第45話 決断
再び領主カイゼルの下を訪れた俺は、まったく想像していなかった言葉を投げかけられたのだった。
「今、なんと仰いましたか?」
いやいや、もしかしたら聞き間違いかもしれない。俺は念を入れて再確認する。
「……私も若い頃、身の程も知らずに冒険者に憧れたことがある」
え、俺の質問無視? なんか語りが始まったんですが。
「だがすぐに自分に冒険の才能がないことに気付き、この家を継いだのだ。……嫉妬もあったのだろうな、私がなれなかった冒険者として活躍し、あまつさえ我が娘の羨望を得るお前たちに」
「はぁ」
「血は争えないという事だろうな。今回のお前たちの活躍を聞いて、私の胸も久方ぶりに高鳴った。いまだにどこかで憧れを抱いているのだろう。己が実力のみで人生を切り開く、冒険者という職業にな」
ゆっくりと語りを終えると目を閉じて大きく息を吐き、再度真っ直ぐ俺を見る。
「私も二度娘を助けられて尚、君たちを邪険にするほど腐ってはいない。どうか、娘をよろしく頼む」
「い、いや、突然そんなこと言われても……」
好意的に見られているのはありがたいけど、こっちは寝耳に水の話だ。何と返事すればよいのか……。
「いいじゃねえか、OKすりゃ。オレから見てもなかなか上玉だったぜ? 金も総取りだし一石二鳥だ」
俺の左肩の上で悪魔が囁いている。残念ながら俺には反対意見を言ってくれる天使はいない、非常にピンチだ。
「ちょっとミナト、そんなの断固ノーよ! まだ旅は始まったばかりでしょうが! 私を奴隷にしたまま他の女とまぐわうなんて許さないわよ!」
……そうだ、俺には天使はいないが悪魔よりヤバい奴らがいたんだった。
ルリカは当然反対意見のようだ。まあ彼女はカード化を解除する魔法を探しているので当然と言えば当然か。
「ダリアはどう思う? 一応意見を聞かせてくれ」
「私はどちらでも……」
あっ、あんまり興味なさげ。
まあ自分のことだし、自分で決めるしかないな。俺の判断は……。
「済みません、嬉しいお言葉ですけどお断りさせてください」
「……! ミナトっ」
「な、何だと……?」
俺自身の目標は冒険者として大成することではなく、この異世界でただ平和にスローライフを満喫したいだけだけど。
成り行きとはいえ2人強制的に奴隷状態にしてしまってるわけだし、責任はとらないとな。当面の目標は2人の開放、ゆっくりするのはそれからだ。
「……わが娘では不服と申すか?」
「いえ、そういう訳では……。ただ、俺にはやることがありますので」
「ふん、冗談だ。このカイゼルの頼みを断る青年に意地悪をしたかっただけだ。……お前たちの考えはわかった、ならば私もただの一依頼者として、適性な報酬をもって答えよう。マクシム、あれを」
「はっ。こちらが今回の依頼の報酬でございます。ミナト様、お受け取り下さい」
カイゼルの言葉を聞いて、執事さんが前もって用意してあっただろう包みを差し出してきた。
受け取るとなかなかずっしりとしている。下品な話だが中身の方もなかなか期待できそうだ。
「……謹んでお受け取り致します。カイゼル様、ではこれで」
「ああ。本当に感謝しているぞ、勇敢な冒険者よ」
報酬を貰った歓喜の表情を隠しつつ頭を下げると、静かに部屋を去る。
やれやれ、これで今回も無事仕事が終わったな。
*
俺たちは屋敷を出ると、一旦森の近くの小屋に戻ることにした。
いろいろとごたごたに巻き込まれたが、元々は魔法道具を探す旅の途中だ。明日からはまたお金を稼ぎつつ情報収集だな。
「んふふふー♪」
……なんだか妙にご機嫌な奴がいるな。鼻歌まで歌って。そんなに報酬が嬉しかったのか?
まあわからないでもないけどな。俺が両手に抱えている包みの重さは、ずっと持っていると筋肉痛レベルの重量だ。大金を貰って喜ばない者がいるだろうか。いや、いない。
「……そんなに嬉しいなら代わりに持ってくれないか? 結構重たいんだが」
「え? やだ、別にお金が嬉しい訳じゃないわよ~。好きなのは間違いないけどね」
「……?」
機嫌がいい隙に肉体労働を押し付けようとしたが、さらりと躱される。
それはしょうがないとして、ならばなぜこんなに機嫌がいいのか。ルリカにお金以外に喜びそうなことがあるのだろうか。いや、ない。
「……なんかその女、今日は気持ち悪くねーか? 目に毒だからカードに入れとけよ」
「気持ち悪いって何よ! ふん、あんたの提案が通らなかったからって私に当てつけしないでくれる? 残念だったわね、ミナトはお金持ちのお嬢様よりも私を選んだのよ!」
「え?」
レオニックの言葉にルリカが反論するが、最後に妙な言葉が聞こえてきた。
もしかして、さっきのお屋敷でのことを言っているのだろうか。
「おいルリカ、さっきのは……」
「いいっていいって、何も言わなくてもわかってるわよ♪ ふふ、これからも頼むわよ、ミナト」
俺の言葉を遮り、なんと手を腕に組んでくる。完全に御機嫌が有頂天のようだ。
……まあいいか。機嫌が悪いよりかは。
俺は腕を組まれたことにより報酬の重みが更に腕に利いてきていたが、それをおくびにも出さずそのまま歩き続けることにした。




