第44話 報酬
「お、お嬢様っ!」
伯爵家の娘、フェルナお嬢様を救出した俺たちは盗賊のアジトから出たところで執事さんに出会った。
隠れて待っている予定だったはずだが、きっとお嬢様が心配で居ても立ってもいられず近くに寄っていたのだろう。
「爺や!」
「ああ、フェルナお嬢様、よくぞ御無事で……! このマクシム、本当に心配しておりました」
「心配かけてごめんなさい」
こうして執事さんとのやり取りを眺めるのは2度目だ。だがこのタイミングでついに名前を知ることができたので頭の片隅にしまっておこう。呼ぶ機会が来るかどうかは別にして。
「ミナト様も、本当にありがとうございました。何と申し上げてよいか、感謝の言葉もございません!」
「ま、良いってことね。私たちにかかればラクショーよ、ラクショー」
「……お前今回何かしたか?」
何故か俺の代わりにルリカが答えるが、まあ良しとしよう。
「ささ、フェルナ様。ミナト様も。馬車の用意は済んでおります。日が暮れる前に帰りましょう」
「ありがとう、執事さん」
俺たちは体を休めるためにさっと馬車に乗り込むと、赤く燃え盛るアジトを背に街へと帰ることにした。
*
翌日。
「まさかあんな雑魚どもが賞金首だったなんてね。思わぬ臨時収入だわ」
「……たった20万イェンだけどな」
俺たちはまずギルドを訪れ盗賊たちの捕縛報酬を受け取っていた。
ちなみにその盗賊たちは、2人はスライム状でバケツに入っており、残り2人は生首状態だったのでギルドの人もびっくりしていた。
「じゃあ早速山分けね♪」
「何言ってんだ。はい、レオニック。足りないかもしれないけど受け取ってくれ」
「あん? お前が手に入れた金だろ?」
「いや、今回は本当に助けられたしな。解体剣もそうだけど、最後に起死回生の一撃を食らわせることができたのもレオニックのおかげだ」
「……そうか、それじゃあ魔法道具のレンタル料として貰っておくぜ」
相変わらず俺の肩の上にいるレオニックは、お金を受け取るとお腹の中にしまい込んだ。
偶然一緒に行動しているが、この才能は間違いなく有用だ。助けられたのも紛れもない事実だし、余裕があるうちに信頼関係を築いておくのは間違いじゃないはずだ。
「な、なんで私と扱いが違うのよ! 私が一番の古株よ!」
「皆半年未満の付き合いだし大差ないだろ。それに今回何もしてないし」
「ちゃんとナイフを貸したじゃない! 光る奴!」
「あれはマイナスポイントだろ……」
「く~っ! く~っ!」
怒りのあまり言葉を忘れてしまったルリカ。仕方ない、執事さんから貰う報酬は山分けにするか。
心寂しい異世界の旅に付き合ってくれるだけでもありがたい話だしな。半強制だとか自業自得だとか、そう言う話は抜きにして。
*
「おはようございます、マクシムさん」
「これはこれはミナト様。おはようございます」
俺は街一番のお屋敷にたどり着くと早速執事さんを見つけたので、覚えたての名前を呼んで挨拶をする。
執事さんも俺を待ち構えていたようで、すぐに深々と挨拶して出迎えてくれた。
「グッドもーにん、執事さん! それにしてもいい天気ね、報酬の話でもしたくなっちゃうわ」
……会話下手か! 何だその切り出し方!
とは言え、目的はルリカの言う通り報酬の話だ。やっぱりこういうところはちゃんとしておかないとな。
「そのことなのですが……。実は旦那様がまたお会いしたいと」
「え~? またあいつと話すの? なんか苦手なのよね」
「こら、あいつとか言うな! ……マクシムさん、案内をお願いしてもいいですか?」
「はい、こちらへ」
旦那様……つまり、伯爵家の当主カイゼル様。
冒険者嫌いという事で前回は碌な扱いを受けていなかったが、今回はもうちょっと歓待してくれると良いのだけど。
「もしかして報酬はやれないとか言い出すんじゃないかしら? そうなったらやるしかないわよ、ミナト!」
「何をだよ。あくまで平和的解決を望むぞ俺は」
なんだかんだ娘を2回も救出しているわけだし、そう無下にはしないと思うが。とはいえルリカの言う悪い想像をしてしまうのも事実だな。
考え事をしていても始まらない。マクシムさんが扉を開くのを合図に、俺は小さくゴホンと席をして覚悟を決めることにした。
部屋に入ると、男が1人窓を無言で眺めていた。暗めの部屋に光が差し込み床にシルエットを作っている。
「……旦那様、ミナト様をお連れしました」
「うむ、ご苦労。下がっているがいい」
「はっ」
執事は入ってきた重厚な扉を再び開き、足音もなく部屋を去っていく。その場には俺たち一行と領主カイゼルだけが残された。フェルナお嬢様は外しているようだな。
カイゼルはもったい付けてゆっくりと振り返ると、無言で俺の顔を見る。くそう、負けないぞ。俺が先に目をそらしてなるものか。
「……成る程。先日は気付かなかったがなかなかいい目をしているな。我が娘に相応しいやも知れぬな」
「へ?」
開口一番、俺の耳には予期せぬ言葉が届いたのだった。




