第15話 教会
高時は、藁にもすがる思いで大学院時代の恩師の一人である教授に連絡を取った。かねてより民俗学と宗教史に造詣が深く、自身もキリスト教徒である彼の紹介を経て、東北のとある修道会を訪ねることにした。
教会は意外にも日本家屋だった。高時は建物の正面から入り、靴を脱いで上がった。木造の大きな教室を思わせる聖堂の奥には十字架が上げられ、高い窓から光が差し込んでいた。
高時を待っていたのは、ミカエル神父と名乗る、背の高い痩せた老人だった。神父は高時のやつれ切った顔と、その全身から立ちのぼる黴と泥の臭気を見咎めるなり、深く眉をひそめた。
「神谷さん、あなたを覆っている邪悪な気配は、霊的な存在によってもたらされたものです。……単なる精神的な疲弊や偶然の出来事ではありません」
高時は告白室の薄暗がりの中で、これまで誰にも打ち明けられず、心の内に溜め込んでいた苦悩を順に吐露していった。
山裾の土地開発と二つの石祠の解体、地鎮祭での土砂降りと娘たちの錯乱、妻しのぶの不貞と謎めいた事故、娘たちにより削り取られたアルバム、二階から降りてきて自分に襲い掛かってきた何か、そして泥で汚され文字が滲んだお札——。
「旧家の歴史と土地の破壊によって解き放たれた悪魔が、ご家族の抱える歪みを触媒として引き寄せられたのでしょう」
ミカエル神父はギラリとした大きな目を光らせ、胸元の銀の十字架にそっと手を触れた。そして静かな、しかし確信に満ちた声で語りかけた。
「一刻の猶予も許されません。すぐにエクソシスムを執り行うべきです。明日、あなたのご自宅に伺います。祈りなさい。悪しきものが去れば、お嬢さんたちも元の清らかな心を取り戻すはずです」
鷹を思わせる顔立ちの老神父の力強い言葉に、高時は深く安堵の息を吐いた。
(そうだ、すべては悪霊のせいなのだ。娘たちが自分に向けるあの歪んだ執着は、すべては祠と神社を取り壊した祟りと憑依のせいなのだ——)
高時は自分に何度も言い聞かせた。




