第48話 噴水山
馬車に揺られ続けて、早いものでもう3日目。
「ふわーぁ……」
俺は間抜けにも生あくびをする。
うーん、異世界は携帯できる娯楽が無いから退屈だな。スマホやゲームボーイとまでは言わないけれど、せめてトランプぐらいは欲しかったな。
女性陣をちらりと見ると、ルリカはダリアの膝を枕にして寝ていた。ダリアはそのルリカの頭を机代わりにして本を読んでいる。
「……何を読んでいるんだ?」
「ルリカの日記です」
「あ、そう」
人の日記を読んでいいのか? 許可貰ったのか? 膝枕の代金か? などと思考を張り巡らせるが、こんなことじゃ数分も時間を潰せない。
「なあレオニック。王都ってあとどのくらいで着きそう?」
俺は今度は横に座っているレオニックに話しかけた。レオニックは新しい魔法道具を思いついたとかでここ数日ずっとメモを取り続けている。
「あん? あー、もうそろそろ見えてくるんじゃねえか?」
レオニックはこちらに一瞥をくれると再びメモにペンを走らせ始める。
何という塩対応。これは暗に邪魔するなと言ってますね。
やれやれ、じゃあ俺はその言葉を信じて窓から景色でも眺めますか。……ちょっと寂しいからシルバと一緒に。
「わー、凄い草原。ここを散歩したら楽しそうだなあ」
「わん」
「あの流れる雲、魚みたいな形で美味しそうだなあ」
「わん」
「お、凄い立派な山が見えてきたぞ。あの山なんだろうなあ」
「わん」
はあ、やっぱり犬って人間の友だわ。俺の中身のない会話にも律義に答えてくれる。世の中の人々は値段が安いからといってハムスターで妥協せずに犬を飼うべきだな、うん。
それにしても、立派な山だ。他の景色は見えないのに山だけ浮かび上がっている辺り、相当デカいようだ。経常的にはまるで富士山のようにも見えるが、もしかして火山なのだろうか。
「ありゃあタルタラ山だ。この大陸一の噴水山だな」
窓に張り付いていた俺の頭にレオニックが乗っかってくる。そして頭の上から外を覗き説明を始めた。
「もう用事は終わったのか?」
「犬と会話するお前が可哀想だからよ。丁度一区切りついたしな。……それよりもあれが見えてきたってことは王都が近いってことだ。流石に山は100年前と変わらねえな」
レオニックの言葉を聞いて、再度山に視線を戻す。見た目は普通の山だが、さっき妙なことを口走っていたような。
「……さっき、噴水山、って言ったか?」
「ああ、大陸一のな」
「名前からすると水を噴くのか?」
「はあ?」
俺としては至極普通の質問をしたつもりだったのだが、何言ってんだこいつというような声が返ってきた。
「ミナト様、噴水山を知らないのですか?」
「あ、ああ。有名なのか?」
「有名も何も、数年に一回水を噴き上げてるじゃねえか。大量の水が空を覆い、3日は大陸中が薄暗くなるだろ」
なんてこった、こっちの世界では常識だったのか。異世界初心者で済みません、てっきり中世ヨーロッパに毛が生えたもんだと思ってました。
「まあ、大陸の端っこだったら知らない可能性もあるが……」
「そ、そうそう。実家が結構遠いんだよなー。愛知県ってところだ、知ってるか?」
「アイチケン? ……初耳だな」
俺はとりあえず適当に誤魔化す。流石に異世界出身ですと言うのは話が長くなりそうなので、遠い街の出身という事にしておこう。
レオニックは怪訝そうな表情を見せるが、一応納得したようで説明を続ける。
「あの山は大陸のほぼ中心に位置してんだ。定期的に噴き上げる水だけじゃなく湧き水も豊富で、この大陸の川は全てあの山が水源と言っても良い」
「へえ、凄いんだな」
「凄いなんてもんじゃねえ、人類の命の源そのものだ。昔はあの山を巡って戦争が起きてたんだぜ? オレがまだ人間だった頃もな」
「今は戦争も終わり、あの山は人類の共有財産という事で中立地帯になっています。各方面に流れ込む河川を王国、帝国、聖教国で分け合う形ですね。ちなみに先述の3国は同盟を締結したのでしばらくは戦争は無いかと」
「ほう、今はそうなってんのか。なかなか詳しいな、小娘」
「中学校を出ていますので」
ふーむ、なるほど。対して興味はなかったがこの世界の知識が増えたな。魔法がある以外は地球の常識が通用するかと思っていたけど、一筋縄ではいかないってことだな。
……でも、やっぱり異世界はそうじゃなくっちゃな。人生にはやはり多少のロマンが無いと。
冒険者って危険なだけでつまらないと思っていたけど、ファンタジー感を出されるとちょっとだけやる気が出てしまう。俺もルリカのように単純なのかもしれないな。
「よし、王都も近づいてきたし元気が出てきたぞ! それで、肝心の王都はまだ見えないのか?」
「もうすぐ見えるぜ。噴水山も知らないなら、きっと王都を見ても驚くと思うぜ?」
レオニックは馬車に乗った時と同じように意味深な言葉を口にする。だが俺の気持ちはその時とは違い、ついつい期待感が高まってしまうのであった。




