第46話 次なる街へ
「くーっ! 何なのよもうっ!」
ある日の朝、俺やダリアが朝食の準備をしているというのに手伝う素振りも見せずルリカが憤慨していた。
「どうした、朝っぱらから?」
「どうしたもこうしたもないわよ! あれから一週間この街で情報集めしてるけど碌な手がかりないじゃない!」
早いもので伯爵令嬢フェルナ様を助けてからもう一週間だ。あれ以降俺たちは当初の目的である、ルリカとダリアのカード化を解除する魔法道具を探していたが、確かに彼女の言う通り進展は全くなかった。
「その女じゃねーが、オレもそろそろ限界だぜ。こんなボロ小屋じゃ森の中で引きこもってた時と何も変わらないぜ?」
部屋の隅っこで小さな机に実験道具を広げていたレオニックもこちらを見ながら苦言を呈する。確かに元々の約束は良質な実験環境を提供するという話だったけど、現状は机1つしか準備できていない。
「お2人とも、朝からぷりぷりするのは精神衛生上良くないかと。まずは朝食を食べましょう」
「そうだな。俺もこのままじゃ良くないと思ってたし、食べながら今後について話しよう」
黒いパンと安物のハーブティーが4つテーブルに並ぶと、ささやかな朝食の完成だ。準備を終えた俺とダリアも席につくとまずは食事の時間となった。
「それで、これからどうするって言うのよ?」
「それだけど、流石にこの街で出来ることは無くなってきたし、そろそろ別の場所に行こうと思うんだが……」
「賛成! 冒険者たるもの、一か所に留まっていてはいけないわ!」
ルリカがパンを噛みちぎりながら、俺の言葉に同調する。ダリアも無言でこちらを見ているし、まあ同意見ってことだろう。
「オレもこの街を出ることには賛成だが、旅を続けるのは反対だな。根無し草じゃ腰を据えて実験に取り組めねーからな」
「うーん、俺も冒険者として旅を続けたいわけじゃないし、そろそろ拠点のことも考えるかな」
「ちょっと、拠点ってどういう事よ! 美少女2人を侍らせて穏やかに過ごしました、めでたしめでたし……なんて、私が認めないわよ!」
ここでレオニックとルリカの意見が食い違ってきた。まあ2人の目標は別方向なので当然と言えば当然なのだが。
しかし、やはりここはリーダーとして決断すべきだ。優柔不断な日本人の殻を破り、俺は今、異世界人としての第一歩を踏み出す。
「まあ聞いてくれ、俺の考えはこうだ。まずはレオニックの満足する環境、つまりは実験室付きの建物を確保する。そして足元を安定させた後に、拠点を中心に各地に赴き魔法道具を探す」
シンプルながらも単純な作戦。名付けて『お前らの頼み順番に叶えてやるよ作戦』だ。
約束を忘れたわけでは無いという事が分かればルリカも納得するだろうという考えだ。ルリカを優先したところで、結局のところいつ目当てのモノが手に入るか分からないわけだし。
「……わかったわよ。まずはそうしましょ」
明らかに不満そうな顔をしながらも、とりあえずはルリカも従うことにしたようだ。
「それで、拠点はどこに作るんだ? 辺鄙なところだと情報も集まらねーぞ?」
「ああ、次の目的地は王都にしようと思ってる。俺は行ったことないけど、この街より大きい所はあとはそこぐらいらしいし、王国の中心だから各地の情報も集まってくるはずだ」
「ほう、良いんじゃねーか? 100年以上ぶりだが良い所だぜ、あそこは」
どうやらレオニックも賛成のようだ。一度行ったことあるらしく、遠い目をしている。
とにかくうるさい奴らからの賛同は得られたという事で、一件落着だ。
そうと決まれば善は急げだ。この小屋の鍵を伯爵家に返して早速旅立つとしよう。
*
「あっ! おはようございます、ミナト様」
「おはよう、フェルナお嬢様。マクシムさんも」
何度目かの立派なお屋敷を訪れると、お嬢様と執事さんが庭の手入れをしているところだったようだ。名前は知らないけど色とりどりの花が朝日を浴びて輝いている。
俺は挨拶もそこそこに、この街を出ていく旨を説明する。
「ミナト様、また旅立たれるのですね。少し寂しくなります……」
「き、きっとまた会えるさ」
この前の彼女の父親とのやり取りを思い出して、なんとなく意識してしまう。……ええい、未練がましいぞミナト。男に二言はない、しっかり気持ちを切り替えなければ。
「ではミナト様、確かに鍵は預かりました。重ね重ねしつこいと思われましょうが、この度の件本当に感謝しております」
「ありがとうございました、ミナト様! どうかお気をつけて!」
「ああ、また困ったら呼んでくれ。いつでもお嬢様を助けに来るよ」
俺は照れを隠しつつ、別れの挨拶を済ませる。
見えなくなるまで手を振るお嬢様と頭を下げ続ける執事を背中に感じながら俺たちはその場を後にした。
「何よ今のセリフ。ちょっとクサすぎるわよ」
「い、良いだろ別に」
確かに自分でもちょっとカッコつけてしまったかな、とは思ったけども。たまにはいいじゃないか、そうそう人を助けることなんてないんだから。
「オレは悪くないと思うぜ? カッコつけるだけのことはしたんだからな」
「その通りです。ミナト様、立派でした」
「そ、そうかな……? はは、なんかそんなに褒められるとむず痒いな」
ルリカ以外の2人は手放しでほめてくれたので、それはそれで居心地が悪いな。つい頬を掻いてしまう。
「な、何よそれ! 私が性格悪い女みたいじゃない!」
「……それは既に周知の事実だけど」
「くーっ! 覚えてなさい、必ずあんたにいい女だと思わせて見せるわ!」
果たしてそれはいつになるのか。期待しないで待っているとだけ答えると、話を切り上げる。
さあ、今度は王都だ。またいろいろやっていかないとな。




