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騎士科の演習後、学園はいつも通り運営していた。
ただ、セガール様やアンドレア様達は授業には出ておらず、どこかに行っているようだった。
「何か、空気ピリついてるよね。この前の演習で何かあったの?」
「強力な魔物が現れた以外は、特には無かったな」
「アンドレア様も来てないし、絶対何かあったって。隠してないで教えてよ」
「いや、本当にそれだけなんだ。他に何かあったのなら、それは俺の知らないことだ」
噂話が好きなのか、ジールがやたらと聞いて来る。
だが残念なことに、龍なんたらが現れた以外、特に変わったことはなかった。
しかし、忍者の姿でセガール様達の前に出てしまったな。
俺だとバレていないはずだが、リーナから見破る奴がいると報告も受けている。見られていたらと考えると、俺は軽率な行動を取ったことになる。
いくら助ける為とはいえ、でしゃばり過ぎた。せめて、気を失わせてから、あの魔族を倒すべきだった。
「まだまだ修行が必要だな」
「ん? どうかした?」
「いや、俺は未熟者だと思ってな……」
「あはは、そうだね」
「……」
そうか、ジールからもそう見られるほどに未熟者だったか。
これは精進せねばならんな。
今晩は、修行がてらパトロールを実施しよう。
そう決意していると、授業の時間となり担任のマグニル先生がやって来た。
「授業を始める前に、知らせなければならないことがある。四ヶ月後に予定されていたメノウ大会だが、来月開催に変更された。普通科には、ほとんど関係は無い話ではあるが、参加を計画していた者は準備しておけ。では、授業を始める」
聞きたいことがありそうな人達がいるが、マグニル先生が授業を始めたことで何も聞けなくなってしまった。
きっと、質問されるのが面倒だったのだろう。
メノウ大会とは、メノウ学園の生徒の練度をお披露目するイベントである。
騎士科はトーナメント戦を行い、その強さを示す。
魔術科では生徒達が魔術のお披露目を行い、優秀さをアピールする。
普通科は、残念ながら何も無い。
前までは運営に参加していたようだが、数年前に他国から来た重鎮に無礼を働いてしまう大事件をきっかけに、運営から遠ざけられたそうだ。
まあ、何はともあれ、メノウ学園の大イベントが来月開催される。
授業が終わると、ジールから問われる。
「ルークはトーナメント戦に参加しないの?」
「しないが、どうしてだ?」
「いや、騎士科の人に勝ってるし、ワンチャンあるんじゃない?」
「……あっ」
「えっ? なに、どうしたの?」
「手合わせを申し込まれていたの忘れていた」
そうだ。騎士科の演習の時に、ミレイからもう一度手合わせをとお願いされていた。
あの日、夜にも関わらず帰還を命じられて、ドタバタしていたせいですっかり忘れていた。
「また戦うの⁉︎ 楽しそう、着いて行っていい?」
「何も面白いことは無いぞ」
昼食時にでも尋ねに行ってみよう。
昼時、騎士科の校舎に赴くと、注目を集めてしまう。
普通科と騎士科では制服のデザインが違っており、物珍しくて見て来るのだろう。
「ルーク凄いね、どうしてそんなに堂々としていられるの?」
「何をビクビクしている。知人を訪ねに来ただけなのだから、何の問題も無いだろう」
「いや、明らかに空気がおかしいよ。めっちゃピリピリしてるよ⁉︎」
「騎士科では、これが日常なのだろう」
血気盛んな騎士科だ。日頃から、これくらい殺気立っていないといけないのだろう。
目的の教室に向かっていると、突然男子生徒が立ちはだかる。
「普通科がこんな所で何している? 興味本位で来たのなら後悔することになるぞ」
この男子生徒からは殺気は感じない。
俺達の身を案じての言葉のようだ。
ならば、この人に頼むのもいいだろう。
「失礼、俺はルーク・ストロング。ミレイ・リンレイに用があって来た。取り次いでもらえないだろうか?」
お願いすると、男子生徒は「少し待て」と教室の中に消えて行った。
「ふむ……」
「どうかした?」
「いや、セガール様が戻って来ているようでな……」
「え?」
そう告げた瞬間に、教室の前に立っていた騎士科の生徒が俺達を睨む。
一体どうしたというのだろう。
セガール様の名前を出したのが悪手だったのだろうか?
正直、まったく分からない。
「おい貴様、まさかセガール様に取り入るつもりか?」
「身の程を弁えろ。お前のような普通科が、仲間になれると思うなよ」
「すまない、何を言っているのかさっぱりだ。ジール分かるか?」
「えっ僕⁉︎ 分かんないって⁉︎ ていうか、いきなり振らないでよ⁉︎」
ジールが困惑している。
俺も困惑している。
俺達のやり取りを見ていた騎士科も困惑している。
本当に何があったのだろうか?
気が向いたら、リーナにでも聞いてみるとしよう。
教室の扉が開く。そこにはミレイが立っており、こちらは前に会った時と変化は無い。
「ルークこの前振りだな、そっちの君は?」
「僕、ジールって言います。ルークが一人で行くのが怖いって言うから着いて来ました」
「そんなこと言ってない」
いきなり嘘をつくジール。
面白半分で着いて来たのは分かっているので、余り気にしてはいけない。
「あの日の約束はどうなったのかと思ってな」
「約束?」
「再び手合わせをするという物だ。もう行わないのなら、それでも構わないのだが……」
「ああ⁉︎ 最近忙し過ぎてすっかり忘れていた。私からお願いしたというのに、すまない。是非やらせてもらいたいのだが、メノウ大会に加えて、ゆう……いや、何でもない。とにかくすまない、この埋め合わせは後日行う」
「いや、気にしないでくれ。俺も忘れていたしな」
これで、手合わせの話も無くなってしまった。
騎士科に勝利したことで、集めた注目を解消したかったが、それも時間に任せるしかない。
これでこの話は終わったのだが、噂好きのジールがミレイに話し掛ける。
「あのミレイさん、何だか皆さんピリ付いてますけど……何かありました?」
ジールの問い掛けに、ミレイは作り笑顔を張り付ける。
「それはまだ聞かない方がいい。いずれ知ることになるだろうが、今は時期ではない」
「そこを何とか! 誰にも言いませんから、僕にだけ、少しだけ教えてもらえませんか? あれだったら、情報の交換やります? ロイヤルガードの武王さんなんですけど……あたっ⁉︎ ルーク?」
しつこく食い下がるジールの頭を叩いて、首根っこを掴む。
「すまない、邪魔をした」
「ちょっ⁉︎ 今いい所だったのに⁉︎」
何もいい所は無い。むしろ、周囲に警戒感を抱かせていた。
このままだと、騎士科の生徒達に殴られてもおかしくはなかった。
喚くジールを引き摺って、騎士科の教室を後にする。
「分かった! 分かったから‼︎ ルーク離して!」
校舎を出ると、ジールは大人しくなっていた。
「もう、流石に普通科の人にまで見られてたら、恥ずかし過ぎるよ……」
「騎士科はいいのか?」
「普段は一緒にいないからノーカン。それよりさ、ルークって魔王って信じる?」
「一体どうしたんだ? 信じるも何も無いだろう」
実際に存在しているのだから。
「いや、さっき『魔王が復活した』って言葉が少しだけど聞こえて来たんだ……。もしかして、メノウ大会の開催が早まったのも、これに関わってるのかな?」
いつもはしない深刻な顔をジールは浮かべていた。




