第2話 異言
「……ッ、が、あぁぁぁっ……!」
人間の咽喉が発し得るとは思えぬ呻きとともに、美和と美代が膝から雨にぬかるんだ地面に崩れた。首の骨を折られた操り人形のような落ち方であった。
「美和! 美代!」
高時は土砂降りの中を駆け寄る。濁った泥水が跳ねる。二人は激しい痙攣を繰り返し、背骨を不自然な角度に反らせて泥を跳ね返していた。
「ちょっと、高時さん! 早く立たせて! 服が汚れるでしょう!」
しのぶが声を張り上げる。高時が美和の肩を抱き起こした瞬間、彼は静止した。
稲妻が閃き、泥に塗れた美和の顔を照らす。眼球から黒目が消え、血走った白目だけが露わになっていた。開いた唇の隙間から、泥水とともに重い声が洩れる。
「……あ、あ、……か、へ……オ、オ、……」
言語ではなく、獣の唸り、あるいは地底からのうめき声のようだった。隣で美代も白目を剥き、爪が剥がれそうな力で泥土を掻きむしりながら、姉と同じ重低音でその音を繰り返している。
「な、なんだこれは……! おい、美和! 美代! しっかりしなさい!」
高時が肩を揺さぶると、雷鳴とともに美和の首が不快な骨鳴りを立てて歪んだ。白目が回転し、焦点を欠いた漆黒の瞳が高時を射る。
美和は濡れた髪を皮膚に張りつけたまま、顔を近づけた。
「……お父さん……捨てないで……」
先ほどまでの異音ではなく、甘く湿った美和自身の声であった。だが顔面の筋肉は硬直し、表情は一切ない。
「ひいいっ! なに……なんなのこの子たちは! 気持ち悪い!」
美江子が腰を抜かす。辰夫は顔面を蒼白にして後ずさりした。
「な、何事だ、一体……!」
辰夫は革靴が泥に汚れるのも忘れていた。
次の瞬間、閃光と共に激しい雷鳴が轟き、二人の娘は糸を切られた人形のように泥の中へ突っ伏し、動きを止めた。
雨は沈黙した二人と、暴かれた石祠の跡地を叩き続けた。
高時だけが、冷や汗と雨水に濡れたまま、泥の中で動かなかった。
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