第49話 マンハッタン
「……! 見えてきたぞ、あれが王都か?」
窓を眺めながら到着の時を今か今かと待ち続けて、更に1時間ほど。ついに俺たちの目的地が見えてきたようだ。
遠くに見えるのは密集した建物たち。以外にも城塞都市ではない様だが、国の中央だと攻め込まれる心配もないという事だろうか?
……だが、遠くから見る限りは普通の都市って感じだな。立派な城壁に囲まれていた分、前の街の方がインパクトは凄かった。
「お、やっとか。王都もあんまり変わってないみたいだな」
レオニックもメモをお腹にしまい込み、再度俺の頭越しに窓を覗き込む。
「でも、何が凄いんだ? 見ればわかるって言ってたけど」
「それはもう少し近づいてからだな」
なるほど、遠景ではわからないのか。視界に映ったとはいえこの馬車の速さだと30分はかかりそうだし、もう少しゆっくり景色を楽しむか。
「ん? 橋が見えてきた。もしかして王都は向こう岸なのか」
「まあ、近いな」
更に街が近づいてくると、俺たちと街の間に立派な橋が架かっていることに気付いた。どうやら馬車はこのまま橋を通り抜けるようだ。
俺は何が凄いのだろうとずっと外を眺め続けたが、結局それ以上は驚かせるようなものは視界に映らなかった。気になったことと言えば川幅が広く目算5キロはあったことぐらいだが、日本ならともかく異世界という事を考慮すればそんなに驚くようなほどでもない。
そうこうしているうちに馬車は既に街の中だ。街の中は立派で綺麗ではあるが、普通の街という範疇からは逸脱しないレベルだな。
「お客さん、到着ですぜーっ!」
「あ、はーい!」
諦めきれずに外を眺め続けていたが、御者のタイムアップの声が聞こえてきた。
……結局、拍子抜けだな。噴水山のことを聞いた時がテンションのピークだった。
「ルリカ、起きてください」
「んげっ! ……ちょっとー、もっと優しく起こしなさいよ!」
ダリアはルリカのこめかみにチョップを落とすと、ボールがバウンドするようにルリカが飛び起きた。……ちょっとかわいそう。
「それで、どうだったよ? びっくりしただろ?」
「んー、川が広いのは凄いと思ったけど……」
俺は降りるためにバッグを背負うと、レオニックを肩に装備する。レオニックは俺にどや顔で問いかけてきたが素直な感想を言っておこう。
「ふん、気付かなかったのか? この街は陸地と繋がってないんだぜ?」
「え? もしかして島って事か? てっきり川だと思った」
「島じゃねえ、中洲だ。この街は超巨大な中洲の上にできてるんだ。川に挟まれた大都市、それが王都の正体だ」
「……マンハッタンみたいなものか」
「あん? 何だそりゃ?」
レオニックのいう事が正しいとすれば、確かに珍しい話だ。だけど日本ならともかく海外なら結構ありがちな話でもある。
「……あんまり驚かねーんだな。拍子抜けだぜ」
噴水山と違って俺の反応が鈍かったため、レオニックはつまらなそうな顔をする。期待に応えられず申し訳ない限りだ。
「よーし、それじゃあ早速拠点探しね! えいえいおーっ!」
全員馬車から降り立つと、ばっちり睡眠をとって休養十分なルリカが張り切った声を出す。チョップのおかげで目も覚めているようだ。
「そうは言ってもな。こういうのは気合入れたところでどうしようもないぞ。ゆっくり探すしかないんじゃないか?」
「何よー、テンション低いわね。ゆっくりでもスピーディーでも早く始めた方が良いに決まってるじゃない」
ぐぬぬ、ルリカに論破されてしまった。まあ確かに世の中早い者勝ちではあるけど。
「おいおいお前ら、オレの話を聞いてなかったのか? 拠点についてこのレオニック様に任せておきな」
「当てがあるのか? 100年前の事しか知らないんだろ?」
「……失礼な奴だ。まー別にオレもコネがあるとか土地勘があるとかそう言う意味で言ってるわけじゃねえ。拠点としては島が最適だって話をしたいだけだ」
「島……?」
「ああ、島だ。正確には中洲だがな。この街は実は川の真ん中にあるって言ったろ? この巨大な川の流域にはここ以外にもたくさんの小さい中洲があって、売りに出してんだよ」
「いいわねー、島! 自分の領土って感じで! 私、自分の土地を持つのに憧れていたのよね~。しかも島なんて、なんだかオシャレ!」
ルリカはレオニックの提案に同意のようだ。勝手に1人舞い上がっている。
「よーし、そうと決まれば早速ルリカ島を買いに行くわよ!」
「おい、勝手に名前を付けるな! ……じゃなかった、そうは言ってもお金の問題があるだろ! しばらく生活するのには困らない程の貯えはあるけど、拠点を手に入れるとなったらまた別の話だ」
俺が今まで異世界で生活してきた経験から言うと、物価は多少の上下はあるものの日本とほぼ変わらないという印象だ。家を買うにしても4桁万イェンは間違いなく必要だろう。
それに対して俺の今の所持金はお嬢様救出の報酬の余りが100万イェン程度。ちょっとどころじゃないぐらい不足している。恐らくルリカたちも大差は無いはずだ。
「そういう時はギルドよ。冒険者ローンを借りるしかないわ」
「え? ローン組めるの?」
「当たり前じゃない、駆け出し冒険者の為にちゃんと制度があるんだから。まずはそこに向かいましょ!」
まさかローンの制度まであるとは。異世界、恐れ入った。
俺はルリカについて行くしかないと悟り、陽気に歩き出す彼女の後を追うことにした。




