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脳筋忍者はシノビたい  作者: ハマ


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10

 学園で、魔王が復活したという噂が広まるようになった。


 出所はもちろんジールである。


「何を言いふらしている」


「いいじゃない、ただの噂話なんだからさ。いくら何でも、信じる人なんていないって」


 俺は指を刺して、廊下で騒ぐ連中を見せる。


「うおーっ⁉︎ 世界の終わりだー‼︎」

「魔王だ‼︎ 魔王が全てを破壊するんだ⁉︎」

「もう終わりよ⁉︎ 幸せになりたかった。ジール殿下と結婚して臣下を侍らせたかった」

「俺だ! 俺が勇者になるんだ‼︎」


 ああいうのが、学園のそこかしこに存在している。


「あれを見て、信じてないと思うのか?」


「あはは……、楽しそうだよね。この陽気のせいかなぁー……なんかごめん」


 まさかここまで取り乱すとは思っていなかったのだろう。

 俺も思わなかったし、魔王如きで狼狽えるなんて想像もしていなかった。寧ろ、この状況に悪ノリして、楽しんでいるようにも見える。


「いや……悪ノリしているだけだな」


 娯楽の少ない学園では、魔王という存在も、一つのイベントでしかないのかもしれない。

 とはいえ、魔王の復活は事実。

 一体、どのタイミングで公表するのだろうか? そもそも公表するのだろうか? する必要も感じないし、速やかに討伐出来るのなら、事後報告で十分だろう。


「ん? あれってミレイさん?」


「なに?」


 ジールの言葉で教室の扉の方を見ると、ミレイが立っていた。

 それも肩で息をしており、よほど急いで来たのだろう。


 そんなミレイと目が合う。


「ルーク・ストロング! これは一体どういうことだ⁉︎」


 ミレイは怒りの形相を浮かべて、詰め寄って来る。

 その手には一枚の紙が握られており、これが怒りの原因だと察せられる。


「お前は知っていて、私を揶揄いに来たのか⁉︎ 私の目標を知っていて、邪魔しようというのか‼︎」


 押し付けられた手紙は、リンレイ子爵家からの物で、どうやら婚約者変更を告げる内容のようだ。

 それをジールが覗き込んで、内容を口にする。


「なになに、えーと……婚約者変更を知らせる? サモント侯爵嫡男、アスト・サモントとの婚約を破棄し、新たにルーク・ストロングとの婚約を結ぶぅ⁉︎⁉︎ えっ⁉︎ 何これ⁉︎ 本物なの⁉︎⁉︎」


 ジールが読み上げると、クラスメイトは一斉にどよめき始める。


「ルークが婚約⁉︎ あの脳筋ルークが⁉︎」

「万年ドベのルークが⁉︎」

「量産型赤点と呼ばれるルークが婚約だとぉ⁉︎」


 他にもいろんなことを言われているが、量産型赤点とはどういう意味だろうか? 赤点を量産している自覚はあるが、まるで赤点が俺のような呼び方は疑問に思う。


「好き放題言われているけどいいの?」


「よくはないが、反論する余地が見つからない」


 言われている内容の全てに心当たりがあり、否定出来ない。

 みんな、よく見ているものだ。俺も周囲を気に掛けるべきなのだろう。


 そう感心していると、ミレイが俺の胸ぐらを掴む。


「どうしてお前が婚約者になるんだ⁉︎ 何をした‼︎ 私の家に何をした⁉︎」


「待て、待て、待ってくれ、俺も今知った所なんだ」


「……嘘を、嘘を吐くなーーーっ‼︎‼︎‼︎‼︎ ここに、ストロング伯爵家からの申し出がありって書いているだろうがーーーっ‼︎‼︎」


 ぐわんぐわん揺さぶられるが、本当に心当たりが無い。


「悪いが本当に知らない。家の方針は、父上と兄上が決めているだろうから、そっちに聞いてもらった方が確かだ」


「……くっ⁉︎ ルークからも婚約を取り止めるように言ってくれ。私の目標は知っているだろう? 家庭を作っている場合じゃないんだ」


「ロイヤルガードになることだったか? 俺は、邪魔する気は無いぞ。目指したかったら、思う存分目指したらいい。誰が何と言おうと、諦める気はないのだろう?」


「……ああそうだ、その通りだ! 私は諦めるつもりはない。必ずロイヤルガードになる! その為に、私は生きている!」


 ギラついた目。

 その目がとても美しく見えるから不思議だ。


「流石だ。君のその姿は、とても美しく輝いて見える。俺も出来る限りのことはしよう。父上に婚約の件、解消してもらうよう掛け合ってみる」


「あっ、ああ、そっ、そうだな、そうしてもらえると、助かる……」


 声が小さくなるミレイ。

 先ほどと比べて様子がおかしいが、恐らく安堵したからだろう。


 そんなミレイに、ジールが接近して耳打ちする。


「あのミレイさん、やっぱ無しにしたいなら、今しかないですよ」


「なっ⁉︎ 何を言っている⁉︎ たっ頼むぞルーク!」


「ああ、任せろ」


「……うん、頼むな」


 そう告げると、ミレイは去って行った。


 しかし、どうしてミレイと婚約したのだろうか?

 他に婚約者がおり、貴族としての地位もストロング伯爵家よりも上。そのような貴族家との縁談を破棄する理由は何だろうか?

 表面上、俺という存在に価値は無い。

 一度でも力を使えば、国を支配する自信はあるが、それは師匠が定めたルールに抵触する。

 それは許されない。師匠を裏切るような真似は、絶対に出来ない。そもそも、そんなことをしても面白くない。やるだけ無駄だ。価値が無い。

 つまり俺は、表面上通りの価値しかない男だ。


「とにかく、父上と話をしてからだな」


 俺の婚約を決めた父上と話をしなくては、何も改善しない。


「ねえねえルーク」


「なんだジール?」


「ミレイさん、ロイヤルガードになりたいって言ってたけど、前の婚約者は許してたのかな?」


「それは、許していただろう。反対する理由が見当たらない」


「まあ、ルークならそう言うよね……」


 残念そうな視線を俺に送るジール。

 言いたいことがあるのなら、はっきりと言えばいいと思うのだが、残念ながらマグニル先生がやって来たので諦めるしかなかった。




   ◯




 昼食後、廊下を歩いていると上級生が目の前に立ち塞がった。


 彼は、俺と同じようにメガネを掛けており、とても賢く見える。

 しかし、俺よりも身長が低く、こちらを見上げるようにして睨んで来る。

 何か用なのだろうが、睨むだけで何も言って来ない。


 横に避けてみると、俺の正面に立って再び睨んで来る。


 一体、誰だろうか?

 制服の色から三年生なのは分かるのだけれど、一向に名乗ってくれない。それに、何故か関わったらダメなような気がする。


 周囲の生徒からも物珍しそうに見られており、無駄に注目を集めてしまっている。


「すまない、用が無いのなら通して欲しいのだが……」


 それでも、通してもらわないと困るので告げるのだけれど、更に不機嫌そうな顔をする。


「ルーク・ストロングだな?」


「そうだ」


 そう答えると、白い手袋を投げつけられた。

 

「拾え、このアスト・サモントと決闘しろ‼︎」


「断る」


 断られると思っていなかったのか、アストという男は驚いた顔をする。

 その横を通り過ぎて、俺は教室に戻った。

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