第3章『旅立ちの朝』
寺の住職は、長の家へ向かい、作太がいなくなった事と鬼が何かを伝える。
鬼というは…
『第3章 旅立ちの朝』
朝靄が集落をやわらかく包み、木々の葉に溜まった露が陽に反射して静かに光っている。長の家の囲炉裏の間では、集落の男衆たちがすでに集まっていた。
議題は一つ。作太のことだった。
「作太……芋爺には悪いが、もう戻れねえ。集落のためだ。……死んでもらうしかない」
重たい空気の中、ひとりの男が言葉を搾り出すように言った。誰も反論しない。芋爺でさえも、うつむいたままだ。
住職から伝えられた「人には戻れない」という言葉が、重く心にのしかかっていた。
沈黙の中、芋爺がぽつりと語り出す。
「……みんなに分かってほしいのはの……作太が、確かに“居た”ってことじゃ。
そいで……ワシらが、祖父様たちの教えを軽う見とったってことも、じゃ」
男衆は目を伏せたまま聞いていた。
「……作太は、戻れんと分かったら、自分で死ぬ……たぶんの。そんな気がする」
再び静寂が落ちたその時、入口の引き戸が開き、住職が現れた。
「……作太がいなくなった」
「は……? なんだと!?」
芋爺が目を見開き、立ち上がる。
「恐らく……鬼となり、香山へ戻ったのだ」
「! んな馬鹿な……住職、あんたぁ“3日の猶予”があるって言ったじゃねぇか!」
芋爺の叫びを、住職は静かに受け止める。
「……寺に伝わる話がある。“仏”ではない、“神”の話じゃ」
「神……様?」
「“土地神”じゃ。自然を司る者。仏の鬼とは違う。払うものではなく、“拝むもの”なのじゃ」
ざわつく男衆の声を手で制し、住職は語る。
「仏の鬼は“悪しき者を罰する者”。だが自然の鬼は、“人の手に負えぬもの”その象徴じゃ。
たとえば嵐、山崩れ、日照り……お前たち、その“自然”を止められるか?」
誰一人、答えられない。
「……作太は、我ら人間が“自然を当たり前”としすぎたことへの、報いを背負ったのじゃろう。
あの子は、それを知って……“鬼”となる道を選んだのじゃ」
男衆の表情にはまだ迷いが残る。
「だからこそ、ワシは香山へ向かう。
“人”と“鬼”……“自然”との境界を、はっきりさせるために」
「……し、しかし、自然を抑えるなんて、できるわけが……!」
動揺する声を前に、住職は懐からひとつの石を取り出した。
「この“神石”は、寺に伝わる法具をもとに作られた結界の核じゃ。
きっと、こうなることが昔から予見されていたのだろうな……」
住職はそれを掌に握りしめ、香山の方角をじっと見据えた。
住職は『神石』を手に香山を何かの策がある様に見据え、神石を握る。
神石とは、『神道』として寺に伝えられた神具。住職は何を考えているのか…




