は無さそうだが、元からああだったぞ」
「ええー、そんなことないって、ルーク滅茶苦茶言われてたじゃない」
「あれは俺を思ってのことだ」
「いくら何でもポジティブ過ぎるよ……。じゃあ、ポジティブついでに、あれはどうするの?」
ジールが指差す先は、教室の出入り口。
そこにはメガネを掛けた上級生が腕を組んで立っていた。
アスト・サモント先輩は、あの日から毎日やって来るようになった。やって来る度に、決闘を申し込まれては断っている。
「ルーク・ストロング、貴様に決闘を申し込む!」
投げられた手袋を避けると、二枚目の手袋が俺の体に当たる。
どうやら避けるのを見越して、二枚同時に投げていたようだ。
やるな、だが。
「断る」
そもそも、決闘する理由が無い。説明もされていない。聞く気もない。だからやる気も無い。
受けて立つのが貴族の作法というのは知っているが、それに則る必要も感じない。父上や兄上には迷惑が掛かるだろうが、勝手に婚約を決めたのだ、これくらい許されるだろう。
「何故受けない、このアスト・サモントが怖いのか?」
「怖い、毎日来て同じことを繰り返す異常性は恐怖に値する」
一日に二度、授業開始前と昼食時間帯にやって来ては、俺に手袋を投げ付けるのだ。狂気を感じるほどの無駄な行動に、恐怖以外は呆れの感想しか抱けなかった。
「貴様⁉︎ ……ふん、家名さえ守れない腑抜けめ。ストロングの名も地に落ちたな」
「そうか」
「家を馬鹿にされても怒りもしないのか……。貴族としてのプライドは無いのか?」
「プライドに価値は無い。矜持にこそ価値はあると思っている。悪人ではない先輩を相手に、俺は戦えない」
そう言って断ると、俺をジッと見て踵を返した。
「……また来る」
「いや、来ないでくれ。迷惑だ」
「また来る!」
それだけを言い残して、アスト先輩は去って行った。
代わりに、この一連のやり取りを見ていたアンドレア様は、眉間に皺を寄せてやって来る。
「ルーク、今のは何? 決闘とはどういうこと?」
「アンドレア様、お久しぶりです。先程の人物は、アスト・サモント。三年特別科に在籍している先輩です。数日前から、先輩に決闘を申し込まれております。決闘理由も分からず、受ける必要も無いと判断して断っています」
極力簡潔に伝えると、アンドレア様の眉間の皺が更に深くなった。
「様はいらないわ。って、そうじゃない。どうして理由を聞かないの? アスト・サモントと言えば、サモント侯爵家にとって、五十年ぶりに生まれた召喚師よ。しかも、歴代最高とも呼ばれる天才。そんな彼に、恨まれるようなことしたの?」
「してないです。先日会ったのが初めてで、その時にはもう決闘を申し込まれていました」
まるで意味不明な状況に、アンドレア様は頭を悩ませる。
当人である俺も頭を悩ませているので、話を聞いただけでは、こうもなるだろう。
そんなアンドレア様に、取り巻きの女子達が丁寧に説明を行う。
「……ああ、そうなの。分かった、ありがとう。……ルーク、決闘を受けなさい」
「断る」
「命令よ、受けなさい」
「断る」
「ベルモット様に告げ口するわよ」
「問題無い、兄上に言われようと断る」
「ミレイさんが関係していると言っても?」
「関係ない、断る」
「じゃあ、誰の言うことなら聞くの?」
「……リーナから言われたら、仕方ないか……」
「分かった。リーナと話してみるわ」
アンドレア様は取り巻きを置いて、スタスタと教室から出て行った。
本当に、リーナに言うつもりなのだろうか?
ルール上、俺はリーナの言うことを聞かなくてはならない。一応断れるのだが、明確な拒否理由が必要なのだ。それに、リーナは俺とは違う。
「ねえ、どうしてリーナさんの言うことは聞くの?」
ジールが不思議そうに聞いて来る。
「俺が考えて行動するより、リーナが選択した方が正しいからだ」
リーナは、誰かを救う選択をする。
奪うだけの俺とは違って、リーナは多くを救おうとする。
俺のこの力を利用してでも、たくさんの人達を救い出す。そんな選択が出来るリーナを、俺は信用している。
「じゃあ、今度からリーナさん経由で無理難題をお願いしたらいいんだね」
「ジールは何か頼みたいことでもあるのか?」
「ああ、ごめん。今の冗談だから。適当に流しといてもらえると助かります」
ジールは申し訳なさそうに言いつつ、小さくなっていった。
後日、リーナから呼び出されて、メノウ大会で決闘することが決まった。




